『踊る大捜査線』『正直不動産』……”テレビ離れ”時代にドラマシリーズの映画化が続く理由

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ドラマシリーズの映画が立て続けに公開

2026年の映画市場を見渡すと、かつて一時代を築き上げた潮流が再び盛り上がりを見せようとしていることが分かる。それは、地上波テレビドラマシリーズの映画化だ。

山下智久が主演を務める人気シリーズ『正直不動産』の公開を皮切りに、夏の目玉として8月から鈴木亮平主演の『TOKYO MER〜走る緊急救命室〜 CAPITAL CRISIS』が控えるだけでなく、織田裕二主演の国民的ドラマシリーズ最新作『踊る大捜査線 N.E.W.』が満を持して9月18日に公開されるのだ。

それだけではない。深夜ドラマという小規模な枠でありながらコアなファンを獲得した、菅井友香と中村ゆりかのダブル主演による『チェイサーゲームW 水魚の交わり』も5月15日より公開。数年ぶりにドラマシリーズの映画が活気づいている。

フジがドラマ映画のビジネスモデルを確立

「ドラマシリーズの映画化をビジネスモデルとして確立させたのは1990年代のフジでしょう」

そう語るのは、キー局でドラマプロデューサーを務めるベテラン社員のA氏だ。

「もちろん、それ以前にもドラマシリーズの映画化はいくつかありましたが、テレビ局が製作委員会の幹事となり、自局の電波を使った宣伝や大規模なロケ、多額の予算を費やす形を作ったのはフジテレビが先駆けと言っていい。その集大成が『踊る大捜査線』だったわけです。

1997年にテレビシリーズが放送された『踊る大捜査線』は1998年に映画化され、興行収入101億円という異例のヒットを記録。さらに2003年公開の第2作『レインボーブリッジを封鎖せよ!』は173.5億円を叩き出し、当時の実写邦画の歴代記録を樹立。この成功によって業界に“ドラマシリーズの映画化は金になる”と印象が付いたんです」

さらに、A氏はその後についても語る。

「2000年代はまさにその黄金時代で、ウチでも年に数本のドラマシリーズの映画版を作りました。

ときには映画化前提で企画が動いている連続ドラマもあったほどで、制作陣は忙しかった記憶があります。とにかくドル箱市場だったんです。

しかし、2010年前後からテレビドラマ離れが加速し、その神話は崩壊。『ROOKIES -卒業-』(2009年、85.5億円)、『劇場版コード・ブルー ドクターヘリ緊急救命』(2018年、93億円)以外はほとんど大きなヒットを残せなくなった……。近年はアニメ映画にシフトする傾向にあったのですが、ここに来て再び事情が変わってきたんです」

では、今年になって各局がドラマシリーズの映画化へと舵を切り直そうとしているのはなぜなのだろうか。複数の関係者たちからリアルな内情を聞いてみた。

『HERO』『相棒』の凋落で一度は激減

キー局で映画や配信ドラマのプロデューサーを務める中堅社員のB氏は語る。

「2010年代は、ドラマ映画にとって冬の時代でした。視聴率の低下とともにドラマ自体の話題性が落ち、映画化しても集客が見込めないという判断から、各局でドラマへの投資を控えるようになった。アニメ映画が興行収入の上位を席巻し、実写ドラマ発の映画は完全に脇役へと追いやられた格好になったんです。

2015年の上半期は邦画の興収ベスト10に、ドラマ映画が1作も入らなかった。同年に公開された木村拓哉主演の『HERO』も、2007年の前作が81.5億円を記録していたのに対して、最終的には50億円ほどにとどまった。かつてのドラマ映画の神通力が無くなっていることを業界全体が実感した年でした。

『相棒』シリーズも劇場版を重ねるごとに興収が下がり続け、かつて30億円超えを記録していたのに、2010年代後半には10億円台まで落ち込んだ。

この2作の影響もあって、ドラマの視聴率が高くても映画化が実現しない作品が増えたんです。『JIN-仁-』『半沢直樹』がその典型で、主演俳優や事務所側が映画化に慎重になり始めた。ドラマ映画というジャンル全体がじわじわと信頼を失っていったんです」

