「あら、だらしない!」SNSどころか街中にも出没する「着物警察」の恐怖…文化と伝統を守りたい人たちが“着物離れ”を加速させる皮肉
京都や浅草を訪れた観光客が、着物姿をSNSに投稿する。それに対して、「安っぽい着物を着るべきではない」「着方がおかしい」「コスプレだ」「着物にスニーカーは合わないと思う」など、クレームをつける人がいる。
特に、外国人が着物を着ていると、「日本の伝統を正しく理解してほしい」などと言って、異常なほどうるさい人がいたりする。そういった人たちは「着物警察」と呼ばれている。【取材・文=山内貴範】
【写真】着物警察に要注意? 着物を着た観光客が数多く訪れる東京屈指の観光地「浅草」
「そんな着方はだらしない!」
着物で街を歩いていたら、「そんな着方はだらしない!」「着物姿の時にアクセサリーをつけるのはマナー違反」などと、“着物警察”に突然叱責されたという報告がネットに多数上がっている。着物警察の存在が着物離れを進めてしまい、結果として文化を衰退させているのではないか、という議論は以前からなされている。

こうした傾向に、着物を取り扱う呉服店の代表が、「若者などの参入障壁を上げてしまうのが最大の問題」と指摘し、「少なくとも高度経済成長期の前までは、着物は普段着として着られていたものです。もっとカジュアルに着ても問題がないのに、不思議なルールを押し付ける人が多いせいで、着物文化が発展しない」と苦言を呈する。
「着物警察はとにかく着付けやマナーにこだわります。確かに、冠婚葬祭などの場面で着崩しているのはどうかと思いますが、着物はあくまでも普段着で、茶道や華道のような厳格な作法が求められるものではありません。しかし、過激な人が一部にいることで、せっかく興味を持ったのに離れてしまうケースは少なくありません。
なんと、見ず知らずの方の着物に勝手に触って、着付けを直してくる人までいるそうです。町を歩いていて、いきなりそんな失礼なことをされたら恐怖でしかないし、着物を着たいと思う人は増えませんよ。着物警察は着物離れを加速させる、ただただ迷惑な存在だと思います」
次々に生まれる界隈ルール
ただ、こうした“界隈ルール”は、様々なジャンルにみられるのも事実で、年齢性別を問わず、ルールを押し付けたがる人は少なくない。そして、界隈ルールから外れると、「あの人は暗黙の了解を知らない人」「浮いている」などと陰口を叩かれ、仲間はずれにされることもあるという。
ゴスロリや甘ロリなどのロリータファッションの世界にも、「ロリータ警察」のような人たちが存在する。「同じブランドで全身コーディネートしなければいけない」「ファッションチェーン店のロリータ服はロリータじゃない」などと言って、やはり着物警察同様に参入障壁を上げることに一役買ってしまっている。
推し活などのオタク文化でも、界隈ルールの押しつけは起こっている。「ライブの時はこの衣装を着用しなければいけない」「グッズを転売屋から買うのはダメ」「1万円以上“投げ銭”をしなければファンじゃない」などの不思議なルールや、ライブ中の“作法”までもが事細かに決まっている界隈もあるという。
こうした界隈ルールは、ファン同士の結束力を強める効果は大きいといえる。一方で軋轢も生まれやすく、ファンの間での人間関係に対する配慮が必要になる。“推し活疲れ”を招く要因にもなっているといえよう。
中古市場で着物の人気は著しく低い
さて、着物警察が厳格に着付けのルールを定め、伝統的なるものを守ろうと躍起になる一方で、着物を着る人は減少傾向にある。博報堂生活総研が2024年に行った調査では、1年以内に和服(着物、ゆかたなど)を着たという人はわずか5.5%。1998年の段階でも13.3%しかいなかった。夏祭りや花火大会などの機会がなければ、着物(ゆかた含む)を着る機会はほとんどいないといえるだろう。
そもそも町を歩いていても着物を着ている人など、滅多に見ない。卒業式シーズンの学生や成人式に参加する若者、観光地で観光客が着ている程度である。着物は日本の伝統的な衣装であるはずだが、実用的かつ普段着としてのファッションとしての地位は失われていると言っていい。
着る人がそもそもいないため、質屋や買い取り業者などに先祖代々伝わる着物を持ち込んでも、二束三文で買い取られることが多い。査定を依頼したら、1着10円、もしくはグラム単位での引き取りを提案されたという話もある。とある買い取り業者が、このように話す。
「着物は並べていても売れないので、よほど質が高いものでなければ、高い値段は期待できません。そもそも古い着物の9割以上は、今でいうファストファッションみたいなレベルの代物。普通の人たちが普段使いしていた着物は量産品なので、買い取りは安くなります。人間国宝の作品など、特殊な条件があれば値段が付きますが、それでも買ったときよりははるかに安いため、がっかりする方も多いです。
ではなぜ、着物を売ってくださいねと声高に主張するのか、不思議に思うかもしれませんね。正直、当店は着物そのものよりも、着物を片付けている際に副産物的に出てくる品物のほうを重視しています。着物を処分しようと片付けていると、ブローチやネックレスなどの金製品や金貨や銀貨などの古銭、高級腕時計が出てきたりしますからね。そうした品々も着物と一緒に持ち込まれるので、そこにメリットを感じています」
加賀友禅がパッチワークの材料に
話が逸れてしまったが、着物の人気の低さが買い取り額に影響しているというのは、間違いなさそうだ。着物警察は着物を愛するのであれば、着物の人気が急激に落ち、二束三文で買い取られてしまっている現状を憂うべきではないだろうか。着物を着ている人を叱責したり、揚げ足を取ったりするのではなく、もっと楽しみ方を宣伝すべきではないだろうか。
前出の買い取り業者は、大島紬や加賀友禅の生地がゴミ同然に扱われたり、パッチワークの端切れとして使われたりしているのを見て、唖然としたことがあるそうだ。
「私はパッチワークの趣味が悪いと言いたいわけではありません。ただ、当時は物凄く高価だった着物が着用されずに端切れになってしまうのは、あまりに悲しいですよ」
なお、博物館にも「先祖代々の着物を引き取ってほしい」という依頼は来るそうだが、ほとんどの場合は断られる。すると、着物は行き場を失い、ゴミに出されてしまう。筆者も衣類ゴミの日に、美しい着物が山積みになっているのを見たことがあり、悲しい気持ちになってしまった。
日本の文化財である着物の愛好家を増やし、着用する文化を守るためにも、着物警察はもう少し寛容になってほしいものだ。多彩な表現を受け入れることが文化を発展させ、より魅力的な存在にしていく。格式や型ばかりを過度に重んじはじめると、文化は衰退していくのである。
ライター・山内貴範
デイリー新潮編集部
