冬休みの受験生に言ってはいけない…入試直前で逆効果になった「父母のひと言」【東大生1000人の証言で判明】
※本稿は、東大カルペ・ディエム(著・編集)、西岡壱誠(監修)、じゅそうけん(監修)『東大理III 合格の秘訣 Vol.40 2025』(笠間書院)の一部を再編集したものです。

■冬休みの受験生は“いつもよりナイーブ”
冬休み。学校の授業が終わり、受験生はいよいよ本番直前の時期に差しかかります。家庭の空気も少しずつ張りつめ、子どもだけでなく、親御さんにとっても日毎に不安が大きくなってくる頃かもしれません。
この時期の受験生は、普段よりずっとずっとナイーブです。いつもなら受け流せるひと言が胸に刺さり、そこからメンタルのバランスを崩してしまうことも。だからこそ、親御さんは子供との接し方について、より一層の注意が必要になってくる時期でもあります。
私たちカルペ・ディエムでは、今年、日本の大学受験で最高峰とされる東京大学理科三類の合格者29人にインタビューを行いました〔東大カルペ・ディエム(著、編集)、西岡壱誠(監修)、じゅそうけん(監修)『東大理III 合格の秘訣 Vol.40 2025』(笠間書院)〕。
この『東大理III』シリーズは、その年の東大理3に合格された方々の受験体験記をまとめた書籍で、1986年の創刊から今年で第40号となります。
過去40年分の理3合格者、約1000人への膨大なインタビューを読み解いていくと、冬休み〜受験直前期の親御さんの言葉や行動が、受験生にとってプラスにもマイナスにも大きく作用していることがよくわかります。
本稿では、実際に『東大理III』に寄せられた合格者たちの声の中から、冬休み〜受験直前期に親御さんとの関わりによって苦悩したエピソードを3つのタイプに分けて紹介していきます。いずれも、親御さんとしては「よかれと思って」の言葉や行動ではあるのでしょうが、結果として受験生本人の心にはまったく別の形で届いてしまった例ばかりです。
■「志望校を変えて」は“本人の否定”につながる
【タイプ1:志望校を変えるように働きかける】
最も多いのが、親御さんからの「志望校を変えよう」という働きかけによって心が折れてしまったパターンです。
模試の判定が思うように出ていない……。けれども、もう1年浪人することになれば、本人の精神的な負担はもちろん、家庭としての経済的・生活的な負担も小さくはない……。
私たちカルペ・ディエムは実際に多くの親御さんとお話をしてきましたが、みなさん不安を抱えていらっしゃいます。「浪人はさせたくない」「失敗してほしくない」と安全策を勧めてしまうのは、親御さんとしてごく当然の感情でしょうし、その思いやり自体はとても尊いものです。
しかし、多くの受験生にとって、志望校は単なる出願先ではなく、自分がここまで勉強を頑張ってきた意味そのものでもあります。それを否定されるということは、ただこれからの勉強のゴールを見失うというだけではなく、アイデンティティの否定にもつながりかねない深刻なことなのです。
■「浪人回避を願う親」と「挑戦したい娘」
私立高校に通っていたとある女子生徒は『ドラゴン桜』を読み、東大を目指すようになりました。将来の夢は医師。だから必然的に、志望校は東大理3。しかし、この決断に両親は大反対でした。
彼女の両親には「浪人だけはさせたくない」「受からなかったら可哀想だ」という強い意向がありました。高3の受験直前になっても、合格可能性の低い理3に挑戦するのではなく、少しでも可能性のある他大の医学部への受験を勧めてきたといいます。
彼女は4つの塾と習い事に通い、部活動にも精力的に取り組んでいて、人一倍の努力家でした。それでも時折「これだけやってるのに落ちたらどうしよう」と精神的につらくなる時もあったそうです。自分ですら自身の成功を信じられないなかで、一番の味方であるはずの親御さんから「無理だ」と言われる絶望感は、勉強の苦しさよりもはるかにつらいものがあったのでしょう。
彼女は高3になっても東大模試でA判定が取れず、親御さんの心配はますます膨れ上がり、「理3は諦めた方がいい」と説得される日々が続きました。しかし、それでも彼女の理3に憧れる気持ちは強まるばかりで、どうしても理3に挑戦したいと譲りませんでした。彼女自身も根気強く説得を続け、最終的にはどうにか気持ちを理解してもらって東大理3に出願。見事に現役合格を果たしました。
もちろん、ご家庭の都合で、どうしても志望校に制限が生じてしまうこともあるでしょう。しかし、安全な道へ誘うことは挑戦心を削ぐことにつながりかねない。受験は本人の挑戦であり、本人の人生の出来事です。様々な事情を全て理解した上で、それでも挑むと受験生自身が決めたのであれば、親が踏み込みすぎるのは良いこととはいえません。