オリジナルアニメや実写映画が増加するも……

代わりに台頭したのが『おおかみこどもの雨と雪』のようなオリジナルアニメ映画や『テルマエ・ロマエ』、『キングダム』シリーズ、『マスカレード・ホテル』といった原作モノの映画化だ。

「ただし、こういった映画はヒットもある一方で、大コケしてしまうことも多々あり、局や配給会社としては大きなリスクを背負うようになっていった。例でいえば2025年のアニメ映画『果てしなきスカーレット』。あれだけ予算を費やしたにもかかわらず、興行収入の損失やイメージ低下がすさまじかったですから。

その点、ドラマシリーズの映画は視聴率などのデータ指標もあるので計算が立ちやすいからダメージが少ないという結論に立ち返ったんです。

テレビ局の資金や経営方針も変わり、大ヒットを狙うよりも最低限の数字が見込めるモノを求め出した。それが、一度凋落したドラマ映画が再び増え出そうとしている理由だと思います」(同前)

B氏はさらに続ける。

「追い風になったのは、2018年公開の『劇場版コード・ブルー ドクターヘリ緊急救命』(93億円)、2023年以降に右肩上がりの実績を積み重ねている『TOKYO MER』シリーズでしょう。

劇場映えする大規模で迫力のあるロケシーンや見ごたえのあるストーリーの構築をすれば、アニメに匹敵する数字が出せるという成功例が出てきた。この朗報が業界に再共有されて、各局がドラマの映画化に動き出しているんです」

確実な動員が見込める深夜ドラマ映画

さらに、ドラマや映画に関する記事を執筆するウェブライター・C氏は別の要因についても指摘する。

「2010年代には存在しなかった『TVer』『Netflix』をはじめとする見逃し配信サービスの普及とSNSの発展も大きく関係していると思います。

今は、地上波での視聴率だけでなく、配信サービスでの再生回数、SNSでのトレンド入り、さらには視聴者の年齢層や性別といったデータが完全に可視化される。

つまり、この作品なら最低でもこれくらいの興行収入は見込めるという計算が精緻に立てられるようになった。だからこそ、製作委員会も安心して出資できる。これもドラマ映画が集中し始めている要因の一つでしょうね」

また、深夜ドラマから映画化へとステップアップした『チェイサーゲームW』のようなケースも、この興収の読みやすさのバリエーションだとC氏は続ける。

「深夜ドラマは視聴率こそ高くありませんが、コアなファン層が確実に存在する。SNSでの熱狂的な盛り上がりや、グッズの売上げ、配信視聴数などから、熱量の高いファンがどれだけいるかが正確に把握できる。

ファンは映画化されれば劇場に足を運び、複数回鑑賞してくれる可能性が高い。最初から大規模な全国公開を狙うのではなく、小規模公開で確実にコアファンを動員する戦略であれば、十分にビジネスとして成立するワケです。むしろ、オリジナル作品よりも手堅い戦略と言えますよ。その大ヒットパターンは『劇映画 孤独のグルメ』でしょう」

宣伝コストの安さと圧倒的な広告効率

他の要因についてもC氏は語る。

「映画をヒットさせるためには、作品の存在を世間に広く知らしめることが不可欠。大作映画であれば、数億円規模の宣伝費が投じられることも珍しくない。ただし、新規のオリジナル作品を一から認知させるには、莫大なコストと労力がかかる一方で宣伝に苦労しているのが現実。

一方で、ドラマの続編や映画化は情報解禁の段階からメディアがこぞって取り上げてくれる。また、自局の番組を巻き込んで大々的なプロモーションを展開できる。主演俳優を一日中テレビに出演させることで、実質的な広告費をかけずに日本中に作品をアピールできる。これは、他の映画ではなかなかマネできない強みです」

リスクが低く、興行収入の最低ラインが読め、宣伝効率も高い。ビジネスという観点から見れば、ドラマシリーズの映画化は極めて理にかなった戦略のようだ。

後編記事「映画『踊る大捜査線」は危ない…業界人が不安視するワケ』では、引き続き関係者の声をお届けします。

【つづきを読む】映画『踊る大捜査線』は危ない…業界人が不安視するワケ