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旭山動物園(北海道旭川市)に勤める30代の男性飼育員が、妻の遺体を園内の焼却炉で損壊した疑いで逮捕されたと報じられました。

4月29日に予定されていた夏期営業の開始が延期となり、5月1日からの開園となりました。市長は開園後も急な閉園の可能性があると説明しています(テレビ北海道、4月28日など)。

こうした事態で生じる損害について、動物園や周辺のお店は誰に対して賠償を請求できるのでしょうか。解説します。

●動物園から飼育員個人への請求は認められやすい

今回のケースで、民事上の責任を整理すると、おおまかに3つのパターンが考えられます。

1)動物園 → 飼育員本人
2)周辺店舗 → 飼育員本人
3)周辺店舗 → 動物園(=旭川市)

まず、動物園(旭川市)が飼育員個人に対して損害賠償を請求する場合を考えてみます。 なお、旭山動物園は独立した法人ではなく、旭川市が当事者となります。

飼育員個人の死体遺棄についての疑いが浮上したことで捜査が入り、開園が延期されました。この期間の入園料収入の損失や追加の対応費用などは、飼育員個人に請求できる余地があります(民法709条(不法行為責任))。

旭山動物園は毎年の入園者数データが豊富にあるため、たとえば「例年のゴールデンウィーク期間の入園者数は◯万人、入園料収入は◯千万円」といった実績をもとに、今年同じ期間の売上との差額を計算して損害額を主張することが考えられます。

職員のメンタルケア費用についても、社会通念上相当な範囲で請求できる余地があります。

ただし、営業損害と比べると、職員がメンタルを病んだ原因が本当に休園などによるものなのか、どこまでが休園による損害なのか、といった点で立証が難しい面があります。

●周辺店舗からの飼育員個人への直接請求は難しいと思われる

動物園の閉園で大きな打撃を受けるのは周辺店舗や飲食店も同様です。こうした関係業者が飼育員個人に直接請求できるかが問題となります。

これは原則として難しいとされています。というのも、周辺店舗の損失は、飼育員の行為によって「直接」生じた被害ではなく、動物園の閉園を経由した間接的な損害と考えられます。

このように間接的に受けた損害(「間接損害」といいます)は原則として賠償の対象にならないと考えられています。

仮に間接損害について損害賠償を認めてしまうと、動物園に物品を納入している業者、周辺のホテル、タクシー会社…と賠償の範囲が際限なく広がってしまうためです。

旭山動物園は旭川市観光において大きな比重を占める存在であり、動物園の集客に依存している周辺店舗については、損害との直接性が認められる余地がないとは言い切れませんが、現実的には認められる見込みはかなり低いと思われます。

●動物園(市)への使用者責任も認められにくい

では、周辺店舗は動物園(旭川市)に損害賠償を請求できるでしょうか。

飼育員を雇っている雇い主としての動物園の責任は、「使用者責任」(民法715条)か、「国家賠償法」(1条)の責任のどちらかと考えられます。

両者の違いは、純粋な私経済作用=民法、行政作用に近い=国家賠償法、なのですが、この記事では民間企業と同じような経済活動に近いと考え、民法(使用者責任)の問題としています。

なお、どちらの枠組みでも、飼育員が業務として行った行為と評価できなければ動物園の責任は認められないという点は共通しているため、今回のケースの結論には大きな違いは出ないと考えられます。

使用者責任が認められるには、飼育員が「事業の執行につき」行った行為であることが必要です。

今回の死体損壊は夜間に焼却炉を私的に悪用した行為で、業務として行ったとは言い難い側面があります。そのため、動物園への使用者責任の追及は難しい可能性が高いといえます。

なお、報道では動物園(市)が動物園内の飲食店業者へ補償する可能性も示唆されています。

これは法律上の損害賠償責任とは別に、地域経済への影響を考慮した政策的な判断によるものと考えられます。

そこで、仮に市が周辺業者に補償したとしても、前述のように周辺業者から市への使用者責任の追及が認められにくいと思われるため、その補償額を市側から飼育員個人に請求することも難しいと考えられます。

小倉匡洋(弁護士ドットコムニュース編集部記者・弁護士)