相手から不快な言葉をかけられたらどう切り返せばいいのか。元JALのトップCA・桜井妙さんは「相手からのネガティブな言葉をそのまま受け取る必要はない。私の後輩は『体格いいね、レスリングでもやってんの?』と聞かれたら『相撲です』と答えていた。こうしたリフレーミングは効果的といえる」という――。

※本稿は、桜井妙『元JALのトップCAが明かす ベストパフォーマンスを発揮する人の「接客力」』(大和出版)の一部を再編集したものです。

写真=iStock.com/1shot Production
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/1shot Production

■「君体格いいね。レスリングでもやってんの?」と聞かれたら

機内で忘れられないエピソードがあります。

CAは皆背が高いです。運動経験者もいますから、筋肉もあります。

ある後輩は大学時代、数々の大会でよい成績を残したアスリートでした。背が高く、しっかりした体格。すると、搭乗してきたお客様がこう言いました。

「君体格いいね。レスリングでもやってんの?」

日本人の男性のお客様には、ごくたまにこのようなセクハラ発言をする方がいました。近くでその会話を聴いている私も嫌な気持ちです。

ところが、後輩はお客様にこう言葉を返しました。

「お客様違います。私は会社の相撲部に所属しています」

そう言って、「どすこい!」と自分のお腹を叩いたのです。

もちろん会社に相撲部はありませんし、彼女は太っているわけでもありません。誰もがすぐわかる冗談です。

その場は明るい笑いに包まれました。その後のフライト中、お客様と後輩CAは、ウィットに富んだ会話のやりとりを楽しんでいたようでした。

同じように、年齢を聞かれることもあります。

飲み物のサービスをしていると、いきなり「君、君、歳いくつ?」とお酒を飲んでいるお客様に大きな声で聞かれたことがありました。そんなとき、酔っているお客様にまともに答えてはいけません。

男性に限らず女性にも、年齢が気になる方はいて、先日セミナー後の質問タイムで「先生は何歳ですか?」と聞かれました。

正直に答えても構いませんが、「5歳でちゅ」と答えると、その場にいた皆が爆笑。すかさず「もちろん精神年齢でちゅ」と付け加え、そのままその話題を利用して、コミュニケーションスキルの説明をしました。

NHKのチコちゃん人気のおかげで、年齢問題の答えの幅が広がりました。

■ネガティブな言葉は、「リフレーミング」でかわす

クレームやカスハラだけではなく、このように悪意はないけれど不用意な言葉をかけられることは、接客中よく遭遇します。

罪を憎んで人を憎まず。配慮がないネガティブな言葉は不快ですが、お客様に悪意がないのですから、言葉自体の意味にとわれず上手にかわすのが賢明です。

優秀なサービスパーソンはこういうときの対応が実に素晴らしく、感動を覚えることもあります。そして、そのやりとりがきっかけで顧客になってくださることも少なくありません。

こういった対応が即座にできる理由は、感情を自分でマネジメントできているからです。ネガティブな言葉で傷ついた自分の心を魔法の呪文で癒すのです。

ドラクエの「ホイミ・ベホイミ・ベホマズン」のように自分で自分を元気づけます。すると、自分の言動まで変わるのです。

そのスキルは、「リフレーミング」と言います。リフレーミングとは、家族療法から生まれた認知を変えるスキルのこと。

認知とは、目の前の出来事・物・人を知覚したとき、それが何か判断したり解釈したりする思考のプロセスです。

■出来事の捉え方を180度変える方法

私たちは物事を認知するとき、特定の枠組み(フレーム)で捉えます。

そこで、「ネガティブな感情を伴うフレーム」を「ポジティブな感情を伴うフレーム」に変えてしまいましょう。すると出来事に対する感じ方も真逆になります。つまり、嫌な気分があっという間に変わるのです!

