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既婚男性と独身女性が何度も一緒に、旅先で宿泊したり、ラブホテルを利用したりすれば、不貞行為があったと考えるのが普通だろう。しかし、これを否定する裁判例(福岡地裁令和2=2020年12月23日判決)もある。

判決文によれば、男性には妻子がいたが、結婚生活25年を過ぎたころ、3人の子をもつ女性と知り合った。女性は夫と死別しており、男性と知り合った当時はすでに独身。男性が既婚者であることを知っていたが、男性と交際するようになった。

2人が知り合ってから約2年後、男性と妻が離婚。2人の関係を知った妻が、女性に対し、不貞行為に及んだとして、不法行為に基づく損害賠償請求として慰謝料500万円を求めて提訴した。

被告となった女性は裁判で、男性と一緒に宿泊をともなう遠出をしたり、ラブホテルを利用したことはすんなり認めた。しかし、男性との関係は依存症等について学習する「師弟関係」だったにすぎないと主張。

旅行先での宿泊したのは学習に関する講座やミーティングに参加するためであり、ラブホテルの利用は学習するのに適当で利用料金が低額な場所がほかになかったからで、不貞行為には及んでいないと訴えた。

●裁判所は「LINEでのやり取り」に着目

交際する男女がラブホテルで一緒に過ごしたならば、不貞行為に及んだと考えるのが一般的だろう。小説やドラマでは、不倫の証拠としてラブホテルの出入り写真が出てくることも珍しくない。

裁判所も、旅先での宿泊やラブホテル使用の事実に加え、「不倫でしかないと思った」など2人の間で交わされたLINEでのやり取りから、「性行為に及んだ事実が極めて強く推認される」としている。

しかし、2人は精神世界の理論についてマンツーマンで相互学習する精神的に緊密なつながりのある特殊な関係だったと指摘。学習のために2人が密かにラブホテルに出入りすること自体を指して「不倫」という言葉を使ったという女性の主張は、「必ずしも理解できないものではな(い)」とした。

また、LINEでのやり取りで、男性が性行為を諦める心情を示すものや、女性に性行為を求めるのを自制しているという認識を示すものが複数あったことは、「不貞行為の存在を前提にするものとは考え難い」と判断。ラブホテルだと料金が低額に抑えられるとの理由も相応のものだとし、結論として、不貞行為の存在は「証明不十分」だとして、妻の請求を棄却した。

宿泊先やラブホテル滞在中に何があったかは通常、第三者にはわからない。とはいえ、LINEでのやり取りによって、不貞行為があったとまでは認めなかったことには賛否がありそうだ。この判決をどう捉えればよいのか。森元みのり弁護士に聞いた。

●今回のような主張は「不合理であるとして排斥されることが大半」

--一般的な見方からすれば驚きの結論という印象がありますが、こういった事例は珍しくないのでしょうか。

正直なところ、私も驚きの結論であると感じました。

精神世界の理論について学習するグループやミーティングでの参加者同士の関係性について私は詳しくないため何とも言えませんが、他の例でも、ホテルへの入室等は認めながらも不貞は否認し、室内で相談に乗っていた、具合が悪くなったのを介抱していた、ゲームをしていた等の説明がなされることはあり、そうした説明は不合理であるとして排斥されることが大半だからです。

ただ、本件以外にも、男女2人で暮らしているのを不貞ではなくシェアハウスであると認定した例などは見たことがあります。そのときは、裁判官が、判決文には表現されない何らかの理由で不貞を認定すべきではないと考えたのではないかと思いました。

--今回の判決のポイントは何でしょうか。

証明不十分、ということですね。

不貞を強く推認させる証拠もある一方、LINEのやり取りが、性行為がなかったことを前提としていると解釈する余地があるとされています。

一見すると、本件でのLINEのやり取りは、むしろ性行為があったことを前提としているとも解釈できそうなのですが、ここで“精神世界の理論を学習する師弟”という特殊な関係であるという視点が働いたようです。

この特殊な関係をどう捉えるかは難しいところですが、LINEのやり取りが、不貞があったともなかったともどちらにも取れるなら、不貞の立証には達していないということなのでしょう。

ただ、仮に肉体関係の立証までは届かなくても、友人を超えた交際関係によって原告の権利を害したという考え方もあり得るかもしれません。控訴審ではどのような判断になるのか気になります。

●SNSでのやり取りを「いかにわかりやすく証拠化するか」

--LINEを含むSNSでのやり取りは、男女問題における証拠としてどのように評価されていますか。

重要な位置を占めていると言えます。探偵事務所等に依頼するまでもなく、LINEをはじめとするSNSでのやり取りさえ手に入れば、不貞の立証に十分という場合も多くあります。

肉体関係を推認させるワードややり取り、一緒に行動していることがわかる写真などが含まれていることが重要です。そうしたポイントが含まれていれば、その周辺のやり取りから、不貞の期間や頻度、態様なども推測できることが多いため、有用な証拠となっています。

--一つの事例に対する判決ではありますが、今後、不貞行為を証明することなどに対して何か影響はありますか。

私が原告側の代理人だったなら、この事案であれば不貞の立証は十分であると信じ切っていたと思います。LINEのやり取りも、不貞があったことを前提としていると解釈してしまいそうです。逆に、被告側の代理人であれば諦め半分で臨んでいたと思います。

SNSでのやり取りは、ときに膨大で、当事者でないと意味がわかりにくい箇所も多く、読み込むのが大変なこともありますが、様々な可能性を念頭に置いて丁寧に読み、裁判官に納得してもらえる説明をすることの重要性をあらためて感じました。膨大な量のやり取りの中から、有用な箇所をいかにわかりやすく証拠化するか、という視点も大切なのだろうと思います。

【取材協力弁護士】
森元 みのり(もりもと・みのり)弁護士
東京大学法学部卒業。2006年、弁護士登録、森法律事務所入所。 著書・監修書に、『簡易算定表だけでは解決できない養育費・婚姻費用算定事例集』(新日本法規)『2分の1ルールだけでは解決できない財産分与額算定・処理事例集(新日本法規 )他。
事務所名:森法律事務所
事務所URL:http://www.mori-law-office.com/