ジムでは、社員同士がチームになって身体を動かす様子も

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 ジムに、カフェやバー、子どもを遊ばせながら仕事ができる部屋、お好み焼きなどを調理できる鉄板付きのスペース――。

「これ、本当にオフィスなの?」

 大阪・うめきたエリアの「グラングリーン大阪」に今春移転したコクヨの新本社「KOKUYO HQ」。5月21日に行われたメディア向け内覧会で社内を案内されたときに、そんな疑問が浮かんできた。

ジムでは、社員同士がチームになって身体を動かす様子も

 文具やオフィス家具メーカーとして知られるコクヨが、約90年ぶりとなる本社移転で目指したのは、単なる働く場所づくりではないという。

 新本社は、これまで大阪市東成区の本社と梅田オフィスに分かれていた部門を集約したワンフロア構成。コンセプトは「未知を開く」。人と企業、社会との新たなつながりを生み出す“公開実験の場”として位置づける。

ソファでくつろぎながら作業できるスペース

 取締役代表執行役社長の黒田英邦氏は「単なるオフィス移転ではなく、人と企業、そして社会のつながりを再定義する、コクヨ最大規模の公開実験の場」と説明する。

コクヨ株式会社の黒田英邦 取締役 代表執行役社長

 近年、働き方は大きく変わった。テレワークやハイブリッドワークが定着し、「会社に行かなくても仕事ができる」時代になった一方で、オフィスの役割も改めて問われるようになった。

 そこでコクヨが重視したのが、「体験」だという。

 社内を案内してくれた担当者は「オフィスに来ると体験が増える。体験を通じて次の行動につながるような場にしたい」と話す。

 ただし、それは強制ではない。

「やらされた感が出てしまうと意味がない。『今日はオフィスに行ってみようかな』『あの場所で仕事してみようかな』と思ってもらえることが大切なんです」

 その考え方を支えるのが、ABW(Activity Based Working)と呼ばれる働き方だ。社員は仕事内容や気分に応じて働く場所を自由に選ぶことができる。

 集中したいときは静かなスペースへ。打ち合わせならオープンエリアへ。気分転換したければカフェへ――。固定席に縛られず、その日の仕事や目的に合わせて居場所を変える。

 空間もユニークだ。

 読書などができるリラックススペース、子どもと一緒に過ごせるウェルネスルーム、軽く体を動かせるジムスペース、社員同士の交流を促すカフェやバー。イベントスペースには鉄板も備えられ、お好み焼きなどを囲みながらコミュニケーションを深めることも想定しているという。大阪・うめきたの街並みを一望できる眺望も、このオフィスならではの魅力のひとつだ。

ソロワークスペースも
多目的エリア内に設けられた調理スペース。鉄板を使ってお好み焼きを焼く様子も見られた。

 実際、担当者自身もカフェスペースがお気に入りだという。

「朝にここで仕事をすると、周りでどんな打ち合わせが行われているのか自然と見えてくる。自分の仕事とは違う盛り上がりや発見があって面白いんです」

 一見すると、「遊びに来たのでは」と思ってしまいそうだが、そこにも狙いがある。

 担当者は「楽しんで働くことは大事」と話す。同社ではスーパーフレックス制度を採用し、働く場所や時間についても社員の自主性を重視する。

 オフィス側が一方的に行動を決めるのではなく、社員が自ら場所を選び、人と出会い、新たな体験を得る。その積み重ねが組織の活性化につながるという考え方だ。

「根底には性善説の考え方がある。社員がそれぞれ役割を果たしてくれることを信じている」

社内のウェルネスルームは、親子で過ごしたり、授乳室・祈とう室としての利用など、複数のタイプの部屋がある(画像提供:コクヨ)
「Parkside」(パークサイド)と名付けた場所の一角にある、社内外の交流・学びの場として使える大きなイベントエリア「Townhall(タウンホール)」(画像提供:コクヨ)

 コクヨでは、社員が実際に働くオフィスを顧客にも公開し、自ら新しい働き方を実践・検証する「ライブオフィス」の取り組みを続けてきた。

 その代表例が、2021年に大規模リニューアルした東京・品川のオフィス「THE CAMPUS」だ。街に開かれた空間づくりや社員同士の交流を促す取り組みを続けた結果、社員エンゲージメント調査では「挑戦する風土」のスコアが5年間で11ポイント上昇したという。

コクヨの歴史を感じることのできる展示

 コクヨにとって、この新本社は、そのライブオフィスの考え方をさらに発展させた実践の場でもある。

 空間設計では、GoogleやMeta、Netflixなど世界的企業のオフィス設計を手掛けてきた米デザイン事務所「Studio O+A」と協業。社員同士だけでなく、企業同士の偶発的な出会いも生まれるよう設計されている。

「Marketplace(マーケットプレイス)」という多目的エリアの一角(画像提供:コクヨ)

 また、その視線は社内だけに向いているわけではない。

 グラングリーン大阪のあるうめきたでは近年、本社機能を移転する企業が相次ぐ。塩野義製薬が昨年(2025年)11月に、クボタが今年(2026年)5月に、ビジネス拠点としての新たな船出を切り、「大阪・最後の一等地」への集積が進んでいる。

 黒田氏も「最先端の知性とビジネスが集う場所。多様な企業との交流を通じて、関西経済圏の活性化にも貢献したい」と期待を寄せる。

(提供:グラングリーン大阪開発事業者)

 こうした考え方は、オフィスの外にも広がる。

 コクヨは10月、グラングリーン大阪でパブリックイベント「CULTURE SNACK」を大阪で初開催する。仕事上の肩書や役職といった“表の顔(A面)”だけでなく、趣味や特技といった“もう一つの顔(B面)”を持ち寄る文化祭のようなイベントで、近隣企業や地域住民も巻き込む。

 コクヨが新本社で試そうとしているのは、空間そのものではなく、そこで生まれる体験のデザインなのかもしれない。

 ジムやバー、鉄板付きのイベントスペースも、そのための仕掛けの一つだ。

 人と人、人と企業、そして街との新たなつながりを生み出そうとする“公開実験”が、いま大阪・うめきたで始まっている。