「高熱を吹き出し、装甲内を焼き尽くす」砲弾が破裂して3人死亡…自衛隊「10式戦車」と「戦車砲弾」とはいかなる武器か?《不肖・宮嶋が解説》
4月21日、大分県の陸上自衛隊日出生台演習場で実弾射撃訓練中の10(ヒトマル)式戦車で暴発事故が発生。戦車搭乗員2名と安全係の隊員1名が死亡、操縦手1名が重傷を負うという痛ましいものとなった。
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時折しも日本政府が条件付きながら殺傷力のある武器の輸出を認めたばかり。すでに1週間が経過したが、いまだに事故原因は判明していない。一刻も早い原因究明を望むばかりである。

自衛隊の戦車と戦車砲弾とはいかなる兵器なのか? 撮影=宮嶋茂樹
いまや日本の主力戦車となった10式戦車だが、その誕生から現在までは不肖・宮嶋の現役カメラマン時代と重なっている。(全2回の1回目/つづきを読む)
国産4代目にあたる最新の戦車
自衛隊の国産戦車は61式、74式、90式戦車へと進化を続け、この10式は4世代目に当たる最新の戦車。
日本の戦車が諸外国のそれと違うのは、三菱重工が自動車のエンジン開発などで培った技術を応用したその乗り心地と悪路の走破性、防御力、さらに搭載武器の攻撃力である。今は公表されてないが、射程距離の範囲内であれば、先に見つけたほうが圧倒的優利のほぼ百発百中だという。
こと10式戦車にいたっては、最新式の射撃管制装置を備えている。停車していようがスラローム走行時やろうが後退時やろうが、どんな体勢からでも目標をロックオンでき、砲身が目標を捉えたまま射撃して命中させられる。さらに味方同士のデータリンクにも優れ、陸空問わず情報を共有できるのである。
しかし、不肖・宮嶋が北海道大演習場(略して北大演)で行われた「戦車射撃競技会」を取材した際には、最優秀戦車小隊は意外にも、最新の10式戦車より先代の90式戦車部隊のほうが多かった。
これは幸いにも、自衛隊が戦後81年実戦を経験せずに済んだことの現れだろう。装備が新しければなんでもいいというわけではないのである。古くても使い慣れた武器のほうが、時には最新武器より優秀なこともありえる。特に実戦のように、予期せぬ非常事態に陥ったときには尚更である。
だが、今回重傷を負われた女性操縦手が一命をとりとめたのは、最新の戦車である10式戦車の厚い装甲や隔壁のおかげであったかもしれない。
10グラムの鉛の弾ですら暴発は命取り
それにしても、強力な武器ほど使い方を誤ったり、不慮の事故の際の被害は深刻である。たとえライフル射撃でも、一歩間違えれば他人をまた自身も傷つけ、時には死に至らしめることもある。
不肖・宮嶋は射撃を趣味にしているが、標的射撃中に愛銃が銃身膨張するという、原因不明の事故を経験したことがある。そのまま射撃を続けていれば、顔面数センチのところで暴発してしまったかもしれず、冷や汗をかいた。
直径わずか8mm足らず、重させいぜい10グラムの鉛の弾を撃ち出すだけでも、暴発は命取りになる。それが直径120mmの重さ数キロ、鋼鉄の装甲数センチをぶち抜く砲弾であれば、砲塔内の暴発がどれほどの被害をもたらすか想像にかたくない。
不肖・宮嶋が捉えた“射撃の瞬間”
ここで不肖・宮嶋が撮影してきた自衛隊戦車の射撃シーンをご覧いただきたい。砲弾の発射がどれほどの爆発力で破壊をもたらすか、おわかりいただけるだろうか?