■“ちょっとした裏切り”に深く傷つく
【タイプ2:孤独に寄り添わない行動をする】
2つめは、行動による裏切りです。
言葉はなくとも、親御さんの行動によってメンタルを揺さぶられたと語る受験生もいました。
冬休みの受験生は極度の緊張状態にあるため、普段以上に周囲の変化に敏感になります。受験生にとって、家族は最大の味方です。家族全員で挑むんだ、協力してくれているという気持ちが、つらい時の心の支えにもなります。だからこそ、裏切られたと感じると、心のバランスが大きく崩れてしまう恐れがあります。
私立の女子校から現役で東大理3に合格した受験生の話です。彼女は両親が厳しく、成績が上位のクラスにいないと叱られるような家庭環境で育ちました。受験が本格化した高3の夏以降は、日々の楽しみだった外食を家族全員で控えると決めたのだそうです。テレビを見ながらダラダラ食事をするような習慣もなくし、食事の時間すらストイックに勉強に充てるようになりました。
■両親が内緒で外食したことに、娘が激昂
ところが受験が近づいてきたある日、彼女が塾に行っている間に両親がこっそり外食をしていたことが発覚。彼女はきっと、自分だけが我慢していることに耐えられなかったのでしょう。怒りが抑えられず、両親に激しく気持ちをぶつけたそうです。
幼い頃から私に厳しく接してきた両親が、決め事を守らず、私を除け者にして自分たちだけ楽しんでいる――その事実を知ったとき、彼女の心は深く傷ついたのではないかと容易く想像されます。
両親も反省したのか、「合格したらまたみんなで行こう」と約束し、それ以降はそうした行動はなくなったそうです。彼女はその約束を励みにして受験に専念。現役で合格を勝ち取りましたが、当時のショックの大きさは計り知れません。
受験は、自分一人の力で挑まなければならない闘いです。受験生は試験の結果ひとつで人生が大きく変わってしまうという重圧を、たった1人で引き受けています。大人になると懐かしい思い出のようになってしまうかもしれませんが、我々にはもはや想像もつかないほどの孤独感を抱えています。家族はもっとも近くにいるからこそ、常に「私たちは味方である」という言外のメッセージを発し続けることが大切なのです。
■母の一言で、息子は壁に穴をあけた
【タイプ3:成績に口を出す】
3つ目は、成績や結果に対する不用意な発言です。
受験生の中には、本番が近づくにつれて思うように成績が伸びず、不安が増大していく人もいます。結果が数字としてはっきり表れてしまうだけに、本人はもちろん親御さんが心配になるのも当然でしょう。
しかし不安や焦りは、親御さんが感じる以上に、ほかでもない受験生本人が一番強く感じています。自分が一番よくわかっているからこそ、親から口を出されて良い気持ちはしないものです。
関東の私立男子校を卒業し、1浪で東大理3を目指していた受験生の事例は痛烈でした。彼は研究者志望でした。10月下旬に医学部受験生の多くが併願校として受験する防衛医科大学の一次試験で、彼はまさかの足切り。その後、ショックを受けて落ち込んでいた彼に対し、母親は「こんなんじゃ研究者になんてなれないわよ」と言い放ったそうです。
その瞬間、彼は激昂。壁を思い切り殴りつけ、穴をあけたそうです。部屋に戻って布団をかぶり、丸くなったとも話していました。その日は勉強が手につかなかったそうです。翌日には心を立て直して予備校に行ったそうですが、当時の心の傷はいかばかりだったでしょうか。

