メタノールで妻殺害、第一三共元研究員の控訴審が結審 弁護側は改めて「無罪主張」…一審で懲役16年の有罪判決
妻にメタノールを摂取させて殺害したとして殺人罪に問われ、一審で懲役16年の判決を受けた製薬大手「第一三共」元研究員、吉田佳右(けいすけ)被告(43)の控訴審第1回公判が5月20日、東京高裁で開かれた。弁護側は一審判決の事実誤認を主張し、改めて無罪を訴えた。
控訴審はこの日で結審し、判決は7月1日に言い渡される。
弁護側が挙げた「3つの疑問」グレーのスーツ姿で出廷した被告人は、やつれた様子で、終始ハンドタオルを握っていた。職業を問われ「無職」と答えている。
弁護側は控訴趣意書で、一審判決の事実誤認を訴え、3つの疑問を提示した。
第一に、焼酎の銘柄をめぐる問題。被告人は事件前、妻が普段飲んでいた銘柄(X)の焼酎を携帯電話で撮影した後、別の銘柄(Y)を購入し、Xの写真を削除していた。弁護側は、Yを購入した店では当日Xも販売されており、偽装工作が目的ならXを買うのが自然だと指摘。妻はXをよく飲んでおり、Yでは偽装工作として成立しないと主張した。
第二に、致死量のコントロールが不可能である点。メタノールの致死量は30~200ミリリットルと個人差が大きく、計画的に殺害するなら200ミリリットル超を飲ませる必要がある。しかし、それだけの量を焼酎に混入すれば味や度数が変わり妻に気づかれるおそれがあるうえ、妻がどれだけ焼酎を飲むかは被告人にコントロールできないと訴えた。
第三に、犯行方法の合理性。「計画的に殺害を考えていたのであれば、メタノールを飲ませるというこれほど不確実な方法を選ぶ合理性がない」と主張している。
また、一審では被告人が、嘔吐など妻の異常行動を放置したと判断した点についても反論。妻は亡くなる前に息子と会話し、入浴や歩行など普通の様子を見せていたとし、夫婦関係の悪化を踏まえて被告人の真情を考慮すれば、救急車を呼ぶなど対処していなくとも不自然ではないとした。
さらに、一審が退けた妻の自殺の可能性についても異議を唱えた。妻は死亡当時アルコール依存症だったとし、自殺者に必ずしも明確な兆候が見られるとは限らないと指摘。妻のスマートフォンのデータも開示されておらず「十分な検討がなされていない」と批判した。
「お前のことを風俗と呼ぶ」壮絶な家庭内別居事件の発端は、2022年1月16日朝にさかのぼる。被告人が「妻の意識がない」と119番通報し、搬送先の病院で妻(当時40)の死亡が確認された。
警察は当初、事件性は低いと判断していたが、約2週間後に風向きが変わる。
報道によると、行政解剖を担当した監察医務院の医師から警視庁に「血中から多量のメタノールが検出された」と連絡が入ったといい、その後、死因が急性メタノール中毒と判明。同年9月に被告人は殺人容疑で逮捕、10月に起訴された。
一審の法廷では夫婦の壮絶な関係が語られ、メディアでも注目を集めた。
2人は有名国立大の大学院出身で、2007年に第一三共へ同期入社。2010年に結婚したが、年々夫婦関係は悪化。
2012年11月には長男が誕生したが、妻は「育児放棄」と言いながら被告人を動画撮影するようになり、被告人は授乳期間中の妻の喫煙を理由に暴力を振るった。被告人は性風俗の利用を始め、それを知った妻は「これからお前のことを風俗って呼ぶ」と罵倒したという。
2018年からの米国留学でも関係は悪化の一途をたどり、2020年に帰国した後は完全な家庭内別居状態に。被告人は妻子が起きる前に家を出て、就寝後に帰宅する生活を送っていたと述べている。
一審は懲役16年、被告人は即日控訴検察側は、事件直前にメタノール計4リットルが被告人の研究室に持ち込まれ、実験に使われた形跡もなかった点や、妻が愛飲していた焼酎の紙パックにメタノール由来とみられる白濁痕が残っていた点を指摘。
事件当日、嘔吐などの異常行動を示す妻を1日以上放置し、缶ビールや寿司を買い出しに出かけ、風俗店の女性とLINEでやり取りしていた被告人の行動を「非常に残酷」と非難し、懲役18年を求刑した。
2024年10月30日、東京地裁(坂田威一郎裁判長)は懲役16年を言い渡した。妻の自殺の可能性は「精神科への通院やメタノールの購入歴がない」として退ける一方、「殺害の背景に多少の同情の余地がある」と求刑から2年減じている。
被告人は最終意見陳述で「妻に対して一度も殺意を抱いたことはないし、メタノールを摂取させてもいません。私は無実です」と訴え、即日控訴していた。
