マーケ部から“掃除担当”へ…退職勧奨“拒絶”した女性への報復に「慰謝料200万円」 裁判所が“相場より高額”な支払いを命じたワケ
退職に応じない従業員を掃除担当へ異動→給料を30万円近く減額→仕事を与えず…。
このような不当な人事異動について争われた事件で、裁判所は「違法」と判断した。
さらに、退職勧奨、給料の減額、職場で孤立させるなどの違法行為も認定され、裁判所は会社に対して「慰謝料200万円を支払え」と命じた。
以下、事件の詳細について、実際の裁判例をもとに紹介する。(弁護士・林 孝匡)
事件の経緯女性従業員のAさんは、人工内耳など聴覚インプラントの輸入・販売を行う会社のマーケティング部で、正社員として働いていた。
Aさんが入社して約1年半後、新しい社長が就任した。この新社長がAさんに対して厳しく当たるようになったのだ。
■ 社長からAさんへの厳しい対応
その具体的な内容は以下のとおりだ。
面談の6日後、Aさんはメンタルクリニックを受診した。
■ 退職勧奨
その後、社長はAさんに対して、①自己中心的な態度が目立つ、②他の従業員と協調する姿勢がない、③顧客に迷惑をかけていると指摘し、「この問題点が解決しない場合には退職勧告を受け入れるよう」求めた。これに対して、Aさんは「心当たりがない」「会社に居続けたい」と述べた。
そこで社長は、Aさんに対して「この契約書にサインをすれば辞めなくてもいい」と伝えた。しかし、差し出された契約書には「給料が半分になる」との内容が記載されていた。
Aさんは契約書にサインせず、2時間にわたってやりとりが続けられた。しかし社長はあきらめず、退職を受け入れないAさんに対して、下記の発言をした。
あなたには人工内耳に関する知識がない マーケティングの知識がない あなたがいると皆に迷惑がかかる 皆に聞いたが誰もあなたと仕事をしたくないと言っているそして、社長は全社員にメールを送信し、「Aさんが担当していた業務を新入社員の担当にする」と周知した。
このような社長の退職勧奨があっても、Aさんは退職を受け入れなかった。
■ 掃除担当へ
メール送信の翌日、会社はAさんに、マーケティング部から総務アシスタントへの配転を命じた。簡単にいえば、掃除、片付け、粗大ゴミの担当だ。この配置が約1年9か月間継続した。
■ 給料の減額
掃除担当にしても辞めないAさんに、社長は業を煮やしたのであろう。次にとった手段は「給料の減額」だ。配置転換から約3か月後、社長はAさんの給料を約53万円から約26万円に減額した。
■ 仕事が与えられない
その後、会社は、Aさんを担当業務から外して具体的な仕事を与えなかった。Aさんは何度も「仕事を与えてほしい」と要望したが叶えられなかった。また、社員の連絡表から外されたり、座席を隔離された場所に移動させられたりするなどの仕打ちも受けた。
Aさんは、会社のこれらの措置等が違法であるとして、慰謝料を求めて提訴した。
裁判所の判断Aさんの勝訴だ。裁判所は会社に対して「慰謝料200万円を支払え」と命じた。
■ 退職勧奨について
裁判所は、「社長の言動は違法な退職勧奨である」と結論づけた。理由は以下のとおりだ。
上記の事情を考慮した上で、裁判所は「社長の行った退職勧奨はAさんの意思を不当に抑圧して精神的苦痛を与えるものといわざるを得ず、社会通念上相当と認められる範囲を逸脱した違法な退職勧奨である」と認定した。
■ 掃除担当への異動について
裁判所は、Aさんを掃除担当へ異動させた点についても「違法」と判断している。理由は以下のとおりだ。
以上の理由を述べて、裁判所は「掃除担当への異動は人事権を濫用しており違法」と判示した。
■ 給料の減額について
裁判所は「減額を定める規定がない」として「給料の減額は違法」と指摘した。
■ 仕事が与えられなかったことについて
裁判所は、「会社の一連の行為は、Aさんに対し、自らが会社から必要とされていないという無力感を与え、社内の人間関係から切り離して疎外感を強いるものであり、Aさんの就業環境を著しく悪化させる行為として職場環境配慮義務に違反している」と断じた。
以上を踏まえて、裁判所は会社に対して「慰謝料200万円を支払え」と命じた。
最後に慰謝料200万円は、比較的高額な部類に入ると評価できる。
一般的に、パワーハラスメントや違法な人事措置が問題となった裁判では、慰謝料は数十万円から100万円前後にとどまるケースが多い。
本件では、①違法な退職勧奨、②違法な異動、③根拠のない大幅な給料減額、④長期間にわたる業務排除と孤立化といった複数の違法行為が重なっている。しかも、これらがAさんを退職に追い込む方向で機能していた点が、慰謝料を引き上げたのではないかと考える。
