記事のポイント Auxiaは、AIが仮説生成から最適化までを自律的に担うプラットフォームで、少人数でも成果を最大化するマーケティングを実現する。日本ではすでに三菱UFJ銀行やNTTドコモが導入。1日150万回の意思決定を自動化するなど実績も示した CEOメノン氏は、AIによる自動実行が進むなか、マーケターは戦略の方向性を定める創造性や顧客理解に注力できると語った
マーケティングの現場に、AIエージェントが本格的に参入しはじめている。GoogleやMeta出身のエンジニアらが立ち上げた米スタートアップAuxia(オクシア)が、7月4日に日本市場への正式ローンチを発表した。意思決定・施策実行・最適化を自律的に担うAIエージェントによって、少人数のチームでも成果を最大化する「スーパーマーケター」像の実現を掲げる。都内で開いた発表会では、三菱UFJ銀行やメルカリなど、すでに国内での実用フェーズに入っていることも示した。

「AIがUIに入り込む」時代へ

2022年に米カリフォルニア州パロアルトで設立され、これまでにVMGテクノロジー・パートナーズ(VMG Technology Partners)や三菱UFJイノベーション・パートナーズなどから総額2350万ドルを調達。D2Cや教育、金融など幅広い業種への導入が進み、AIエージェント領域での注目スタートアップとして、米国以外にもマーケットを広げつつある。Auxiaが提供するのは、マーケティング活動の「設計・実行・分析」をAIが一貫して担うプラットフォームだ。最大の特徴は、マーケティング施策を人間が「設計」するのではなく、AIエージェントが仮説生成から実行、最適化までを自律的に繰り返す点にある。CEO・共同創業者のサンディープ・メノン氏は、ユーザーインターフェース(UI)の変遷を「ポータル型(90年代のYahoo!)」から「モバイル最適化されたダッシュボードやボタン」、そして「チャットUI」とたどり、今後は「AIがUIに入り込む時代が来る」と指摘した。Auxiaが目指すのは、ユーザーのニーズをAIが先回りして捉え、最適なチャネルやタイミングで自動的に対応する仕組みだ。コンテンツそのものがコモディティ化するなか、届け方の設計そのものを進化させることが、マーケティングにおける新たな競争力になると見ている。

CEO・共同創業者のサンディープ・メノン氏

ルールベースの限界

近年、マーケティングの注力ポイントは新規獲得からエンゲージメントやLTVの最大化へと移りつつある。Auxiaもこの動きに呼応し、初回アクションや継続利用の促進など、顧客化のプロセス全体を支援する仕組みを重視している。従来のマーケティング施策では、ユーザーの行動や属性に応じて500以上のルールを設定し、チャネルやタイミングの設計をすべて手作業で行う必要があった。そのため、約4割の大企業が自社のファーストパーティデータを十分に活用できていないという調査もある。とくに膨大なデータを保有する企業ほど、そのポテンシャルを活かしきれていないのが現状だ。一方、Auxiaを利用する上でマーケターが用意・設定するのは「ゴール」「ガードレール(制約条件)」「データ」のみ。それ以外は、施策の設計から実行、最適化までをAIが担い、「あらゆるチャネルでハイパーパーソナライズされた体験を即時に提供する」(メノン氏)という。ABテストも自動で実施し、複数の仮説を並行して検証できる点も強みだ。ノーコードで設定できるため、迅速に運用できるのも特徴のひとつだ。従来のマーケティングツールがマーケターの意思決定を支援するのにとどまり、施策実行の負荷やブラックボックス性を残していたのに対し、Auxiaでは意思決定の過程や成果が数分で自動生成されるレポートとして可視化される。これにより、「ブラックボックス化」を回避し、透明性を担保する。

日本は米国に次ぐ第2の戦略的拠点

日本を米国に次ぐ第2の戦略的拠点と位置づける。Auxia Japan代表の吉嗣浩隆氏は、「日本企業は膨大なファーストパーティデータを保有しながら、複雑な施策設計に疲弊している。Auxiaはその課題に、AIで答えを出す」と語った。メノン氏もまた、日本の消費者が企業に対して抱く、より個別最適な体験への期待に触れ、「日本では、業界のリーダーだけでなく、政府もAIの活用に本気で取り組んでいる」と強調した。Auxiaは単なる翻訳対応ではなく、「日本のユーザーからのフィードバックをもとにプロダクトを磨き上げながら」市場に向き合うという。日本での導入企業として、三菱UFJ銀行やメルカリ、NTTドコモ、大手語学アプリ運営企業などが名を連ねる。UXやUIも日本市場に最適化されており、開発チームも今後日本国内で拡充される予定だ。

1日150万回の意思決定を自動化

会見では、三菱UFJ銀行のMoney Canvas(マネーキャンバス)の導入事例も紹介した。Auxia導入の目的は、機能活用の最大化・会員登録率の向上・金融体験の深化だ。AIエージェントがユーザー行動に基づいて適切なタイミングで機能提案を行い、パーソナライズされたメッセージによって登録意欲を喚起。その結果、登録率は9.6%のアップリフトを記録した。また、Auxiaは1日あたり150万回以上の意思決定を実行し、180種類以上のクリエイティブを同時に検証。成果の高いものを自動で選定することで、業務効率化とコスト削減を両立しているという。

「スーパーマーケター」を支える

Auxiaの掲げるビジョンは、「少人数のチームでも、1000通りの体験を同時にテスト・実行できる世界」だ。メノン氏は「スーパーマーケターとは、インテリジェンスと意思決定をAIに支援されながら、最適な顧客体験を実現できる存在」と定義する。AuxiaのAIエージェントは、実行や最適化の負荷を軽減し、マーケターがより本質的な判断と設計に集中できる環境を提供するという。「AIによって施策実行が自動化されたとき、マーケターが本来注力すべき役割は何か」というDigiday Japanの問いに対し、メノン氏は「創造性、直感、顧客理解をもとに、戦略の方向性を定めること」だと答えた。文・写真/戸田美子