36歳長谷部の熟練技に独識者も喝采 高次元の“心技体”…ブンデスで輝き続ける理由とは?
【ドイツ発コラム】マインツ戦でアジア人選手最多「309試合出場」を達成 長谷部の持つ“強み”とは?
2019-20シーズンのブンデスリーガ第30節マインツ戦(0-2)にフル出場を果たしたフランクフルトの元日本代表MF長谷部誠は、ブンデスリーガ通算出場試合数を「309」とし、アジア人選手としての最多記録を更新した。
地元メディアにも、ファンにも「経験豊富でインテリジェンスの高い選手」と絶賛され続けているが、それにしても経験やインテリジェンスがあるからと、36歳の今も中心選手としてあれだけのクオリティーを発揮できるものなのだろうか。
どれだけ頭の中で次のプレーを予測し、準備を整えていたとしても、それを実際のプレーで表現できなければどうしようもないはずなのだ。つまり、ブンデスリーガの強度に対応できるだけの基本的なフィジカル能力、競り合いの強さがなければ、判断力の精度とスピードはメリットにはならない。
そして、もし相手チームにウイークポイントと分析されたら、試合中に露骨なまでに狙われるはず。大型FWを長谷部にぶつけてロングボールを蹴りこんできたり、くさびのパスを入れて優位な状況を生み出そうとする。
実際にそういうやり方を狙ってくるチームもある。だが、そうした局面でさえ競り合いに負けないどころか、そこでボールを勝ち取ってしまうことができるからこそ、長谷部はブンデスリーガで生き残り続けることができているのだ。
では具体的に、長谷部の持つ強みとはなんだろうか。純粋なスピード勝負では分が悪い。単純な短距離走では厳しいだろう。パワーにおいても、最大筋力の数値では勝てないかもしれない。
だが、サッカーにおいて求められるフィジカル能力とは最大スピード、最大パワーの数値だけではない。長谷部は最短距離で対象物への距離を詰める身のこなしが非常に優れている。どれだけ馬力のある選手でも、スピードに乗れなければ力は存分に発揮できないが、その点長谷部は次のプレーに向けてスムーズに移行するための体の向きと準備ができているので、すぐに動き出せる。
さらに言うと空間把握能力が非常に高く正確なので、ボールの動きから速やかに到達点をはじき出し、無駄の少ないタイミングとコース取りを可能にする。他の選手は誤差を修正しながらボールを追いかけるから、余分な距離とコースを走ってしまうことがある。だから相手のロングボールが手薄なサイドに抜けてきても、すでに到達点には長谷部がいたりする。
解説者も絶賛「『危ない!』という場面に必ず長谷部がいて的確に処理してしまう」
無観客試合の開催中はスタジアム取材ができないため、筆者も専らテレビ観戦しているのだが、毎回のように解説者が「またハセベだ。フランクフルトにとって『危ない!』という場面には、必ずハセベがいて的確に処理してしまう。どこにでも現れる選手だ」と絶賛している。
また、相手がボールを懐に収めた状況では、すぐに頭の中を切り替えて次の展開を読んだポジショニングを取る。一番に抑えなければいけない危険なパスコースを潰し、体の向きと相手への距離を遠すぎず、近すぎずに保ちながら、相手の選択肢を限定していく。そして最後の局面ですっと体を寄せてボールをカットする。その距離を詰める一連の動作はとても滑らか。ファンはそんな熟練の妙技に、喝采を送るのだ。
ガツガツとした当たりの激しさが特徴のブンデスリーガだが、だからこそ1対1の競り合いでは負けるつもりはない。
「最初の頃はとにかく『ヨーイドン!』で当たっていましたけど、30歳を超えたくらいから、ブンデスリーガの中で余裕を持ってやれるようになってきたかな」と以前語っていた長谷部にとって大事なのは、どのように勝機を見出すか、という点だ。
「行くところと行かないところを、自分の中で分けてやっている。そういう1対1の戦いで、フィジカル的に負けるようになったら、ブンデスでは厳しいかなと思っている。やっぱりブンデスリーガは1対1の戦いのリーグなので、その中でフィフティーフィフティーで当たったら勝ち目のない相手でも、そこにどう勝ち目を見出していくか。そういうことを考えながらやっている」
自分の力を最大限有効に生かすための術を身につけているのだ。
例えばロングボールの競り合いならば、いち早く落下地点に正確に移動し、競り合おうとする相手選手に対して自分から一度体をぶつけ、バランスを崩させてからボールにアプローチする。どれだけ大型の選手でも、動いている時には重心がずれていることが多い。角度を変えて当たれば、どんな相手でもバランスを保ちながらボールに向かうことは難しくなる。
飛び込むかどうかではなく、どのように飛び込むか。自分の間合い、飛び込むスピード、当たる時のパワーを高いレベルで把握しているからこそ、駆け引きの中で相手選手の体の前へと上手く体を潜らせてボールを奪い取ることができる。
まさに“心技体”すべてがハイクオリティーで備わっているからこそ、長谷部は今もなお非常に優れた選手なのではないだろうか。(中野吉之伴 / Kichinosuke Nakano)