全長10m弱の戦車より大きな火の玉と、耳をつんざく轟音、そして肌をつく衝撃波。それらを発生させる砲弾が砲塔内で暴発したのである。
死亡した3名の隊員の方々の苦痛が一瞬であったことを祈るばかりであるが、重傷を負われた女性乗員の方が味わった恐怖は察してあまりある。肉体的負傷に加え、精神的苦痛が一刻も早く癒されんことをこれまた祈るばかりである。
先代90式との大きな違い
不肖・宮嶋が10式戦車と初めて見(まみ)えたのは2008年2月。10式というからには2010年に正式配備される2年前のことである。当時はまだ、防衛省技術研究本部の開発段階にあった。
先代90式戦車に続く第4世代の10式は、搭載武器も主砲120mm滑腔砲と機関銃2門で90式と全く同じ。だが、ほとんどの日本の橋を渡れるよう50tを切った車体は、ステルス性を帯びながらスマートで、近未来的なシルエットと頼もしい存在感を醸し出していた。
2010年の正式配備を経て、2012年1月には陸上自衛隊富士学校で晴れの入魂式が行われた。エンジン・トラブルで走行を披露できず、若干不安がよぎったのは否定できないが、さらにその翌年同じく富士学校で行われた陸上幕僚監部主催の研修会で不肖・宮嶋が試乗した際には、国産高級車と同じ無段階変速機によるスムーズな加速と1200馬力を誇るディーゼル・エンジンのパワフルな加速を実感できた。特に先代90式との大きな違いは後進時の速度であった。
さらに、120mm滑腔砲は日本製鋼所が開発した国産砲身。同じ120mm滑腔砲でも、90式はドイツのラインメタル社のライセンス生産だった。なお61式、74式、90式、10式4世代に渡る国産戦車はすべて三菱重工が開発製造している。
このたび殺傷力のある武器の輸出が解禁されたが、それまで日本の防衛産業は取引先が人口は1億2千万のうち、わずか22万の兵力しかない自衛隊と防衛省だけと、まあ狭い市場だった。そのうえ開発には膨大なカネがかかり、単価も高く、作れば作るほど赤字である。
せやのに、なぜ戦車や潜水艦まで国産で造っているかといえば、大企業ゆえに防衛部門がほんの一部であるため、赤字部分を民間部門で相殺できるからである。そして、防衛部門で培った技術を民間部門でも活用できるメリットもあり、自動運転装置や障害物センサーも軍事技術からの転用だと言われている。巷間で言われているように、決して大儲けできる産業ではない。
我が国特有の戦車事情
ところで、そもそも戦車とは何だろうか。ハリウッド大作『ベン・ハー』に出てきたような、ローマ帝国時代の装甲馬車を起源とする説もあるが、第1次大戦の西部戦線に英軍が投入した、キャタピラ(無限軌道)を履いた鋼鉄製のマーク1戦車を起源とする説もある。
だが、我が国ではちょいと事情が異なる。
「戦車」と「機動戦闘車」は別モノ?
というのも、10式戦車の2世代前の74式戦車は105mmライフル砲と機銃2門を備え、無限軌道で「戦車」と呼ばれているが、全く同じ武装でタイヤ履きの16式MCVは「機動戦闘車」と呼ばれているのである。
日本で戦車と呼べるのは、無限軌道の足回りと完全密閉された砲塔と大口径砲を備えた車両に限られるようである。
ちなみに戦車が英語で「タンク」と呼ばれるのは、第1次大戦当時、開発国の英軍で機密保持のため、マーク1戦車を見た者に「これは水槽(水タンク)だ」と誤魔化していたからだという。
映画やアニメにもたびたび登場
轟音とともに土煙を、ときには雪煙を巻き上げ、悪路や瓦礫をものともせず、踏み進め、ときには大口径砲を咆哮させる様は、まさに地上最強の兵器の名にふさわしい。『バルジ大作戦』や『パットン大戦車軍団』などのハリウッド大作から『馬鹿が戦車でやって来る』などの日本のコメディーまで、たびたび戦争映画の主役になるばかりか、ゴジラ映画にも出演するくらいの人気である。
