寂しい…〈年金月20万円〉〈資産3000万円〉東京郊外の戸建てに暮らす78歳男性。「スマホの待ち受け」を指でなぞり、今は亡き妻に語りかける孤独な夜
経済的なゆとりがあるからといって、必ずしも心が満たされるとは限りません。十分な資産と年金に支えられながらも、深い孤独に沈む高齢者もいます。1人の男性が抱える切実な日常から、高齢男性における孤立の実態を見ていきます。
スマホの待ち受け画面に残る家族の幸せ
東京郊外の戸建てに1人で暮らす高橋幸雄さん(78歳・仮名)。現役時代は中堅商社の営業職で、年収は1000万円を超えていたといいます。現在、年金は月20万円ほどあり、退職金を含む預貯金は3000万円ほど。多くの人が物価高に苦しむなかでも、特に生活が厳しいと感じることはないそうです。
しかし、幸雄さんに笑顔はありません。3年前に妻を病気で亡くしてから、自宅でひとり。子どもは長女と次女がいますが、2人とも遠方に嫁いでおり、会う頻度は年に1回ほどです。
「孫が小さいころは、正月やお盆、ゴールデンウィークには帰ってきてくれたんだけど……。孫ももう大学生だから、休みのたびにじいさんの家に行くということもないでしょ。だいたい帰ってくるのは娘だけだね。それも半日程度の滞在で、すぐに帰ってしまう。実家とはいえ、居心地が悪いんでしょうね」
寂しそうな表情で見せてくれたのは、スマートフォンの待ち受け画面。そこにあったのは長女家族、次女家族、さらには亡くなった妻、総勢10名の家族写真でした。
「……これが最後の全員集合でした。5年前、私の古希祝いで集まったときのものです」
スマートフォンの画面は、何度も指でなぞったせいか、わずかに皮脂で曇っています。そこには、今は亡き妻の隣で少し照れくさそうに笑う高橋さんと、その肩を抱く孫たちの姿が収まっていました。
「定年してすぐの頃は、妻と2人で旅行に行ったり、庭の手入れをしたりと、それなりに忙しくしていました。でも、3年前に妻に先立たれてからは、この家でただじっとしている。誰とも喋らない日も結構あって、テレビの音が妙にうるさく感じて、結局消してしまう。何もすることがない状況が、こんなにも辛いとは思わなかった」
もともと交友関係は狭いほうだったという高橋さん。リタイアしてからは、その範囲がさらに狭くなったと語ります。
「すぐそばに妻がいましたから、特に不都合はなかった。旧友ももう年ですから、頻繁に連絡を取り合って、何かしようという仲ではない。この年になって友達作りというのも、なんかね」
高齢男性が陥る孤立の実態
内閣府の『令和3年度 高齢者の日常生活・地域社会への参加に関する調査』によると、人との付き合いが「ない」と答えた割合は、女性の7.9%に対し、男性は10.9%に達します。
高橋さんと同年代の「75〜79歳の男性」では、約4割が人との付き合いのなさを感じており、社会的なつながりを維持することの難しさが浮き彫りになっています。仕事中心の生活から離れた後、自ら新たな人間関係を築くことに消極的になる男性特有の傾向が、統計からも見て取れます。
こうした孤独感は、配偶者との死別によってさらに加速します。同調査では、「自分は取り残されている」と常に感じる割合は、配偶者がいる人では2.3%ですが、死別した人では6.1%と2.6倍以上に跳ね上がります。
特に「ひとり暮らし」の場合、人との付き合いがないと常に感じる割合は14.7%にのぼり、配偶者と同居している層(7.8%)を大きく上回っています。テレビの音さえうるさく感じるほどの静寂は、こうした「単身×死別」という条件が重なった高齢者が直面しやすい現実といえるでしょう。
十分な資産や年金があっても、それが他者との会話や役割に直結するわけではありません。高橋さんが何度も点灯させるスマートフォンの画面は、かつて自分が確かに誰かとつながっていたことを確認するための、数少ない手段なのかもしれません。
お金では買うことのできない「心の拠り所」をどう確保するか……。長い余生を歩むうえで、すべての人にとっての課題だといえそうです。
