いま日本のビジネスホテルから「シングルルーム」が消え始めている…コロナ後に吹き始めた「逆風の正体」

写真拡大 (全3枚)

低価格、高品質、必要十分な使いやすさが支持され、これまで爆発的に市場を広げてきたビジネスホテル。ところがコロナ以後、逆風が吹き始めているという。観光集客のスペシャリストで、著書に『観光ビジネス』がある内藤英賢氏が、ビジネスホテルが抱えている課題と、とるべき戦略を解説する。

ビジネスホテルが爆発的に増えた理由

日本でホテルというと、シティホテルとビジネスホテルというのが一般的には理解しやすいかと思います。

シティホテルはいわゆる宿泊のみではなく、レストラン、宴会(バンケット)、はては婚礼まで持つ多機能型のホテルです。帝国ホテルホテルオークラなどを思い浮かべていただければよいでしょう。

一方で、ビジネスホテルはシティホテルとは異なり、レストランや宴会などの機能を持たず、極端に言えば客室のみで構成されているホテルです。宿泊特化型と言われるゆえんです。アパホテルや東横インなどを思い浮かべていただければよいでしょう。

そして、日本では宿泊特化型ホテル(ビジネスホテル)が現代のマーケットを牽引する形で発展を遂げてきました。後述する旅館の衰退に反比例するかのように、宿泊特化型ホテルは全国で爆発的に増えてきました。

なぜでしょうか?

いつの時代も「追い風」が吹いていた

理由のひとつに高収益モデルであることが挙げられます。

ビジネスホテルはレストランや宴会場を持たないため、非常にコンパクトに設計できます。その分、建設費用もかからず投資回収が早いモデルが出来上がるのです。かつ、人員もフロントと清掃スタッフのみで良いため、人件費もかからずに済み、結果として運営コストも低く抑えることができます。

もうひとつの理由は時代背景と常に適合してきたことです。

1980年代〜1990年代の経済成長をしていた時代には、全国各地に出張族が現れ、本当に「寝るだけでいい」需要にビジネスホテルは見事に応えてきました。

そしてバブル崩壊後の2000年代もコスト削減が至上命令となった企業の中でも、低価格で宿泊できるビジネスホテルは常に支持され続けてきました。

2010年代に入るとインバウンドが増え始めますが、ここでもまた磨きに磨かれていた低価格&高品質のビジネスホテルは海外の方に驚きをもって受け止められました。「安いのに信じられないくらいクオリティが高い」と。

このような形で、時代変化があったものの、日本のビジネスホテルは、ある意味では全て追い風に変わったという背景が成長のドライバーとなりました。

コロナ後に訪れた構造変化とは?

しかし、そんなビジネスホテルにもコロナ禍後に逆風が吹き始めます。それは、「ビジネス需要の長期トレンドでのマイナス」という事態です。

もともと、日本市場が縮小するので、ビジネス需要が減退していくのは想定内でしたが、コロナ禍で発達したリモートワーク、リモート会議がビジネス出張の減退を想定より早める形になってしまいました。

全国に店舗網を持つ大企業が、「今まで店長会議を集まって開催していましたが、全てリモートになりました」、こんな声を聞くのはひとつふたつではなく、相当数の出張需要が現在も消失していると想定できます。

そして、このトレンドが反転することはなく、この先も日本のビジネス需要が全体として上昇するということはないでしょう(もちろん、TSMC誘致のような局所的なビジネス需要の盛り上がりは随所であることはあります)。

そこで、ビジネスホテルチェーン各社はほぼ全て「レジャーの強化」を今の重点戦略に据えています。

理由はお分かりですよね? そう、インバウンドです。国内マーケットは縮小するものの、インバウンドマーケットは拡大する。そのため、各社「インバウンドを中心としたレジャー強化」に戦略の軸足を移しているのです。

変革期を迎えているビジネスホテル業界

したがって、ビジネスホテルチェーンの最近のリニューアルを見ていただくと分かりますが、ほぼ例外なく、ツインルームやダブルルームの比率を増やして、シングルルーム比率を下げています。

それが、今後ビジネス需要が減少して、レジャー需要が増える(獲得にいく)というビジネスホテルサイドの明確な意思なのです。

しかし、全社が同じ戦略を取るということは、熾烈なレッドオーシャンになることを意味します。とくにインバウンドの多い都市部では、民泊や異業種からのホテル参入、外資ホテルも入り乱れて、既に大激戦区になりつつあります。

ブッキングドットコムで検索いただければ分かりますが、京都駅周辺では既に2000を超える宿泊施設があります。ここから自らの宿を見つけ出してもらうには、相当難しくなってきています。

そして、一部の都市では既にインバウンド需要を持ってしても、供給過多に陥り、価格の大暴落が起きています。インバウンドという巨大なマーケットの出現により、大きな変革期に来ているのが今のホテル業界という状況なのです。

ビジネス関連記事をもっと読む→三菱重工、川崎重工だけじゃない…日本の防衛産業の「知られざる実力」、日本3社で「世界シェア5割超」の分野も

【もっと読む】三菱重工、川崎重工だけじゃない…日本の防衛産業の「知られざる実力」、日本3社で「世界シェア5割超」の分野も