6月14日、レアル・マドリードと近い関係にあるスペインのスポーツ紙『as』(アス)は、日本代表MF久保建英(FC東京)のレアル・マドリード移籍について、以下のように伝えている。

「東京中日スポーツ紙によれば、FC東京とマドリードの(久保の移籍に関する)交渉は、大詰めにさしかかっている。メディカルチェックも完了。あとは本人のサインのみに。この移籍はバルサに打撃を与えるだろう」

 短い文章だが、行間からは実に濃密な内容が伝わってくる。

 まず、移籍交渉の流れを、マドリードのメディアよりも、先に日本のメディアが手に入れている点だ。これは久保サイドの”強い意志”を指し示している。次に、100%の契約ではないものの、メディカルチェック済みで、ほぼ契約合意という事実。そして3つ目は、レアル・マドリードが「バルセロナで10〜14歳までを過ごし、復帰の予定もあった選手を”簒奪する”」という歓喜だろう。レアル・マドリードとバルサは世界を二分するほど、憎悪をぶつけ合う間柄だ。

 日本人にとって、久保は新たな世界を切り拓く英雄的存在になりつつある。彼はそういう星の下に生まれたのだろう。だが、その進撃は思った以上で、世界サッカーをも巻き込もうとしている。
 

来週はコパ・アメリカで日本代表としてプレーする久保建英

 久保に関する移籍交渉の内容に関しては、今年に入って代理人も変更されているだけに、その真実は見えない。また、見えたとしても、さまざまな人々の思惑が複雑に絡み合っており、真実などないに等しいものだろう。

 ひとつ言えるのは、久保本人が飛躍する野心を持ち、相応する実力を身につけたという点だけだ。

レアル・マドリードは、バルサが『18歳の少年に払えない』とはねつけた年俸100万ユーロ(約1億2000万円)に近い金額を払う用意を示した」

 スペインで『as』と同じくレアル・マドリード系メディアと言われる『MARCA』(マルカ)は、そう報じている。移籍金は200万ユーロ(約2億4000万円)で、5年契約だという。おそらく、トップチームでの選手登録も条件に入るだろう。どれも、バルサ側が断った条件と言われる。

レアル・マドリードは才能ある若手と契約し、トップに引き上げるというクラブの方針がある。(久保は)その条件に合ったということだろう。まずはカスティージャ(レアル・マドリードのBチーム)でプレー。その後は(2018年に18歳で入団したブラジル人アタッカー)ヴィニシウス・ジュニオールのようにトップに昇格できるか」

『MARCA』はそのように伝えている。端的に言えば、「若い才能に投資を惜しまなかった」ということになるだろうか。レアル・マドリードは即戦力でなくとも、10代のタレントと契約するポリシーを持っている。

 2015年、レアル・マドリードは当時16歳だったノルウェーの左利きアタッカー、マルティン・ウーデゴールと契約(当時は、FIFAが18歳以下の選手移籍を半ば容認していた)。また2016年には、ウルグアイ人ボランチ、フェデリコ・バルベルデを18歳になるのを待って正式に獲得している。ヴィニシウスも含め、まずはカスティージャでプレー。2019年夏には、「ネイマールの後継者」と言われるブラジル人アタッカー、18歳のロドリゴ・シウバが入団予定だ。

 久保も、世界一有望な若手リストのひとりに名を連ねたことになる。

 もっとも、未来は自ら勝ち取るものだ。

 2016年、パラグアイ人FWセルヒオ・ディアスは久保と同じように、18歳でレアル・マドリードに鳴り物入りで入団した。支払われた移籍金は、久保の倍以上の500万ユーロ(約6億円)だった。しかし、たった1シーズンでほぼ見切りをつけられ、2シーズン目は2部のチームに貸し出されたが、そこでも膝のケガもあって鳴かず飛ばず。現在は1年半の契約で、ブラジルのチームに貸し出されている。

 来季は、2部B(実質3部)に在籍するカスティージャで、久保は一歩を刻むことになる。そこで他を圧倒するプレー、もしくは好成績を残せなければ生き残れない。先に挙げた若手選手で、トップの定位置を奪った選手は、ヴィニシウス以外、ひとりもいないのが現状である。久保の想定ライバルは、ベルギー代表エデン・アザールか、スペイン代表イスコか、はたまたクロアチア代表ルカ・モドリッチか。ポジションも含め、すべては監督次第になるが、いずれにせよ厳しい競争が待っているだろう。

 もっとも、久保は劇的な進化を示している。スペインに渡っても、決して怯むことはないだろう。リオネル・メッシがそうだが、久保もピッチ上で呼吸が荒くなることがない。出し手、受け手との距離や角度が最適かつ自然で、動きに無駄がないのだろう。だからこそ、初めてプレーする日本代表でも、水が流れるようにパスが入ってきた。環境に適応しながら、成長できる選手だ。

「クレ」と言われるバルサファンから、すべての憎しみをぶつけられるようになった時――。久保は、世界サッカーの英雄になっているだろう。憎しまれる分だけ、深く愛されるはずだ。

「FC東京は久保のレアル・マドリード移籍についてのコメントを避けた」

 一方でバルセロナ系のスポーツ紙、『EL MUNDO DEPORTIVO』(エル・ムンド・デポルティーボ)はそう報じ、まだサインがされていない点を強調している。

 クラブとして公式に契約を発表した瞬間、「レアル・マドリード久保」が誕生する。