「監督、俳優、カメラ、美術、持道具、いろいろな人間の意思が集結して、そのシーンが立体的に作られていくことが面白くて仕方ないんです」(撮影:小林ばく)

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2025年度前期のNHK連続テレビ小説『あんぱん』では、主人公・朝田のぶの最初の夫となる若松次郎を演じた中島歩さん。その柔らかな物腰や低音の声に注目が集まりました。話題作への出演が続き、順風満帆な役者人生かと思いきや、ここまでの道のりは平坦ではなかったようです。(構成:大内弓子 撮影:小林ばく)

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<前編よりつづく>

連ドラ主演という夢が叶って

芝居については、落語を経験したことで、自分の身体と声を通して表現することがしっくりきたから挑戦したいと思ったわけですけど、実際に始めてみると、自分が楽しいと思えるのはそこではないなと、徐々にわかってきました。

特に演劇をみっちりやったり、映画監督のワークショップに参加したりして、具体的なテクニックや舞台の見せ方、映像の見せ方を勉強してからは、本番の撮影に入る前に決めていく、《段取り》の工程を面白く感じるようになっているんです。

水を飲むならどこでコップを持ってどこに置くかといった細かいことから、アクションのような大きく動くシーンまで、俳優がどう動いて、どこにカメラを構えて、どう見せるのかを決めていく。そこで、一人で台本を読んで想像していたのとはまったく違う画ができていったりするわけです。

それはもう、「えっ、こんなことになるの!?」「こんなこともできちゃうの!?」という驚きの連続で。そこに芝居の素晴らしさを感じるし、うまくいった時はたまらなくうれしい。

監督、俳優、カメラ、美術、持道具、いろいろな人間の意思が集結して、そのシーンが立体的に作られていくことが面白くて仕方ないんです。

その楽しさをフルで感じられたのが、1月に始まった草川拓弥さんとW主演を務めているドラマ『俺たちバッドバーバーズ』です。バディもののアクションコメディで、僕が演じているのは、草川さん演じる月白(つきしろ)が店主の理容室に住み込みで働くことになる日暮歩(ひぐれあゆむ)。

月白には実は、客が持ち込むトラブルを力で解決する《裏用師(リヨウシ)》という裏の顔があって、日暮もさまざまな依頼を受けることになります。

戦いには弱くてヘボいんですけどね。でも、正義感があって、思いきりバカをやるという、少年漫画に出てくるヒーローのような人間なんです。

それを生身でやるからには相当な熱量を持ってなきゃいけないなと、テンションを上げて、大きな声を出して、画面のなかではかなり暴れています。

日暮のキャラクターを作るのにも、「マレット」という世界一ダサいと言われている髪形を提案したり、家にあった服を持参して衣裳にしたり、自分でアイデアを出して。撮影でも、段ボールを被ってみようかなとか、自由にいろいろやらせてもらっていて、子どもの頃からお笑い好きでふざけていたことが、結実した感じです(笑)。

小劇場界隈の仲間たちもたくさん出ているドラマなので、連ドラ初主演を張れてのびのび芝居させていただいたのはうれしく光栄なことでしたし、何か夢が一つ叶ったような思いにもなりました。


「なかなかはみ出ることが許されない今の時代に、自由にやっていいよという庭を用意していただけたので、僕も画面からはみ出すようなあの奔放さを参考にさせてもらって演じています」

『あんぱん』の次郎を応援してくださっていた方がこのドラマの日暮を観ると、もしかしたら驚かれるかもしれません。本当に思いきり感情を丸裸にしてワーワー言ってますから。

でも、ドラマ『傷だらけの天使』みたいな作品だと思っていただければ大丈夫じゃないかなと思います。あのショーケン(萩原健一)さんが演じるドラマの痛快さに、当時みんな憧れたと思うんですけど。なかなかはみ出ることが許されない今の時代に、自由にやっていいよという庭を用意していただけたので、僕も画面からはみ出すようなあの奔放さを参考にさせてもらって演じています。

