中国のメッセージアプリで注文するだけ...「処方箋なし」で薬が買える“疑惑の薬局”を直撃!

写真拡大 (全5枚)

ジリ貧状態の調剤薬局に中国マネーが流入

「何しに来たか? あなたとする話なんてない! 出て行け!」

2月中旬のある日の午前、東京・新宿区の雑居ビルに入る調剤薬局の店内に、中年女性の甲高い怒声が鳴り響いた。日本語だが、中国語のネイティブとわかるアクセントだ。筆者が違法に処方箋医薬品(以下、処方薬)を販売していると見られる薬局を特定し、取材に訪れたときの一幕である。

東京商工リサーチによれば、’25年の調剤薬局の倒産件数は38件で、過去最多を更新している。薬価の改定や大手チェーンによる出店攻勢で、利益が圧縮されていることなどが背景にあるとされている。そんな苦境に立たされている業界に、中国マネーが流入しているという。医薬業界紙記者が明かす。

「ジリ貧状態の調剤薬局を居抜きで買収し、個人経営の薬局を廃業した薬剤師を雇い入れるなどして経営に参画する中国人が増えているのです。彼らは調剤薬局をまともに経営する気はなく、仕入れた医薬品を母国や在日の中国人にネット販売することを目的としています。薬機法で禁止されている処方薬のネット販売に手を染めているケースも少なくない」

去年7月、処方箋の交付を受けていない者に処方薬を販売していたとして、大阪市内の薬局が市から45日間の業務停止と業務改善を命じられている。薬局の運営会社は中国出身者が代表を務める企業だった。

筆者は、「トー横キッズ」の医薬品乱用を取材する過程で、都内にも処方薬の違法販売を行う薬局があることを突き止めた。翻訳アプリを駆使し、複数の中国系薬局からマンジャロやリベルサスといったダイエット目的の糖尿病新薬や、性感染症治療の抗生物質などの処方薬を購入しているトー横キッズがいたのだ。

筆者は彼らから、違法薬局の『WeChat』(中国発のメッセージアプリ)のアカウントを複数聞き出し、購入希望者を装って中国語でアプローチした。怪しんでか、返答が来ないアカウントが多いなか、1件から「何が欲しい?」と反応があった。そこで、リレンザやタミフル、抗生物質など、代表的な処方薬の在庫について一通り尋ねると、そのすべてが購入可能だという。

筆者はトラマドール塩酸塩(商品名:トラマール)を実際に注文してみた(2枚目写真)。がん患者などに処方される鎮痛薬であるトラマールは、オピオイド系鎮痛薬に分類される劇薬だ。乱用者には独特の酩酊感を与えるため、海外ではオピオイド依存に至るゲートウェイドラッグとしても警戒されている。

「1万4000円だ」

先方からはすぐに返事があった。指定通りPayPayで代金を支払うと、2日後に現物が届いた(3枚目写真)。

送り状に書かれた品名は「サプリ」となっており、発送者の名前や住所は「同上」とされていた。違法性を認識している証左だろう。もう一つ気になったのは、宛先住所に含まれた「浜」の字にうかんむりがつけられていたことだ。これは主に中国大陸で使用される簡体字である。

「お問い合わせ番号」から、取り扱い局が新宿区内の郵便局であることが判明。同局の集配エリアに存在する薬局と、購入先の薬局が『WeChat』にアップしていた店内の写真を見比べる作業を重ね、一軒の調剤薬局に辿り着いた。

件(くだん)の薬局の運営会社の登記情報を確認したところ、代表取締役と取締役は同じXという日本の姓になっていた。余談だが、’22年の設立当時、代表取締役の住所は板橋区内にある築50年のマンションだった。しかし現在は、1億円は下らないと見られる新宿区の高級マンションの一室に引っ越している。

「処分なんかされんよ」

処方薬の違法販売疑惑について、彼らはどう答えるのか。薬局の営業時間終了後、筆者は店内から出てきた薬剤師を直撃した(前ページ1枚目写真)。突然の訪問者に苛立った様子で立ち去ろうとしていたが、筆者自身がトラマールを購入したと伝えると立ち止まってこう話した。

「今はもうやってない。話をしてやるから明日10時に店に来なさい」

指定された時刻に薬局を再訪。すると「責任者」を名乗る女性が現れ、冒頭のように門前払いされるのだった(4枚目写真)。

筆者はこの女性に「あなたがXさんですか?」と尋ねてみたが、否定も肯定もしなかった。そのうち、前夜に直撃した薬剤師も店の奥から出てきて女性に加勢。筆者は店内から追い出された。「薬機法違反で処分されますよ」と言う筆者に、薬剤師は「これくらいのことで処分なんかされんよ」と最後まで強気だった。

後日、薬局の運営会社宛に、処方薬の違法販売について質問書を送付した。しかし、回答の代わりに返ってきたのは、運営会社の代理人弁護士からの「通知書」だった。そこに「当社は現在、新宿区保健所の指導に基づき、処方箋に基づく医療用医薬品の適法な販売を徹底しております」と記したうえで、「当社は、貴社からの取材・質問に対し、一切回答いたしません」と取材を拒絶。筆者および小誌に対し「刑事・民事の両面を含む法的措置」を匂わせる警告まで書かれていた。

さらばここまで。筆者は管轄である新宿区保健所衛生課に、当薬局の違法行為について取材で得た証拠を添えて情報提供した。薬物乱用の元凶になりかねない違法薬局が糺(ただ)される日はくるのか。

⚫︎FRIDAY3月6日号より

取材・文:奥窪優木(フリーライター)