たとえば、冒頭の後輩CAの場合、「体格いいね、レスリングでもやってんの?」という言葉に対し、「相撲です」と返答しました。

嫌味や皮肉もそう捉えないで、「冗談を楽しむ機会」だと彼女は捉えたからこそあの対応ができたのだと思います。これを「状況のリフレーミング」と言います。

リフレーミングは、状況以外にも、出来事に対してポジティブな意味を見出す「内容のリフレーミング」や、言葉に対してポジティブな意味に捉える「言葉のリフレーミング」などがあります。

ここでは、私が常日頃から実践しているホイミスキル「言葉のリフレーミング」を練習しましょう。

写真=iStock.com/gremlin
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/gremlin

たとえば、上司のAさんは優柔不断だと職場で思われています。あるときAさんは、後輩のBさんにランチに誘われました。

Bさん「Aさん、皆と一緒にランチに行きませんか? Aさんは、何がいいですか?」

Aさん「うーん、何がいいかなぁ。中華もいいしイタリアンもいいし、迷うなぁ。ステーキもいいし蕎麦もいいよね。うーん、うどんもいいよね。最近美味しいうどん屋さんできたみたいだし。あぁ、決められないなぁ。うーん、Cさんは何がいい?」

このような具合にAさんは延々と迷い続け、ほかの人に聞いたりします。

BさんはAさんの決定を待っているうちにイライラしてきて、心の中で「Aさんは優柔不断な上司だ」とネガティブなラベルを貼ってしまいました。

でも、はたしてそれは事実でしょうか。

事実は決定に時間をかけているだけです。ほかの人に対して、意見を聞くなど配慮しています。事実だけを分析すると解釈は変化します。

ポジティブな視点に変えると、「優柔不断な人」という解釈が変わります。「Aさんは優しい人、思慮深い人、思いやりのある人」とも言えるのです。

このように、意図的にネガティブワードをポジティブワードに変えてしまうことを「言葉のリフレーミング」と言います。

■相手の言葉をそのまま受け取る必要はない

では練習です。次の言葉をポジティブな言葉に変えてみてください。

国語の授業ではありませんから、A=Bしかないということではありませんので、気軽に思いつく言葉を書いてみましょう。

(例)【優柔不断】→優しい・思慮深い・思いやりがある・周囲に気配りできる・視野が広い・他人の考えも尊重する・ベストを探すために手抜きをしない


(問題)【気が短い】【空気が読めない】【怒りっぽい】【気が弱い】【面倒くさがり】【人に流されやすい】【ケチ】【八方美人】【暗い】【すぐネガティブに考える】【のろま】

いかがですか? 最初は難しく感じるかもしれませんが、練習を重ねるうちに、ポジティブな意味合いの語彙(ごい)が増えていきます。

桜井妙『元JALのトップCAが明かす ベストパフォーマンスを発揮する人の「接客力」』(大和出版)

たとえば、同僚から「あなたは行動が遅い。のろまだから接客業に向いてないよ」と言われたとします。

この「のろまだから接客業に向いていない」という決めつけは正しくありません。「のろま」という言葉をリフレームすると、「慎重に考えて行動している」と捉えることもできます。

自覚があるならばスピーディーな行動ができるよう努力は必要ですが、同僚の言葉をそのまま受け取る必要はないのです。

「私はこの仕事に向いてないんだ」と捉えるのではなく、「私は慎重に考えて行動できている。だけど、スピーディーさも必要かもね」と解釈しましょう。

言葉のリフレーミング、どんどん挑戦して、暗い気持ちはすぐホイミして明るい気分にしてみませんか。

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桜井 妙(さくらい・たえ)
コミュニケーション・デザイン結 代表取締役
JAL国際線客室乗務員として28年間勤務。在職中、社長表彰など数多く表彰される。2012年より現職。専門は、コミュニケーションとストレスの危機管理。米国NLP協会認定トレーナーアソシエイト、睡眠健康上級指導士、シナプソロジーアドバンスインストラクターなど資格多数。現在、全米さくらラジオ制作の「イエス ユー キュン♪」とFM北海道制作の「ミラコイcast」「危機管理podcast〜Watch Out」の3本のポッドキャストを担当。フランスと日本を拠点に活動。
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(コミュニケーション・デザイン結 代表取締役 桜井 妙)