Broad Arrow Auctions

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先日、海外のオークション大手ブロードアロー・オークションズから興味深いプレスリリースが届いた。要約すると「オークションでの落札車両は分割払いでもOK!」というものだった。一見すると単なる支払い条件の多様化に思えるが、その背景には現代の資産活用術の進化が垣間見える。

ブロードアロー・オークションズに出品されるような高額なクラシックカーを含む”コレクターカー”は、潤沢な現金を動かせる超富裕層だけのものというイメージが強い。しかし、富裕層ほど手持ち現金を減らさず、資産を効率的に回転させる術を心得ているのだ。

ブロードアロー・オークションズの子会社「ブロードアロー・キャピタル」は、コレクターカー専門の融資サービスを展開している。従来、一般的な金融機関がクラシックカーの価値を正確に評価することは困難で、融資条件は厳格かつプロセスも煩雑だった。ところが同社は、金融・法律・コレクターカー業界の専門家を結集したチームで自社融資を行うため、迅速で柔軟な対応が可能だという。

審査に通れば1台の車、コレクションの一部、もしくはコレクションのすべてを担保に融資を受けることができる。興味深いのは、資金用途がオークション落札に限定されない点だ。不動産購入や株式投資など、急な資金需要が生じた際にコレクターカーを担保として活用できるスキームを構築している。この仕組みは「ABL(Asset Based Lending)」と呼ばれる動産担保融資の一種だ。従来の不動産担保とは異なり、動産の価値を担保として活用する金融手法である。

©Andrew Miterko / Courtesy of Broad Arrow Auctions

日本でも動産担保融資は存在し、製造業の生産設備を担保とするケースが一般的だ。筆者が聞いた中で最もユニークだったのは、食品メーカーが仕入れた羊腸(ソーセージの”皮”)を担保とした事例だ。原材料から完成品まで、製造プロセス全体をカバーする融資スキームだった。

法的な観点では、日本の動産担保は「質権設定(金融業者が保管)」か「動産譲渡登記(借主が継続保管)」による対抗要件が必要となる。興味深いことに、自動車の場合は動産譲渡登記ができないため、一般的な自動車ローンと同様に「所有権留保」か「抵当権設定」を選択することになる。ただし、自動車の抵当権は車検証に記載されないという、やや分かりにくい制度が現在も続いている…

もとい。

美術品融資は老舗オークションハウスのサザビーズが、子会社のサザビーズ・フィナンシャルサービスを通じて30年以上も前から手掛けている。コレクターカーを活用した融資の登場は、コレクターカーも美術品同様に担保価値を見出せるようになったことである。つまり、アセットクラスにおける”ステップアップ”とも言えよう。

オークションハウスがこのような金融サービスを手掛けるのはコレクターの資金需要に応えるとともに、顧客との接点を強化する戦略的な意味合いも強い。金利で稼ぐだけでなく、委託販売、オークション出品、コレクションの追加など、欲しい顧客リストを手にすることが出来るのだからだ。

また、アメリカでこのサービスが人気の理由のひとつは、銀行やクレジットカード会社とは異なる金融サービスのため、「クレジットスコア」に影響しないという点にある。信用情報に載ることなく資金調達できるメリットは大きい。

サザビーズの美術品担保融資を調べてみると、なかなか興味深い条件が見えてくる。最低落札価格200万ドルと評価された美術品に対し、1年間で最大100万ドルの融資を受けられるが、四半期ごとに2万8,225ドルの手数料がかかり、実質年利は11.29%となる。日本の激安金利と比較すると高く感じるが、急な資金需要や投資機会に対する機動性を考えれば、アメリカ富裕層にとっては十分に価値のあるサービスなのだろう。

現在、ブロードアロー・キャピタルはアメリカやヨーロッパの顧客を中心にサービスを展開している。すべてがオーダーメイドの金融サービスゆえに「まずはご連絡を」と謳っているのは、画一的なサービスを嫌う富裕層を相手にしている証。なお、今のところ日本ではブロードアロー・キャピタルは貸金業者登録されていないので、日本の上限金利は適用されない。

日本でも「美術品担保融資」という言葉が徐々に浸透し始めており、今後はクラシックカーを含む各種コレクタブルアイテムを担保とする融資サービスが登場する可能性は高いだろう。コレクターカー愛好家にとって、愛車が趣味の対象から「動く資産」へと進化する時代は間近だ。サザビーズ・フィナンシャルサービスは今年始めに日本から撤退しているが、日本展開が早すぎたような気配がしてならない。

文:古賀貴司(自動車王国) Words: Takashi KOGA (carkingdom)