特に最新の10式戦車は、事故の前までは駐屯地祭などに引っ張りだこ。砲塔に特製のゴンドラを装着しては地域住民や子供らを乗せ、グラウンドを土煙をあげ走り回る。アニメ『ガールズ&パンツァー』ともタイアップし、聖地の茨城県・大洗では、本物の自衛隊特別儀仗隊や『ガルパン』に出演していた声優やファンらとともに、おおいに盛り上がっていたのである。
しかし、そんな子供らに人気の戦車が現代になると、重くかさばる戦車不要論が飛び出すようになる。石破茂前首相が防衛相の時代には、冷戦時のソ連の侵攻に備えて900両あった戦車が600両弱にまで減少。あげく本州には戦車の実動部隊がなくなり、今回事故に巻き込まれた九州の西部方面戦車隊にも10式戦車のみだが2中隊分、数十両しかなくなった。
さて、ここで今回事故の原因となったといわれる120mm滑腔砲弾や、あまり知られていない戦車の実状についても、専門家としてでなく、その威力と脅威を紛争地でまざまざと経験したカメラマンとして述べさせていただきたい。
事故の原因とみられる「120mm滑腔砲」
国産戦車の主砲が120mm滑腔砲に変わったのは、3世代目の90式からである。この仕様変更の背景には、性能上の利点だけでなく、国際的な世界標準への適応があった。アメリカのM1エイブラムス戦車をはじめ、NATO諸国のドイツのレオパルト2、フランスのルクレール戦車、イスラエルのメルカバなどが、軒並みこの120mm滑腔砲を採用していたのである。
90式戦車に搭載されていた120mm滑腔砲は、ドイツのラインメタル社が開発し、日本製鋼所がライセンス生産していた。これに対して、10式戦車に搭載される120mm砲は、日本製鋼社が開発・製造した国産であり、ラインメタル社製より優秀といわれている。
2世代目の74式戦車までは、弾道が安定するライフル砲が採用されていた。なぜ、砲身内がツルツルの滑腔砲に戦車砲弾が変わったのか。それは「戦車の敵は戦車」という前提からである。敵戦車の厚い装甲をぶち抜く徹甲弾は、砲身内に溝を切ったライフル砲より、ツルツルの砲身のほうが摩擦が少なく、弾速が早くなり、結果として貫通力が増すからである。
では、弾道をどうやって安定させるのか。その仕組みは様々だが、貫通力がより高い徹甲弾でいえば、超音速で放たれる弓矢のようなもんである。つまり、弾芯に弓矢のような翼をつけ、それを筒(サボット)で覆い、高速で発射する。砲口から飛び出た直後、筒は空気抵抗により3方向にはじけ散り、弾頭のみが高速で目標に向かうという具合である。
さらに弾頭の方も、敵戦車の装甲を貫くという目的のために、日本独自のAPFSDS(対戦車徹甲)弾とHEAT(対戦車榴)弾の2種類がメインとなっている。徹甲弾は、文字通り敵装甲をぶち抜くための固い弾芯が必要であり、自衛隊ではタングステン鋼が使われている。
ちなみに、アメリカとロシアの徹甲弾には、より固くて重い劣化ウラン弾が使われている。このウラン弾頭は核分裂の副作用で産出され、タングステン鋼より安く、重くて固いと3拍子が揃う。名前はおどろおどろしいが、要は「安い、重い、固い」というだけである。もちろん、放射能汚染を引き起こすという指摘もあるのだが……。
さて、今回事故があったのは、もう一方の対戦車榴弾の方である。敵戦車などの装甲に当たると高熱を一方向に吹き出し、装甲内を焼き尽くすという、敵戦車兵にとっては脅威でしかない代物である。
不肖・宮嶋は、この120mm滑腔砲弾の、しかも対戦車榴弾に撃たれるという、めったにない経験をしたことがある。(つづく)
〈「おそるおそる覗き込むと、その中は血の海だった」ホテルの15階を戦車が砲撃…不肖・宮嶋がイラク戦争で接した『地獄の光景』〉へ続く
(宮嶋 茂樹)
