仕事ができる人の話し方や習慣を真似すれば、仕事ができるようになるのか。心理学者の榎本博明さんは「ほんとうにできる人は、人の真似をしない。自分流を編み出す試行錯誤ができるということが、仕事ができる人になる条件といってもよいのではないか」という――。

※本稿は、榎本博明『【新装版】薄っぺらいのに自信満々な人』(日経プレミアシリーズ)の一部を再編集したものです。

写真=iStock.com/chanakon laorob
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■「できる人」の記事を読んでいる時点で「残念な人」予備軍

できる人に見られたい。それはだれでも一緒だろう。では、できる人に見られるためにどうするか。そこに、ほんとうに仕事ができる人と「仕事ができる風」な人の分かれ道がある。

「できる人のカバンの中身」
「成功を呼び込む必須アイテム」
「稼げる人が持つ財布」

ウェブや雑誌でよく見かける特集だが、このようなタイトルに惹かれ、読んでみようと思う人。その時点で、ほんとうに仕事ができる人に成長していく路線から外れてしまう。

ビジネスで活躍している人と同じ小道具を持ったからといって、仕事ができるようになるわけがない。たくさん稼いでいる人と同じような財布を持ったからといって、稼げるようになるわけがない。

そんなことは小学生でもわかることだ。

それなのに、こうした本のタイトルやウェブ記事に惹きつけられて読んでいる時点で、残念な人の予備軍になっている。

このようなタイトルが気になるということは、「仕事ができる風」な人をめざしている証拠と言える。それだけで、もう仕事ができる人になれない資質十分と言える。即刻、心の構えを修正する必要があるだろう。

■手帳術やノート術よりも真似るべきこと

持ち物を真似するというのは確かに浅はかなことだが、思考の整理術みたいなものなら役立つはずと思うかもしれない。

「仕事ができる人の手帳術」
「ビジネスを成功に導くノート術」
「できる人のメモ術の極意」
「できる人の話し方」

これらもウェブや雑誌の特集によくありがちなタイトルだ。小道具を真似ようとするよりははるかにマシかもしれないし、参考になる点もあるかもしれない。だが、メモのとり方や話し方で仕事ができるようになるわけではない。

その仕事のできる人の思考法のクセが、そのようなメモのとり方を編み出したのであって、メモのとり方が思考法を生み出したのではない。メモのとり方は結果であって原因ではない。

だから、メモの仕方を真似したって、同じような頭の使い方ができるようになるものではない。

仕事ができる人にもいろんな手帳の使い方があり、人によってさまざまだ。几帳面にメモしてうまくいく人もいれば、ほとんどメモなどしないのにうまくいく人もいる。スッキリした図解が好きな人もいれば、グチャグチャ書き込むのが好きな人もいる。

手帳とかノートのとり方よりも、もっと真似るべき重要なことがあるはずだ。教養を身につけたり、仕事に必要な知識を仕入れたり、発想力を高めるためにいろんな本を読んだりといった日頃の地道な努力を飛ばして、魔法のテクニックに頼ろうという安易な姿勢が問題なのだ。

■自分で工夫し、自分流を編み出す

ほんとうに活躍している人は、努力を節約して最大限の成果を得ようなどといった姑息な発想をせずに、地道な努力と試行錯誤の末に、ようやく力を発揮できるようになっている。

手帳やノートのとり方も、人の真似をするのでなく、自分なりの方法を試行錯誤で編み出すようでないと、できる人にはなれない。「できる人」は無意味なサル真似をしない。オリジナリティを追求する。

自分で工夫し、自分流を編み出す。自分流を編み出す試行錯誤ができるということが、仕事ができる人になる条件といってもよいのではないか。

話し方にしても、仕事のできる人の話し方を真似して、運よくそれが功を奏して「できる人」に見られたとしても、それで期待されて与えられた仕事を期待通りにこなせなかったらどうなるか。そんな見かけ倒しでは、そのうち仕事も来なくなる。

できないのに「できる人」風の話し方をすることほど滑稽なことはない。見せかけよりも、まずは中身を充実させる地道な努力が必要だ。

■「仕事ができる風」な人が、なぜか自信満々な理由

「仕事ができる風」な人が、なぜか自信満々で、ほんとうに仕事ができる人の方が不安が強かったりするが、その理由のひとつに、前者は下方比較をするクセがあり、後者は上方比較をするクセがある、ということがある。

