肩こりだと思ったら肺に穴? 「肺気胸」のサインと痛みの見極め方【医師解説】
「突然、針で刺されるような痛みが走った」という経験は、肺気胸のサインである可能性があります。胸痛がどのようにして生じるのか、そしてその痛みがどのような特徴を持つのかを知っておくことが、他の病気との見分けにも役立ちます。ここでは、胸痛が起こる仕組みや、部位・性質といった具体的な特徴について解説します。
監修医師:
松本 学(きだ呼吸器・リハビリクリニック)
兵庫医科大学医学部卒業 。専門は呼吸器外科・内科・呼吸器リハビリテーション科。現在は「きだ呼吸器・リハビリクリニック」院長。日本外科学会専門医。日本医師会認定産業医。
突然の胸痛が起きる理由
肺気胸を発症した方のほとんどが最初に自覚するのが、予兆なく現れる突然の胸痛です。その痛みは非常に特徴的であり、痛みの性質やメカニズムを理解することで、ありふれた筋肉痛や他の内臓疾患との鑑別の一助となります。
胸痛が起こるメカニズム
肺気胸による胸痛のメカニズムは、肺を覆う2枚の胸膜の異常な状態によって説明されます。肺そのものには痛みを感じる神経(痛覚神経)がありませんが、胸壁の内側を覆う壁側胸膜には痛覚神経が豊富に分布しています。正常時、肺がしぼむと臓側胸膜と壁側胸膜が引き離されます。このとき、胸膜が急激に引き伸ばされることや、漏れ出た空気が壁側胸膜を刺激することが、鋭い痛みの原因と考えられています。痛みは「突然、針で刺されたような」「ナイフでえぐられるような」と表現されることが多く、深呼吸や咳、身体を動かすといった胸郭の動きを伴う動作で増強する傾向があります。一方で、じっと安静にしていると痛みが少し和らぐこともあるため、「少し休めば治るかもしれない」と自己判断し、受診が遅れる原因にもなり得ます。しかし、痛みが軽減したとしても、肺がしぼんだ状態が改善されたわけではないため、注意が必要です。
胸痛の部位と特徴
肺気胸による胸痛は、ほとんどの場合、肺に穴が開いた側、つまり左右どちらか一方の胸部に限局して現れます。両側の肺が同時に気胸を起こすことは非常に稀ですが、その場合は極めて重篤な状態となります。痛みは背中や肩、首にかけて放散する(広がる)ように感じられることもあります。特に、横隔膜に近い部分で気胸が起こると、横隔膜を支配する神経(横隔神経)が刺激され、肩に痛みを感じる「関連痛」が生じることが知られています。一方で、心筋梗塞などで見られる胸痛は、胸の中央部や左胸に「締め付けられるような」「圧迫されるような」重い痛みとして感じられることが多く、痛みの性質が異なります。こうした痛みの部位や性質の違いは、原因を推測する上で重要な手がかりとなりますが、自己判断は禁物です。急な胸痛を感じた場合は、速やかに医療機関を受診することが最も重要です。
まとめ
肺気胸は、その名の通り「肺のパンク」とも言える状態で、突然の胸痛や息苦しさを引き起こす、決して稀ではない呼吸器疾患です。特に、痩せ型の若い男性に多いという特徴がありますが、肺に基礎疾患を持つ高齢者にも発症し、その場合は重症化しやすい傾向があります。初期症状が筋肉痛などと似ているため、見過ごされやすい側面も持っています。しかし、本記事で解説したように、片側だけの鋭い胸痛、深呼吸で増す痛み、安静にしても続く息苦しさなどは、肺気胸を強く疑うべき重要なサインです。これらの症状に気づいたときは、「少し様子を見よう」と自己判断せず、速やかに呼吸器内科や救急外来を受診してください。正しい知識を身につけ、迅速に行動することが、重症化を防ぎ、より早期の回復へとつながる最も確実な道です。
参考文献
日本呼吸器学会「気胸」
厚生労働省「第Ⅰ 胸部臓器の障害」
