長年慣れ親しんだ名字を変えたくない、改姓に伴う手続きが大変など、結婚に伴う改姓に頭を悩ませる女性も多い。

【映像】窓口で言い渡されたまさかの一言

 ニュース番組『わたしとニュース』では、3度目の結婚を機に名字を変えようとして直面した経験を本にした漫画家の鳥飼茜氏をゲストに迎え、イラストエッセイストの犬山紙子氏とともに、日本の結婚制度について深掘りした。

■「何時代の罰だよ」2年間放置した許可書が無効に…法律変更の壁

 『今世紀最大の理不尽 それでも結婚がしたかった』の著者である鳥飼氏は、文字通り、結婚における大きな理不尽と向き合ってきた。27歳の時に結婚するも、子どもが2歳になる頃に離婚。

「国民健康保険、年金、パスポート、銀行口座、クレジットカード、各種団体保険ほか。苦労して変えたものを一から全部戻していくなんて何時代の罰だよと思っていた」(鳥飼氏)

 結婚を機に変えた名字を離婚で戻す際、また同じ手続きに労力を費やす必要があるという現実と向き合った鳥飼氏。子どもとのつながりや変えないことの利便性を考慮した結果、別れた夫の名字のまま暮らす結論に至った。そして2018年に再婚。2人目の夫の名字に変えたものの、3年ほどで離婚。この時は共同で購入した不動産の問題などがあり、すぐには名字を変えられなかったという。

 その後、2人目の夫の名字でいることに壮絶な違和感を覚えるようになり、改姓を決意。しかし、離婚から3カ月を超えると家庭裁判所に申し立て、裁判官の審理を受ける必要があった。手続きに数カ月を要し、ようやく名字の変更を許可する審判確定証明書を手にした。

「その時の達成感はすごかった。ようやく新しい人生が始まった。というか、私のそもそもの人生が戻ってきたと思った。それくらい歓喜したのに、私はこの通知書を2年もの間放置してしまっていた」(鳥飼氏)

 この証明書があれば、いつでも戸籍上の名字を変えられると考えていた鳥飼氏。改姓のさまざまな手続きが面倒すぎる経験から、実際の変更を後回しにしてしまったという。

 そして2025年、3度目の結婚を考えた時に、次は事実婚にしようと決意。このタイミングで家庭裁判所から認められた名字に変更しようと、証明書を手に区役所の窓口を訪れたが、衝撃的な言葉を告げられる。

「大変申し上げにくいのですが、今日から法律が変わりまして、この書類は受け付けられません……」(区役所職員)

 鳥飼氏が窓口を訪れたその日から、区役所に届ける書類の一切に自分の名字にはふりがなが記載されている必要があるという新しい法律が施行されており、許可書が無効になってしまった。仕方なく一から改めて取り直した許可書は、確かに「ふりがな」の記述が増えたが、他は無効になった許可書と変わらない内容だ。

 結婚の手続きの中で、名字の変更に関して右往左往する状況について、犬山氏は「そもそも別姓を選べたら必要ないことが問題」と指摘する。

 これに鳥飼氏は「本当にその時に思いましたね。元々ものすごくややこしい仕組みになっているし。何で2年も放置していたんだと思われるかもしれないが、そもそも名字を自分の好きなものに戻せる、変えられる自由が欲しかったという気持ちが大きくて。許可が得られたことで、ちょっと落ちついてしまったこともあり、すぐに持って行こうとは思いながらも、いろいろな名義変更もあり大変だった。持ち家を元の相手とどうするか、それを売る、今度別の家を買うとなると登記などでどのタイミングで名字を変えるべきかがわからなくなってしまう。それが難しかったのと、仕事も…といろいろやることがあり2年経ってしまった」と振り返った。

■改姓の94%が女性…名義変更は「大変の極み」と「社会から浮く」恐怖

 海外では選択的夫婦別姓が多い中、日本だけが結婚で夫か妻のどちらかが名字を変えないといけない状況にある。実際に名字を変えたのは女性側がおよそ94%(2024年時点)と非常に高い割合となっている。

