秋元康の“過剰な”企画力はどちらに転ぶか 『10回切って倒れない木はない』への期待
稀代のヒットメーカー秋元康が企画したドラマ『10回切って倒れない木はない』(日本テレビ系)は韓国のことわざをタイトルにしたラブストーリーだ。23年ぶりに再会したキム・ミンソク/青木照(志尊淳)と河瀬桃子(仁村紗和)を繋ぐのが「10回切って倒れない木はない」ということわざで、意味は「どんなに難しいことでも、何度も挑戦し続ければ必ず成功する」。
参考:志尊淳×仁村紗和×京本大我×長濱ねる 『10回切って倒れない木はない』キービジュアル公開
つまりキム・ミンソクと河瀬桃子が次々と待ち受ける困難にめげることなく立ち向かい、純愛を貫く物語になるだろう。概要はとてもわかりやすい!
主人公のひとりが日本人ながら韓国の財閥夫婦の養子になった設定であることと韓国人俳優が多数出演することもあって、かなり韓国ドラマのようなテイストを目指しているのではないだろうか。韓国ドラマがおもしろいと注目されて久しく、日本でもそういうドラマを意識している流れはある。韓国ドラマは日本のドラマよりも濃厚でストーリー展開が大胆かつ緻密。なにより画がきれい。なんで日本ではこういうのができないのだろうという思いがあるなか、立ち上がったのが秋元康先生だったのではないだろうか。
実は、秋元康はこれまでも濃厚かつ大胆、緻密なドラマを作っていた。例えば、同じ日本テレビの日曜ドラマ枠で放送された『あなたの番です』(2019年)だ。秋元が企画・原案を務めたそれは「毎週、死にます」をキャッチフレーズにしたミステリーで、マンションに引っ越してきた新婚夫婦が「交換殺人ゲーム」に巻き込まれる。「毎週、死にます」の通り住人が次々亡くなっていく。犯人は誰か、いったい何のためにーー。異例の2クール連続放送で、中だるみが心配されたものの、半年もの間、飽きさせることなく視聴者を考察の渦に巻き込んだ。むしろ、後半に行くに従って視聴熱が上がっていったほどだった。考察ドラマの金字塔と言っていいだろう『あなたの番です』は映画化もされ、続く2021年、西島秀俊主演の『真犯人フラグ』(日本テレビ系)でも同じ路線を踏襲し、人気を得た。
それから5年、今度は純愛ドラマ。同じ局のほぼ同じ時間帯でジャンルががらりと違う純愛もの。秋元先生はほんとうにレンジが広い。一時期、映画では『着信アリ』シリーズなどのホラー映画もヒットさせた。音楽の世界では、おニャン子クラブからAKBグループ、坂道シリーズのプロデュースから、美空ひばりの「川の流れのように」という日本の心を歌った正統派な曲の作詞を手がけたりと、ジャンルレスの名プランナーでありクリエイターなのである。
大衆の気持ちが合わさった波の最も高いところをしっかりキャッチする天才・秋元康。『10回切って倒れない木はない』もおそらく濃密で大胆で、考察もできそうな物語になるだろう。大病院の御曹司・山城拓人(京本大我)、謎の令嬢・新海映里役の長濱ねるはいかにもな妨害者としてドラマを盛り上げてくれそうだ。あとは画の美しさを担保できればきっとうまくいく。
予告編を見ると、志尊淳の肌に瑞々しい透明感があり、全体的にニュアンスのあるふんわり仕上げ。あとはどれだけ素敵なロケ地で撮影できるか。不況下の日本でどれだけリッチ感が出せるかにかかっているだろう。発想がイケてるだけでなく、関わるクリエイティブスタッフにどれだけ才能のある人を集められるかが勝負になってくる。
秋元康が頭角を現してきた1980年代は、日本がバブルで、お金にも人にも余裕があった時代。祭りの熱気に乗って企画をどんどん当ててきたのが秋元だ。放送作家として数々のバラエティ番組に参加し、作詞家として多くの大ヒット曲を生み出し、プロデューサーになって、多岐にわたる巨大企画を手掛けてきた。バラエティ、アイドル、ミステリー、ホラー……日本の大衆文化の波の頂点を渡ってきたわけだが、日本の元気がなくなってきているいま、すべての仕掛けが当たっているというわけではない。むしろ、量産しすぎて飽和状態になっている感もある。2022年なんて8本も原案・企画作がある。『あなたの番です』効果ありすぎだろう。
2020年代に量産された秋元康企画のドラマを振り返ると、斎藤工が謎のカリスマを演じた『漂着者』(テレビ朝日系)、恋人が病院で事件に巻き込まれるミステリーで、マンションが病院に変わった印象の『赤いナースコール』(テレビ東京)、10歳の天才医師とその代理人から成る天才外科医チームの活躍『Dr.チョコレート』(日本テレビ系)などがある。個人的には『漂着者』のヘンなスケール感はおもしろく見たし、『Dr.チョコレート』のブラック・ジャックの子ども版みたいな建付けにチョコレートをプラスしたセンスも嫌いじゃなかったのだが……。
こうして見ると、秋元康ドラマにはどの企画もちょっと過剰なところがあって、それが当たるか当たらないかは時の運なのかなとも感じる。共通するのは、鉄板のミステリーでもホラーでも医療ものでも恋愛ものでも、そこに何かしら独自性のある、過剰でやや違和感を覚えるものを投入すること。失敗をおそれずトライをし続けること、絶え間なくアイデアを出し続けること、それはまさに「10回木を切り続けること」なのかなと思う。
今期はフジテレビ系の火曜21時枠でも秋元康が企画・原案を手がけるドラマ『夫婦別姓刑事』が放送される。こちらは佐藤二朗と橋本愛が夫婦別姓でバディを組んでいる刑事ものだ。タイトルが単純明快で、現代社会問題にも切り込んでいる。純愛ドラマが当たるか、夫婦別姓が当たるか、どちらも当たるか、この春の秋元康企画がいまの日本を映し出す。(文=木俣冬)
