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生涯独身を貫き、個人の設計事務所を営むUさん(52歳・男性)。現在の金融資産はすでに1億2,000万円にのぼり、60歳で1億5,000万円まで増やしたうえで完全リタイアする計画を立てています。年金は減額されても「早くもらうのが得」と繰上げ受給を選択予定。老後不安とは無縁に思える堅実な50代男性ですが、長年染みついた金銭感覚ゆえに、完全リタイアを前にして「まさかのジレンマ」に直面することに……。

60歳で資産1.5億円、完全リタイアへのカウントダウン

「あと8年、60歳の誕生日を迎えたら、今の事務所はたたむ予定。そこからは、自由に老後を満喫したいです」

Uさん(52歳・男性)は、自身のリタイア計画を語ります。独身のUさんは一級建築士として個人の設計事務所を長年営み、手堅く稼ぎ続けてきました。現在の金融資産はすでに1億2,000万円に到達しています。

「今の事業所得と、これまでの資産の運用益を合わせれば、60歳になる時点で資産は1億5,000万円くらいまで増える見込み。そこが私のゴールですね」

完全リタイア後の収入源について、Uさんは年金の「繰上げ受給」を活用する予定です。本来、65歳から受け取る年金を60歳に前倒しすることで、受給額が一生涯にわたって減額される仕組みですが、Uさんに迷いはありません。

「会社員時代が短く、ほぼずっと国民年金しか払ってこなかったので、60歳まで繰上げると、月にもらえる年金は5万円ほどに減ります。それでも、もらえるものは健康なうちに早めにもらったほうが断然得だと思っています」

年金を繰上げると、65歳になるまでは万が一の障害年金が受け取れなくなるというデメリットがあります。しかし、Uさんはそこのリスクも織り込み済みです。

「すでに民間の医療保険にも入っています。それに、これだけのお金があるので、万が一の事態が起きても何の問題もありませんね」

月20万円の老後生活で、1億円以上残る計算

Uさんの老後計画は、堅実そのものです。

「1億5,000万円のうち、投資に回すのは5,000万円だけ。残りの1億円は、預貯金として手元に残すつもりです」

全資産を投資に回せば、さらに資産は増えるはずですが、あえて現金比率を高めているのには、Uさんなりの考えがあります。

「相場の暴落で資産が目減りするストレスを抱えるくらいなら、現金で持っていたほうが精神的にずっと楽なんですよ。残りの人生、お金の心配は一切せずに逃げ切りたいですからね」

投資信託5,000万円を利回り3%で手堅く運用し、税引き後の配当金が月に約10万円。そこに貯蓄からの取り崩し5万円と、繰上げ受給する年金5万円を合わせ、月20万円での生活を送る予定だといいます。

「月20万円もあれば、私にとっては十分すぎる額なんですよ」

独立後は仕事一筋で、深夜の事務所でひとり図面と向き合ってきました。もともと派手な遊びにお金を使うタイプではありません。日々の食事も簡単な自炊で済ませるなど、これといった趣味もないというUさん。

しかし、その真面目さゆえに、ある大きなジレンマに行き当たりました。

「あり余るお金」を持つがゆえの悩み

「この計算だと、仮に90歳まで生きたとして、途中で大きな病気をしたり家のリフォームをしたりして3,000万円ほど使ったとしても、死ぬ間際に1億円以上の資産が残ってしまうんですよね」

独身のUさんには、財産を遺すべき配偶者や子どもがいません。甥や姪に譲るという選択肢もありますが、できれば自分が稼いだお金は生きているうちに使い切りたいという思いがあります。

「もっとパーッと使おうと、頭では思ってるんですよ。でも、いざお金を使おうとしても、長年染みついた金銭感覚のせいか、なかなかできません」

自分と同じように独立して事務所を構えた同業の友人たちは、高級車を乗り回したり、夜の街へ飲みに出かけたりと、派手にお金を使って人生を謳歌しているといいます。

「彼らのそういった充実した姿を見ると、ある意味うらやましいなと思うこともあります。でも、どうもあの生き方は自分にはできなくて」

「このままだと大金を余らせたまま、あの世に行くことになりそう」と、お金が足りないという老後不安とは無縁なUさん。しかし「どうやって自分らしくお金を使い切るか」という新たな悩みに直面しています。

数字で見る「富裕層」のリアルと年金繰上げ受給者の実態

Uさんのように、堅実な働き方と運用で多額の資産を築く人は、年々増加しています。株式会社野村総合研究所の推計によると、2023年時点で純金融資産1億円以上5億円未満の「富裕層」は153.5万世帯に達し、調査を開始した2005年以降、増加を続けています。

また、Uさんが計画している「年金の繰上げ受給」ですが、決して珍しい選択ではありません。厚生労働省の「令和6年度 厚生年金保険・国民年金事業の概況」によれば、国民年金(基礎年金のみ・旧国民年金)の受給権者のうち、繰上げ受給を選択している割合は23.2%にのぼります。

繰上げ受給者の平均年金月額は約4万6,000円(46,448円)であり、Uさんの「月5万円ほど」というシミュレーションは、データから見ても実態に即した現実的な水準といえます。

長年染みついた「地味で堅実な金銭感覚」を急に変えるのは容易ではないかもしれません。

しかし、豊富な資金を「自分自身の安心と快適な最期」のために思い切って使うことは、身軽な独身の資産家だからこそできる、有意義なお金の使い方といえるのではないでしょうか。

[参考資料]

株式会社野村総合研究所「日本の富裕層・超富裕層は合計約 165万世帯、その純金融資産の総額は約 469 兆円と推計」

厚生労働省「令和6年度 厚生年金保険・国民年金事業の概況」