「体感としても94%くらいだろうなと思う。最近、Xで海外の言葉を日本語に訳されて流れてくるようになって、海外の方が新鮮に、日本が姓を選べないことに驚かれているポストなども目にした」(犬山氏)

 結婚で姓を変えるとなると、あらゆる名義変更が必要になり、1カ所行けば全て済むわけではない。実際に経験した犬山氏も「もう見るだけで嫌。1カ所行けばそれで全部パッと済むのではない。いろいろなところに行って…。全部できているかどうか、いまだに謎」と苦労をにじませる。

 2度の離婚を経験し、その都度名字を変えたり戻したりといった手続きを1人でこなしてきた鳥飼氏も、名義変更の負担について次のように語る。

「もう大変の極み。1回目にその時の夫の名字に変えて。2回目も変えて。それを戻してと人より多くいろいろな手続きをしないといけない。自分で選んだとはいえ、結局動き回っていたのは私だけなので、ちょっと違和感は感じていた」

 こうした女性側に偏った名義変更に過度な負担を感じていた鳥飼氏。許可書が無効になり、また一から家庭裁判所に名字変更を申し立てる大変さを考えた際、「今のパートナーの苗字に変える法律婚にした方がまだ楽なのではないか」と思ったという。

「婚姻届を出せば終わりなんですよ。どうせ結婚するんだし、これまでも夫に合わせて苗字をみんなと同じように変えてきたし、それを今回もなぜできないの?と聞かれると、それは愛しているからとか愛していないからではない。法律に私が過剰に歯向かっているような気がしてしまった。すんなり次の名字に変えないで、元の名字に戻そうと動いていることが、社会から浮いているような気がしてすごく怖いと思った」

 国の制度に対して、どう気持ちの整理をつけていくのか。犬山氏も複雑な心境を明かす。

「私自身は夫の名字をすごくかっこいいと思っていて、夫の名苗字になりたいと思ってなったけれど、やっぱり作業は面倒臭いと思いながら名義変更をやった」

「娘が今の名字を気に入っていると言っているが、もし将来結婚する時に、94%の女性が変えている中だと彼女も苦労するのかなという気持ちもある。また、結婚は“お得パック”のような側面もある。扶養制度や相続が受けられるなど、打算的な視点で結婚することを決めた。しかし、そこにはすごく罪悪感があって、私は法律に乗れたけど、同性同士はそこに乗れない。そして、自分の名字をお互いそのまま残したいカップルは選べない理不尽さの罪悪感はある」

■「定量化できない」アイデンティティのぶつかり合い

 日本の結婚制度のアップデートを願う鳥飼氏は次のように語る。

「今、結婚制度が取り沙汰されている中、本を書いたことでゲストとして呼んでいただくことが多いのはありがたい。ただ、私は本の中でも、どっちの家系を残すか、墓をどうするかなど家制度のことにはあまり触れるつもりは無い。それは、名字はアイデンティティーの問題の一環であることに後で気づいたからその事を書いている」

 「最近『2年放置しておける程度のアイデンティティーって?』というアンチ意見があった。その時につい『わかる!』と思った。本来アイデンティティーは定量化できるものではなく、どっちの方が多い少ないではない。でも発言者にはその(アイデンティティーに多寡があるという)感覚があるのだろうし、私にもあった。アイデンティティーはみんなに元々あって絶対に消えないもの。ただ、ほとんどの人は貴族ではないから、名字なんてそんなに気にしない。私も結婚前の名字が変わっているとはいえ、特に由緒正しいわけではない。だから普段から自分のアイデンティティーが相手のアイデンティティーに勝るなんて思いもしなかった。二度の経験から結婚というのはアイデンティティーのぶつかり合いなのだなと強く実感した」として、本来は誰にとっても貴重なアイデンティティーを、結婚でどちらか一方が譲らなければいけない局面が法律により必須となっている現状についての違和感を語った。

(『わたしとニュース』より)