「理念も哲学もない」元ラグビー日本代表・平尾剛氏が外国ルーツ選手排除の新制度を痛烈批判…「レイシストがルールを作った」と言われても仕方ない
日本ラグビーのトップリーグ=通称リーグワンが、新たに打ち出した選手登録制度をめぐって揺れている。批判を浴びているのが、日本代表の資格がある選手を対象とした制度の変更だ。
【画像】「(新制度は)残念な気持ち」これまで日本代表として大きく貢献しながら、事実上の出場制限を受ける選手
新制度は理念も哲学もない
ラグビーの国家代表は、サッカーのような国籍主義ではなく、一つの国のラグビー協会に所属してそこで4年以上プレーをすれば、外国籍であってもその国の代表になれるという所属協会主義である。
これまで日本代表資格者は「カテゴリーA」とされていたが、リーグワンは日本独自のルールとしてそれを細分化し、「カテゴリーA1」と「カテゴリーA2」に分けた。
従来通り日本人選手と同じ扱いを受けるA1にはあらたに「義務教育期間9年間のうち、6年以上日本に在住」することが求められ、この要件を満たしていない選手はA2とされる。
リーグの公式戦では、ピッチに入る15人のうち、A1資格選手を常時8人以上、出場させるという規定になっており、A2選手は事実上の出場制限を受ける。
特例としてA2選手でも代表キャップ数が30以上であればA1扱いになるが、この新制度によって30に満たない具智元(韓国)、ラファエレ ティモシー(サモア)、アマナキ・レレイ・マフィ(トンガ)といったこれまで日本代表として大きく貢献してきた選手たちも、A2になる。
その中には、外国ルーツから日本国籍を取得した選手もいるが、今さら、義務教育期間に戻れるはずもなく、格下げの対象にされている。
この新制度に対し、コベルコ神戸の中島イシレリ選手ら、日本国籍を持つ外国出身選手20人が、4月末に「独占禁止法の優越的地位の乱用にあたる」として公正取引委員会に是正を求め、東京地裁に地位保全の仮処分も申し立てた。
以前より、多国籍の選手をワンチームとしてまとめるラグビー文化の多様性を高く評価していた元日本代表の平尾剛成城大学教授に問題の本質を語ってもらった。
ーーなぜ今回、このような制度が導入されたのでしょう。
平尾剛(以下、同)私の印象では、今回の新登録制度は、ラグビーのオールドファンの声におもねったのではないかというものです。
「結局リーグワンのメンバー表を見てもカタカナ表記の選手ばっかりでなかなか応援できない。日本人以外の選手がやっぱりちょっと多すぎないか」という声が、古いファンの間からボソッと出てくる。
それはあくまでも自分たちが見てきた時代のラグビーと今が違うことに過ぎず、1 ファンとしての気楽な立場からの発言でもあるのですが、意外と協会の上層部にもそういう考え方がまだあるのかもしれません。内輪でもっと日本人選手を増やさなきゃいけないという思いつきです。
思いつきだから理念も哲学もなくて、ルール変更をすることによってどのような日本のラグビー像を描きたいかというものもない。極めて短絡だというふうに僕は見ています。
「レイシストがルールをつくってしまっている」
――代表選手のカテゴリーを義務教育期間にさかのぼってあらたに規定して分けるというこの新制度は日本だけのローカルルールで、実は発表したのが1年前でしたね。
当時は大きなハレーションも起きなかったので、協会もタカをくくっていた節がありますが、実際に選手側から声が上がって公正取引委員会に持ち込まれたことで、協会の理事長と専務理事による記者会見が4月30日に行われました。
すでに日本国籍を取得した外国出身の選手を新ルールで縛ってA2に落とすというのは、不遡及の原則(新しくできた法律や規定を、その施行前にさかのぼって適用しないという原則)に基づいて無理があるのではないかという質問も出ていました。日本国籍まで取得した選手まで過去に戻って排除するというのは、どうなのでしょう。
平尾 あの会見は自分も見ていました。弁明としては、日本国籍を持っていても関係なく、それこそが、所属協会主義に則ったものだというのですね。でもそれは詭弁でしかない。
だって所属協会主義というのは、国家という枠組みにとらわれないこと。その土地で暮らし、その土地で実際にプレーを5 年やったらもう仲間なのだから、そこの代表になれるというのが、ラグビーの世界のスタンダードで、素晴らしいところです。
海外ルーツの選手たちはラグビーだけではなく、これからも未来永劫、日本で生きていくという前向きな決意で日本国籍を取ったわけで、そこで協会所属主義だから、国籍は関係ないという弁明は、自分たちがあのルールを通すための無理からの正当化です。
所属協会主義の本質を理解した上で会見して欲しいですね。根底には、やはり日本生まれの日本人選手以外の排除だと思うのです。
――公正取引委員会に申告をしたトンガ出身の中島イシレリ選手は、コベルコ神戸で平尾さんの後輩にあたるわけですが、彼もメディアに向けて『レイシスト(差別主義者)がルールをつくってしまっている』と発言していました。
平尾 レイシストとはっきり言いましたね。彼は普段、そういう厳しい言葉を使う選手ではないので、私もあの発言には驚きましたが、それぐらいの決意を持って日本国籍も取ったという話です。