もちろんショーケンさんと同じとは言えないでしょうが(笑)、日暮を観て爽快で気持ちいいなと思ってもらえたらうれしいなと。何しろ、誰もが言いたいことを呑み込んでいる世の中で、日暮は言いたいことを言っていますからね。

おまけに日暮はヘボいですから、アクションシーンもありますけど、全然カッコよくないんです。ピストルの持ち方なんてもうひどいもの。

かといって、バディの月白がカッコいいかといえば、そうでもなくて。二人ともダメっていうところがこのドラマの面白いところで、「人間はダメでいいんだ」っていうことも伝えてくれる。

それは実は、僕自身がずっと伝えたいと思っていることでもあるんです。だから、表現者として持っているポリシーも反映できる役でした。

感動する気持ちを大切にしたい

ただ、日暮も次郎もそのほかのどんな役も、全部自分の一部だと思って僕は演じています。見せ方を考えて、段取りを決めて、いざ撮るとなったら、そこではやっぱり、自分の心を使って、言葉を伝えて聞いてというコミュニケーションを、相手の俳優と交わしていく世界になるわけですから。

たとえば、相手と喧嘩をするのなら、「お前が悪いんだ!」と僕自身が思ってやる。だから、時代や言葉、衣裳が違っても、どんなキャラクターでも、全部自分といえば自分なんです。

今、大河ドラマ『豊臣兄弟!』の撮影をしていますが、そこでもやっぱり自分を使って演じるのは同じです。今回の役は浅井長政。信長の妹・市を妻とする北近江の大名で、彼としては、信長に信頼されたいという思いが一番にあるんです。

だから、僕自身も、信長を演じている小栗旬さんに信頼されたいと思って対峙している。「目の前のこの大スターに認められたい」という気持ちで(笑)、台詞を言い、小栗さんの言葉を聞きます。

だったら、僕のふだんのボソボソしたしゃべり方では信頼されないよな、やっぱり「なんとかでござる」とはっきり言わなければいけないよなと、時代劇の言い回しにも納得がいくわけです。

長政は後に、信長に反旗を翻すことになりますが、その境遇を自分のなかにしっかり落とし込んで、魂を通わせて、歴史上の人物としてではなく、戦国時代の一人の武将をちゃんとお見せできたらと思っています。

長政のその行動によって宮崎あおいさん演じる市との別れもあり、ラブロマンスを見せることにもなりますから。観てくださる方にそこにも気持ちを寄せていただけるように、演じられたらと思います。

表現することが好きなのは、小説家の国木田独歩と関係があるか、ですか? 取材を受けるとよく聞かれるんです。国木田独歩の玄孫(やしゃご)であることをどう思うか、というようなことを。みなさんそういう話が好きなんだなと思うし、聞かれたら、「関係ないと思う」と言いたくなるんですよね(笑)。

でも、彼のいくつかの言葉は僕も好きです。独歩が言っているのは「万物に感動しろ」ということですから。感動することが幸福だと僕も思っていますし、芝居はそれを実際に行っていると思うんです。つまるところ、世界と人を愛でているのが芝居だなと。

プライベートでも感動することはたくさんありますよ。昨日も久しぶりに近所の神社に行って手を合わせたんです。ありがたいことに今は仕事が続いて、素敵な方々に出会えて、こうした取材までしてもらえるようになって、どうかこれがこの先も続きますようにと。

そうしたら次の瞬間、お社に西日が差して、えも言われぬ美しい光景を目の当たりにすることになって。あぁ、この瞬間が最高じゃないかと、それで満たされた気分になりながら、さらにこういう最高の瞬間が続いたらいいなと、ものすごく感動したんです。

そういう、気づくか気づかないかみたいな小さな幸せに気づけるように、これからも心を磨いておきたいですね。