22日に行われた大相撲名古屋場所千秋楽は、史上初の横綱、大関による全勝対決だった。

中継は、今やNHKの相撲中継の第一人者となった藤井康生アナ。この人は、極まり手や力士個々の取り口などが完全に頭に入っている。TBSの「サンデー・モーニング」で相撲が出るときにエセ中継をするアナを1とすれば、藤井アナは100くらいの実力がある。

さて、結びの一番、二人の仕切りの間、藤井アナは一言もしゃべらなかった。両力士が仕切るさまが数分間、淡々と映され、場内の音がそのまま流れた。制限時間いっぱいになって、場内から歓声が上がると、思わず画面に惹きつけられる。

相撲自体は割とあっさりしていたが、「無言の演出」が功を奏して、素晴らしく盛り上がった放送になった。

五輪ではこうはいかないだろうな、と思う。民放アナは、自分の知ってる言葉を全部並べ立てて喋りまくる。選手のこと、選手の親のこと、恩師のこと、故郷のこと、彼女のこと、負けたライバルのこと、昨日食べたもの、好きなタレント。

スポーツ中継では、勉強せず、自信がないアナウンサーほどしゃべりまくる傾向にある。

民放アナは普段スポーツ中継をほとんどしていないし、世間をなめている連中が多いから、余計にそうなる。話している本人は、盛り上がってくるかもしれないが、聞いている方は鬱陶しいだけだ。

五輪の民放放送は、こういう一人だけ盛り上がる“カラオケ中継”になるのだと思う。民放は、本当に凄い試合には、最低限の言葉を添えるだけで十分――、ということにいつ気づくのだろうか。