トランプ関税の影響を聞かれた同社の魏哲家(シーシー・ウェイ)CEO(最高経営責任者)は、リスクは承知しているとしながらも「これまでのところ顧客に変化はない」と語った。だが、やはり今後の課題はトランプ政権との兼ね合いだ。同社はトランプ大統領の要請に応じる形でアメリカのアリゾナ工場への1000億ドル規模の追加投資を表明した。20年5月に発表されたアリゾナ工場の建設計画は、650億ドルを投じて3つの半導体工場を建てるというものだった。第1工場は24年10-12月期に量産開始、3nm(ナノメートル)プロセスを採用した第2工場もすでに完成しておりAI(人工知能)関連の半導体を量産する方針だ。

 そして、第3工場は当初の計画から2nm、またはそれ以降の先端プロセスを採用する予定だった。今回の発表ではこの第3工場に加えて、1000億ドルの追加投資分の第4工場でも、2nmノードの「N2」、1.6nmノードの「A16」と呼ばれる同社の最先端プロセス技術を採用し、今年後半に着工する予定だという。さらに第5工場、第6工場では、より高度な技術を採用する方針だが、工場建設と生産スケジュールは需要を見ながら決めることになる。

 また、アリゾナ州に2つの新しい先進パッケージング施設と、R&D(研究開発)センターを建設する予定だという。会社側ではAIサプライチェーンに参入するためとしているが、HBM(広帯域メモリー)とAI用GPU(画像処理半導体)のパッケージングを行うと思われる。これら追加投資が完了した後は、TSMCの2nm以下の先端半導体生産能力の約30%がアリゾナ州に集約されることになる。これまで最先端工場を台湾に集中させてきたTSMCにとっては事業戦略の大転換と言っていい。

 もっとも、アメリカでの生産では、台湾での生産に比べコストが増加するだろう。同社によると、顧客に対して値上げの協議に入っているとのことだが、アメリカの大口顧客と言えば、アップル とエヌビディアになる。結局はエヌビディア製AI半導体もアップル製品も、TSMCのアメリカ国内工場でつくられた半導体を装着すれば値上げは避けられない。もし、値上げ幅が大きい場合、果たして需要は大丈夫なのだろうか。今やTSMCは先端半導体とAI半導体の生産をほぼ一手に引き受ける存在であり、半導体サプライチェーンの中核企業と言っていい。今後の展開から目を離すことができない。

 こうしたTSMCの動きとともに注目されるのが、4月25日(日本時間)未明に発表されるインテル の25年12月期第1四半期決算だ。同社では24年3月に世界で初めて、ASMLホールディング から次世代型EUV(極端紫外線)露光装置の納入を受けている。同社の技術力ではいまのところ実際に使いこなせていない模様だが、世界最先端の半導体露光装置を世界で唯一、保有していることは事実なのだ。ただし、TSMCの決算説明会では、アリゾナへの追加投資計画について、「他社との合弁事業における技術ライセンス供与や技術移転・共有に関する協議は一切行っていない」と明言した。そうなると、インテル再建はインテル自身で行う必要があるのか。インテルの新CEO、リップブー・タン氏がどのような発言をするのか、注目される。

◆AI投資を競った昨年から一転、ビッグテック決算はコスト削減が焦点に

 生成AI関連では、マイクロソフト 、アマゾン・ドット・コム 、アルファベット 、メタ・プラットフォームズ の設備投資の動向が焦点となる。昨年まではAI関連の投資への積極姿勢が株価を押し上げたが、今年は完全にマーケットの見方が逆転している。各社とも膨大な額に膨らんだAI関連投資を抑え、コスト削減に取り組む姿勢が好感されるという展開になるのではないか。