小倉優香

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 早寝早起きの生活リズムと合わないので、深夜ラジオを辞めたい。番組で降板を直訴したタレント・小倉優香。本人の言葉によれば、降板の意思は3カ月以上前から事務所に伝えていたとのこと。それなのに事態が変わらないので、生放送中に言う、という苦渋の決断だったことを明かしている。

 彼女の行動について賛否は分かれた。ただのワガママだ。周囲のタレントも動揺させて番組が台無しになった。そういう人たちもいれば、無理にやりたくない仕事をやらなくてもいい、前々から伝えていたのに事務所が動かないなんてブラック企業だ、という人たちもいる。指原莉乃は、「芸能界の仕事がなくなってもいいという覚悟で言ったのではないか」とクールにコメントしていたが、そこまで破れかぶれだったかどうかは疑問である。むしろ、とても自分に自信があり、まだ芸能活動はできると踏んで実行に移したように見える。

小倉優香

 芸能事務所のメンツをつぶし、スポンサーや共演者に迷惑をかけることは、タレントにとって自殺行為だ。指原の言っていることはそういうことだろう。ただ、今いちばん業界で力を持っているのは、「SNSを使う無名の人々たち」ではないだろうか。たとえば、ユッキーナの引退のきっかけを作ったのも、彼女の復帰を再度阻んだのも、一般市民による告発やブーイングの嵐だった。ユッキーナの芸能事務所は大手である。その大手でさえ、無名の人々を黙らせることは不可能なのだ。

 そして今は、大手事務所を退所してYouTuberとして成功する元タレントたちも増えている。彼らの得意客はスポンサーでもテレビ局でもなく、やはり無名の人々たちである。登録者数が増えて人気が爆発すれば、再びテレビからオファーが殺到するという逆輸入パターンだって可能だ。芸人のヒロシなどがいい例だろう。

 だから小倉は、芸能界引退なんてことは考えていないと思う。折しも芸能界は、年若いタレントの自殺が相次いだ時期でもあり、本人の意思に反する働かせ方やメディアの切り取り方に反発が強まってきているところである。小倉自身も自分という「踏み絵」を差し出して、こう問うているように見える。私をこのまま踏みつけにするなら、旧人類と思われるけど、それでもいいの?と。SNS総出で戦うことになってもいいの?と。

世間の非常識は業界の常識 メリットの大きい小倉の「悪名は無名に勝る」成功術

 彼女のやり方は、一般常識に照らし合わせればいささか過激かもしれない。しかし、だからといって成功しないかといえばまた別の話である。世間では失礼や非常識に当たることでも、メディアではそれが価値になる。誰もやらないこと、やりたがらないことをやれる人間が数字を稼ぐからだ。

 今回の騒動も、小倉にはメリットが大きい。本人は女優と言っているが、世間の大半はグラビアタレント、という認識しかなかっただろう。この件で彼女の名前を知った人も多いはずだ。事務所が苦心して、やりたくもないラジオをやらせ続けているよりも、あっという間に知名度を稼ぐことができた。皮肉なことだが、まさに「悪名は無名に勝る」である。

 また自分の立ち位置を明確にすることで、希望に近い仕事を引き寄せやすくなる。物おじしないイマドキの女性としての役や、そういう立ち位置でのバラエティ番組のオファーもあるだろう。一方、深夜収録のある番組はリスクを負ってまで彼女に出演交渉はしなくなる。いまやメディア側も働き方改革が叫ばれ、それこそSNSで批判されやすい時代。規則正しい時間帯で仕事ができるなら、会社としてもいろいろとありがたいに違いない。

 友人が自分の家族と会った時には「この子わがままですが大丈夫ですか?」と必ず念を押されるという。禁止と言い渡されていたのに、バレないだろうとまつげエクステをしたり髪を緑に染めたりして撮影に臨み、スタッフが苦心して修整作業を行ったことを笑いながら話していたこともある。今回の一件も、小倉にとっては日常生活の延長に違いない。

 むしろ彼女ではなく彼女のマネージャーが一番つらいことだろう。タレントからは批判され、事務所からは管理能力を責められ、スポンサーと番組に謝罪し、社会からはパワハラマネジメントとヤジが飛ぶ。限界まで追いつめられる前に、逃げてもいい、辞めてもいい、と小倉よりも彼女のマネージャーに言ってあげた方がいいのでは。そんな気がするのは私だけだろうか。

冨士海ネコ

2020年8月6日 掲載