僕が個人的にとても腹を立てているのは、これだけラグビーが普及したのは、国際大会でも日本のために身体を張って戦ってくれた外国出身の彼らのおかげではないですか。その多様性のすばらしさも含めて、代表の活躍を目の当たりにした2019 年のワールドカップ日本大会から、ひとつのブームが続いてきました。
私が大学でラグビーの授業をしても学生の食いつきが明らかに良くなったんです。講義をする時にもいろんなスポーツの特質とかレギュレーションを知ることで社会を知ることになる。彼らはその意味で日本のラグビーにおける功労者ですよ。
その選手たちの梯子を外してないがしろにするのは、私は到底理解できません。今回のルールの変更決定についてもチームとは話したかもしれませんが、選手個人とは直接話していないわけで、これでは使い捨てです。批判がこれだけ飛び交うのは当然です。
他競技にもあった外国籍選手の排斥制度
――協会の会見では、玉塚元一理事長が、今回の新制度は日本出身選手の育成するためで見直すつもりはないと発言していました。この育成という観点からはどうなのでしょう。
平尾 ラグビーの競技人口が減っていることに対する ひとつの対策であるということでしたね。高校ラグビーの選手が減少しているのは、代表チームにたくさん外国人がいたら、上を目指すことなく辞めてしまう。大学まで続けても従来の枠組みだと、卒業後に引退して普通に就職するケースが多いのでそれに対応するためということでしたね。
しかし、競技人口の減少対策を考えるのであれば、取り組む方向性が違います。10代の選手は、特に中学校でみんな離れていくんですよ。
進んだ中学校にラグビー部がないから続けられないという問題があるのです。まずは、中学の部活動を活性化させるとか、創部を奨励する、各都道府県でアカデミーを作るとか、やることはたくさんあるはずです。
最後のところ、リーグワンのところだけいじっても抜本的な競技人口の歯止めにはならない。筋が通ってないんです。
※
「日本人選手の強化育成のため」という理由付けで外国人選手の活動を制限するというNF(国内競技団体)のアクションについては、鮮明に記憶するものがある。バレーボールのVリーグが、1999年度から、外国籍の女子選手の登録を認めなくしたことがあった。
「コンビバレーの良さを見直す」「人気回復と代表強化のために日本人選手の出場機会を増やすため」という説明であったが、結果的にこの改革は失敗に終わり、Vリーグの人気凋落が進んで、3年後にまた外国籍選手の登録を復活させている。
このルール変更が用いられたときは、男子は外国籍選手の登録・出場ともに認められていたために、当時連覇を続けていたダイエーオレンジアタッカーズのエースセッターで米国籍のゼッターランド陽子選手を排除するためではなかったかとさえ言われていた。
それほどの愚策だった。当然ながら実力のある選手がリーグにいることが、人気・実力ともに活性化する。
東京朝鮮高校を救った準優勝校主将のコメント
逆のケースもある。1954年、東京朝鮮高校が都立だった時代、同校のサッカー部が東京都予選を制して全国高校選手権大会への出場を決めた。ところが、これに全国高体連の会長が待ったをかけた。
「高体連も選手権も日本の高校生のためにあるのだ」と都高体連理事に叱責が入り、朝鮮高校の加入問題があらたに議論されることになったのである。しかし、会議の席上で意見を求められた準優勝の青山学院高等部の鈴木洋一主将が毅然と言い放った。
「僕たちは決勝で朝鮮高校に0対2で負けた。強いチームにやられて、次こそは勝つ、そのためにもっと努力しようという気持ちになったのです。スポーツの世界で国境があってはいけない。
外国人だからということで朝鮮高校をオミットすることはできない。僕たち青学高は朝鮮高校の加入を要求します。彼らには東京都の代表として全国大会で暴れまわってきて欲しい」
このときの東京朝鮮高校は鈴木の期待に応えるように全国でベスト4に入っている。
この問題、筆者には、街中の外国人が経営する外国料理店などの経営資格要件の厳格化の流れともリンクしているように思えてならない。
これまでは資本金500万円以上であったものが、昨年10月から3000万円以上に引き上げられた。すでに店を営んでいる在留資格者も3年以内に要件を満たす必要がある。
資本金が3000万円以上の企業は、他業種も含めて日本国内では10%にも満たない。ましてや規模の小さな個人の飲食店では、この増資は不可能に近い。
これまで、日本各地で美味なエスニック料理を提供し、学生や若い会社員たちの胃袋を満たしてくれていた外国人が、継続経営をあきらめて店をたたみ始めている。
スポーツや食、それぞれの分野でこれまで日本社会を支え、その繁栄に寄与してくれていた人たちが、排除されている。寒々しい社会に連なる流れになってきていないか。
平尾さんはこう言って締めくくった。
「これはラグビーをやっている選手が、同じ仲間として声を上げるべきではないかと思います。公正取引委員会の判断も見ながら、私も選手会とも連動していきたいと思っています」
取材・文/木村元彦
