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数週間分の業務を削減。エルフビューティーの AI 活用事例と懸念点
数週間分の業務を削減。エルフビューティーの AI 活用事例と懸念点
数週間分の業務を削減。エルフビューティーの AI 活用事例と懸念点
記事のポイントエルフビューティーは「常に人間が意思決定に関わる」ことを掲げ、AIをあくまで支援ツールと位置づけている。GoogleをLLMに選定し、社内のペインポイントから100のユースケースを創出し、業務プロセスの再設計を進めている。顧客接点ではAI生成コンテンツを避けつつ、PDP更新や問い合わせ対応など裏側の業務効率化に活用している。
あらゆるブランドや小売企業がAIの影響と格闘するなか、各社はAIをどこで使い、どこで使わないのか、一見無限に広がるユースケースを試すにあたっての指針は何なのか、厳しい問いを自らに突きつけなければならなくなっている。コスメブランドのエルフビューティー(E.l.f. Beauty)の指針はシンプルである、と同社のチーフデジタルオフィサーであるエクタ・チョプラ氏は語る。人こそが同社の存在意義であり、そのため、AIをますます多くの業務に活用していくなかでも、常に人間が意思決定に関わるようにしていく。つまり、エルフビューティーはクリエイティブの生成にAIを使うことにはより慎重になっている。チョプラ氏によると、エルフビューティーの顧客はブランドが本物ではないと感じるコンテンツを発信すれば指摘してくる。そのため、同社は既存の従業員の業務負担をAIでいかに軽減できるかにより注力している。リテールカンファレンスのショップトーク・スプリング(Shoptalk Spring)において、Modern Retailはチョプラ氏に、エルフビューティーのAI哲学やAI活用に向けた従業員教育の戦略などについて話を聞いた。なお、このインタビューは、明瞭さと長さのために編集されている。◆ ◆ ◆
――まず、エルフビューティーが現在AIをどのように活用しているか、概要を教えてほしい。 「まず、エルフビューティーではすべてが目的からはじまり、目的が人を動かす。その枠組みのなかで、私たちは目的を持ってAIに取り組みたいと考えている。その目的とは、常に人間が我々の活動の指揮者であり続けるということだ。我々はAIをツールだと捉えており、人間が文脈を与え、適切な質問をするなど、依然としてAIの役割を果たす必要があると考えている。つまり、もっとも重要なのは、すべてがその枠組みに基づいて行われる。そのなかで、4つの注力領域、つまり柱がある。1つ目は、人間の生産性をどのように向上させるか。ポイントは、仕事を楽にして、特定のタスクをやらなくて済むようにすることである。たとえば、月曜日の朝に出社したときにすべてが準備されていて、実際にその時間をチームとのつながりを築き、エルフビューティーの特別な文化の一部になるために使用する。2つ目は、組織内のあらゆるプロセスを確実に再構想することである。AIを活用するとどのように考えられるだろうか。たとえば、クリエイティブチームに、『我々のどこに課題(ペインポイント)があるのか教えてほしい』と、リスニングツアーを実施した。LLMとして選定しているGoogleのチームにも参加してもらった。そこから100のユースケースが生まれた。すべてシンプルなもので、たとえば『商標検索をしたい』などである。3つ目は、小売業者として非常に重要なもので、エージェンティックコマース全体に関わる部分である。つまり、LLMのなかでブランドの権威としてどう存在感を示すか? これがもうひとつの重要な課題である。そして最後に、決算処理などを行う際に、財務部門におけるエンドツーエンドの自律性をどう考えるか? つまり、非常に実務的な側面に焦点を当てた課題である。これが私たちの考え方である」。--常に人間が意思決定に関わることの重要性が強調されていたが、具体的にどのようなプロセスでAIを活用しながらも人間が関与できる仕組みになっているのか? 「我々は、小売店向けの商品詳細ページ(PDP)を多数展開しており、自社サイト用のPDPも保有している。自社のPDPであれば、自らコントロールできるため、好きなように設定できる。一方で、ウォルマートやターゲットはそれぞれ固有の仕様が存在する。つまり、以前は小売店向けサイト更新チームに数週間かけて行っていた作業、つまり、情報を収集し、Walmart.comやUlta.com 向けに最適化して準備する作業が、現在では一部が自動化されている。ページの更新が必要になるたびに、AIエージェントがスケジュールに基づいて更新内容を送信し、小売店向けサイト更新チームは内容を微調整するだけ。これにより、数週間分の作業が削減される。これは、かつて手作業で行われていた業務の一例である。現在では、エージェントが一定の完成度まで仕上げ、そのあとに人間が微調整をしている」。--チームがAIを最善かつもっとも効率的な方法で使えるようにするために、どのように取り組んでいるか? 「2つの側面があると思う。ひとつは組織のイネーブルメント(能力向上)である。我々には『E.l.f. U』という学習プラットフォームがある。人材トランスフォーメーション企業のセクションAI(Section AI)と提携して、たとえば『自分は経理担当者だが、どうやって使えるのか?』のような、基本的な質問や、そのほかの質問の回答を提供する。これは全社的なものである。AIポリシーも策定した。これは、使えるツールと使えないツールを定めたものである。そして影響力のある専門家集団、つまり、新しいツールを検討する評議会がある。彼らは『これは使っていいのか?』と提案し、我々はそれを検討して組織に組み込んでいく。つまり、すべての人がAIを使うことが期待されているのだ」。--エルフビューティーのAI活用について、顧客がどのように受け止めているかは把握しているのか? 「我々のコミュニティは我々を批判している。顧客は我々が顧客対応にAI利用を望んでいない。『エルフビューティー、これはあなたらしくない。本物ではない』と言ってくる。それが第一であり、我々はそれを非常に真剣に受け止めている。AIを使っている例として、「E.l.f.-fluencer」という我々が開発した製品がある。この製品の開発は、まさにテストと学習の連続であった。我々のコミュニティは常に質問を寄せてくれるが、1日に対応できる時間や人員に限りがあるため、40%にしか回答できていなかった。そこで、AIをトレーニングし、今では回答の90%をAIがコミュニティマネジャーに送り、マネジャーが確認してから投稿する。これによってマネジャーの仕事は楽になり、コミュニティからの質問もより速く対応できるようになった。我々はAIを駆使した派手なキャンペーンを打ち出すのではなく、このようにしてコミュニティに貢献している」。--我々がいるAIの時代、過去の技術革新と比べて、非常に速いスピードで多くの進歩があったように感じる。新しいAI時代に適応するために、自身やチームの考え方を変える必要はあったか? 「誰もが最新トレンドに置いていかれないように必死だが、誇大広告と現実の区別がついていないように感じる。エージェンティックAIについて考えるとき、データが正しく整備されておらず、接続が適切にセットアップされていなければ、AIエージェントのことは忘れたほうがいい。議論は、『流行に乗って、統合を実現したい』から、『LLMにきちんと表示され、ブランドの認知度が高まり、スコアが上がっていることを確認しよう』へとシフトし、『KPIはどう変化しているか?』と問うべきである。しかし、そうした議論はあまり見かけない。むしろ、『知っておくべきクールなことは何?』という議論ばかりだ」。[原文:E.l.f. Beauty's chief digital officer shares her strategy for the AI era]Anna Hensel(翻訳、編集:藏西隆介)