■27カ月目で破綻する「ねずみ講」の数学的考察

ねずみ講」をご存じだろうか。ねずみが一定期間にどれだけ増殖するかを計算したものを「ねずみ算」といい、それを犯罪に応用したテクニックがねずみ講だ。よく「マルチ商法(ネットワークビジネス)」と混同されるが、厳密には別物である。ねずみ講は無限連鎖防止法という法律で禁じられた非合法ビジネスなのに対し、マルチ商法は合法なのだ。

ねずみ講の基本的な勧誘パターンの代表例は、「1カ月に2人、入会させるだけでいいのです。あとはその2人が新しい会員を2人ずつ増やすので、その入会費の一部が紹介料としてあなたの収入になります。確実に儲かる仕組みです」というもの。最初に会費を払って入会し、あとは2人の会員を勧誘すればいい。「1カ月で2人なら、私でもできそう」と軽い気持ちで始めてしまいがちで、まん延しやすいのである。

しかし、このビジネスシステムは人口が有限であることから、最終的に必ず崩壊するようになっている。図のように、ねずみ講はピラミッド構造をしている。最初の1人が会員を2人募り、次にその2人がそれぞれ2人を勧誘し……と続く。会員が毎月2人ずつ会員を増やしていけば、2カ月目は「1+1×2=1+2=3人」となり、3カ月目は2カ月目に新規入会した2人が2人ずつ勧誘するので「1+2+2×2=1+2+4=7人」となる。

こうして毎月会員が増えていくと、27カ月(2年3カ月)目に会員数は計算上1億3421万7727人となる。つまり、日本の人口(約1億2000万人)を超えてしまうことになり、それは物理的に不可能なため、破綻するというわけなのだ。

■実際に体験すると、冷静な判断ができなくなる

上記の計算をもっと簡単にする方法が指数を使った計算式だ。指数とは、ある数字を何回かけあわせるかを示すもので、数字を2乗、3乗……するときに使う。たとえば、「2³=8」の「3」が指数だ。

会員数は2倍ずつ増えていくので、2カ月目以降は「会員数=2x−1」という式で表せる。「x」は月数、「−1」は創設メンバーの重複分を意味する。2カ月目は「2²−1=4−1=3人」、3カ月目は「2³−1=8−1=7人」……、27カ月目は「2²⁷−1=134,217,728−1=1億3421万7727人」という計算だ。

ねずみ講に引っかかるなんて頭がよくない証拠、自分は絶対に騙されないと思っている人はきっと多いだろう。しかし、振り込め詐欺なども同じだが、そうした心の隙を突いて勧誘はやってくる。いざ実際に体験すると焦ってしまい、冷静な判断ができなくなるものだ。したがって、「なぜありえないのか」を理解しておくことがとても大切になる。

ちなみに、合法であるマルチ商法は何らかの商品を販売する。自分が勧誘したグループの売り上げに対して、一定割合が収入となる。また、収入が得られる範囲が決まっている(孫、ひ孫会員までなど)ため、あとから会員になった人でも販売力があれば上の人を追い抜くことが可能など、商品が流通する限り基本的に破綻しないシステムのため、特定商品取引法で連鎖販売取引と定義されている合法ビジネスなのだ。

----------
佐々木 淳海上自衛隊数学教官
1980年、宮城県生まれ。東京理科大学理学部第一部数学科卒業後、東北大学大学院理学研究科数学専攻修了。代々木ゼミナール講師を経て現職。著書に『身近なアレを数学で説明してみる』がある。
----------

(海上自衛隊数学教官 佐々木 淳 構成=田之上 信)