定年後も働く65歳以上の「6人に1人が年金支給停止」に…年金+給与で老後生活を送るシニアが注意したい〈年金カットの条件〉【FPが「在職老齢年金」の仕組みを解説】
近年、年金を受給しながら働き続ける高齢者の数は、増加の一途を辿っています。しかし、老齢厚生年金と給与額の合計が一定額を超えると、年金の一部または全額がカットされてしまう点には注意が必要です。本記事では、服部貞昭氏の著書『知れば知るほど得する年金の本』(三笠書房)から一部を抜粋・編集し、「在職老齢年金」の仕組みについて解説します。
老齢厚生年金+給与が「月65万円以上」で年金カットに
近年、60歳で定年になっても引退せず、再雇用や再就職で働くことが当たり前の時代になりつつあります。また、65歳以降も引き続き働く人が増えています。
総務省の「労働力調査」によると、2024年度時点で、
60〜64歳の就業率は84.0%
65〜69歳の就業率は53.6%
70〜74歳の就業率は35.1%
75歳以上の就業率は12.0%
です。こんなに多くの高齢者が働いているのかと驚くくらいです。
65歳以降は年金をもらえる年齢ですので、年金をもらいながら働くことになります。そのとき、一つ注意点があります。
老齢厚生年金と給与の合計が一定金額を超えると、老齢厚生年金の一部または全部がカット(支給停止)されます。この仕組みを「在職老齢年金」といいます。
簡単に説明すると、老齢厚生年金の毎月の金額と、会社から支給される給与の月額が65万円(2026年度)を超えると、超えた分の2分の1の年金がカットされます。「給与の月額」には賞与も含まれますが、賞与を12等分したうえで給与の月額に足して計算します。
一定給与で年金が減額される仕組み
なぜ、年金がカットされるのでしょうか?
もともと、厚生年金の制度ができた当時は、年金は退職した人がもらうものであり、在職中の人はもらえませんでした。ただ、時代の流れとともに、定年の年齢が徐々に引き上げられ、働き続ける高齢者が増えました。そこで、働いていても給与が一定金額以下であれば、年金をもらえるようにしたのです。
なお、年金カットの対象になるのは老齢厚生年金だけで、老齢基礎年金はカットされません。
具体例を紹介します。老齢厚生年金の月額が10万円、毎月の給与が56万円、年間の賞与合計が60万円であるとします。すると、次のような計算になります。
給与の月額=56万円+60万円÷12=61万円
老齢厚生年金の月額+給与の月額=61万円+10万円=71万円
カットされる金額=(71万円−65万円)÷2=3万円
このケースでは、老齢厚生年金10万円のうち、3万円がカットされて、もらえる金額は7万円に減ります。
もし、給与の月額がもっと多く、カットされる金額が、老齢厚生年金の月額を超えてしまった場合には、年金が全額カットされてしまいます。
月収50万円以上も給与をもらっている人なんて少ないのでは、と思われるかもしれません。
ところが、厚生労働省の年金部会の資料によると、2022年度末時点で、65歳以上で働いている人は308万人、そのうち、年金がカットされている人は、50万人います。6人に1人もの人が年金を支給停止されているのです。
この時点では、年金カットの基準は47万円でしたが、2026年4月以降、65万円に引き上げられます。年金カットされる人は減少します。ただ、高齢者でも、正社員であったりスキルがあったりする人は年収が高い傾向にありますので、まだ年金がカットされる可能性があります。
減給してまで年金のために働くべきか
では、年金をカットされない範囲で給料を減らして働いたほうがいいのかというと、必ずしもそうとはいえません。
日本は将来どういう社会になるのか予測がつきませんので、今、たくさん給料をもらえるのであれば、もらっておいたほうがいいと思います。たとえ、年金をカットされたとしても、給料が多ければ将来のための貯蓄ができるので、より安心した老後生活が保障されるでしょう。
逆に、せっかくもらえる年金がカットされるくらいなら、働く時間を減らして給料を減らし、その空いた時間を趣味や家族のために使うという考え方もあります。
老齢厚生年金の月額が10万円の場合は、給料の月額55万円以下であれば年金はカットされません。もし可能であれば、会社と交渉して、短時間勤務に変更してもらうのもいいかもしれません。
なお、ここまでの説明で、「給料の月額」という表現をしてきましたが、正確には、社会保険の等級で決まる「標準報酬月額」に、過去1年間の賞与額の合計を12で割ったものを足した金額(「総報酬月額相当額」)のことです。
服部 貞昭
新宿はっとりFP事務所 代表
エファタ株式会社 取締役