■「励まし」は逆効果になる
これは過去のインタビューからの推測の域を出ませんが、きっと親御さんは「頑張れ!」と鼓舞するつもりで、「こんなんじゃ……」と言ったのでしょう。決してお子さんの夢を否定したいわけではなくて、むしろ夢を叶えてほしいからこそ、思わず口をついて出た言葉なのかもしれません。しかし、こうして客観的に文字で見てみると、それがいかに残酷な言葉であるかがわかると思います。
追い詰められた受験生に対して、ネガティブな発言は、百害あって一利なしだと言えます。たったひとりで試験に挑み、その結果を自分の人生として引き受けなければならないという現実を、受験生は誰よりも真剣に受け止めています。どう転んでも本人の人生ですから、腹を括って見守ることが必要かもしれません。
これら3つの事例から見えるのは、親の不安を受験生のお子さんにぶつけている、という点です。親御さんからの相談も受けるので、安心したい気持ちもよくわかります。しかし、気持ちが張り詰めている受験生にとっては、ただ追い詰める要素でしかありません。
ほかにも過去の東大理3合格者の中には、受験直前でメンタルが追い詰められ“家族と会話したり食事したりする時間すら邪魔”と感じていた受験生もいました。「話しかけないでほしい」「1人で勝手に食べるから食事も用意しなくていい」という手紙を書いて両親に渡したそうです。
そのご両親は娘の願いを聞き入れ、受験が終わるまで何も話しかけなかったのだそうです。声を掛けずに信じて待つ選択も、時には必要なのかもしれません。
■親は環境を整え、信じて待つことが大切
また、過去の『東大理III』には、保護者の寄稿も数多く掲載されています。大半の保護者が、受験直前期の親の心構えとして「子供の勉強について親が口を出すべきではない」と語っていました。

勉強や成績は本人が誰よりもわかっているし、本人なりにいろいろと考えて思い悩んでいる。だからこそ、親としては環境を整えることだけに注力し、あとは信じて待つことが大切なのだと、述懐しています。
受験は、最終的には自分一人の力で挑まなければならない闘いです。受験生自身も日々の生活の中で、親御さんに支えられていることをよくわかっていますし、感謝もしています。それでもやっぱり、自分の人生の挑戦について横から口を出されれば、反発したくなるものです。
多くの受験生、そして受験生の親御さんから相談を受けてきた立場からすると、ここで必要になるのは「見守る勇気」なのだと感じます。もちろん、不安になるのは受験生だけではありません。親御さんにとっても同じです。真剣に将来を考えていない受験生や、我が子のことを本気で思っていない親御さんなど、いないと言っていいでしょう。だからこそ、その不安とどう向き合うかは、実は親御さん自身の課題でもあります。
■「手を出さず、口を挟まず、見守る」
これまで見てきた3つのケースから、共通して言える教訓があります。それは、「手を出さず、口を挟まず、見守る」ということです。

「困ったときにはいつでも力になる」とだけ伝え、あとは本人が自分の力で進もうとするのを信じて待つ。それは決して消極的な態度ではありません。多くの受験生を支えてきた私たちの経験を踏まえても、この「見守る」姿勢こそが、冬休みから受験直前期にかけての最も強い応援の形だと信じています。
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新倉 和花(にいくら・のどか)
東大卒教育ライター、麻雀プロ
1998年生まれ。東京大学法学部を卒業後、ロースクールに進学。大学時代にうつ病を患い、闘病の過程で出会った競技麻雀の世界に没頭。2023年に日本プロ麻雀協会へ入会。2024年よりカルペ・ディエムに加わり、西岡壱誠らとともに全国の高校生に思考法・勉強法を伝える教育事業を展開、書籍制作にも携わる。
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(東大卒教育ライター、麻雀プロ 新倉 和花、 東大カルペ・ディエム)