下方比較というのは、自分より劣る人と比べることを指す。自分よりできない人物と比べることで、

「自分の方がずっとよくできる」

と思えるし、うまくいかなかったときも、

「あいつよりはマシだろう」

と思えるため、自信を保つことができる。

写真=iStock.com/Eoneren
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努力せずに自信を保つコツが下方比較をすることだが、「仕事ができる風」な人は、この戦略を無意識のうちに使っているものだ。そのため、自信はあるのだが、力をつけるための地道な努力が抜けているため成長していかない。

一方、上方比較というのは、自分より優れた人と比べることを指す。自分より優れた人と比べることで、

「自分は、まだまだだ」

といった思いに駆られ、優れた人を意識するたびに、

「もっと頑張らないと」

と、向上心を燃やすことになる。

■成長している人は上方比較をするクセがある

下方比較に自信を保つ効果があるとすれば、上方比較には向上心を刺激する効果がある。

ほんとうに仕事ができる人、あるいは「できる人」になるための成長軌道に乗っている人は、無意識のうちに上方比較をしているものだ。

うまくいかなくて自尊心が傷つきそうなとき、自分より劣った人物と比較することで気持ちの落ち込みを防ぎ、自尊心の維持をはかる。それが下方比較の効用と言えるが、これに頼っていると、成長路線からいつの間にか逸れていってしまう。ふだんから、

「自分の方がマシだ」

というような思いを感じることが多いという人は、下方比較のクセがないかどうか、セルフチェックをしてみるべきだろう。

成長していく人は上方比較をするクセがある。そのことを覚えておきたい。

■「できる風」を装う人たちの浅はかさ

「できる風」を装う人たちは、じつは実力が乏しく、薄っぺらい知識しか持ちあわせていないのが周囲にはバレバレなのに、本人は自分が知識も豊富で有能だと思い込んでいる。それが勘違いだということに気づかずに、得意げに薄っぺらい知識をひけらかしたり、人脈づくりに励んだりする。そこがまた「痛い」とみなされる。

ほんとうに「できる人」をめざして成長路線を歩んでいる人は、理想自己を掲げ、それを基準に自己評価するため、たえず「自分はまだまだだ」といった思いを抱えている。

現実自己が力をつけたら、理想自己をさらに上に設定する。それによって、「自分はまだまだだ」という思いが持続する。それが向上心につながる。

写真=iStock.com/petrenkod
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実力のある人は、自分を厳しい目で見る習慣がある。自分に厳しい人でないと成長できない。現実自己を厳しく査定し、理想自己と比べてまだまだと思うからこそ、現実自己を理想自己に少しでも近づけられるように頑張ろうと思う。そうした心の動きによって力をつけてきたわけだ。

前項でもみたように、他人との比較でも、上方比較を用いるクセがある。常に自分より力が上の人と比較し、「自分はまだまだだ」と思う。それがまた闘志や向上心につながっていく。

■心がタフなら上方比較をしても落ち込まない

ただし、ここで問われるのが心のタフさだ。

上方比較によって、自分よりずっと有能な人を意識するとき、心がタフでないと、「自分はダメだ、能力がないんだ」

榎本博明『【新装版】薄っぺらいのに自信満々な人』(日経プレミアシリーズ)

と落ち込み、モチベーションを低下させる。

それに対して、心がタフな場合は、落ち込むことなく、

「自分はまだまだだ。もっと頑張らないと」

とモチベーションを高める。

落ち込みやすい人は、落ち込みを避けるために、自分より有能な人との比較は無意識のうちに避けるようになる。そして、自分より能力や業績面で劣る人を意識することで、「自分の方がずっとマシだ」

と安心したがる。落ち込まないように、自己嫌悪に陥らないように、常に下方比較を用いる。

「できる風」を装う人たちが、自分の力不足を認めようとせず、むしろ周囲の人たちを見下すような態度を取るのも、無意識的な自己防衛のために下方比較をするクセを身につけているからに他ならない。

下方比較によって「自分の方がマシ」と安心していたら、何とかして現実自己を向上させなければといった危機感がなくなる。こうした心の動きによって力をつけないままになってしまう。

実力のある人の方が謙虚だと言われることの背景には、常に上方比較をする心の習慣が潜んでいるのである。

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榎本 博明(えのもと・ ひろあき)
心理学博士
1955年東京生まれ。東京大学教育学部教育心理学科卒業。東芝市場調査課勤務の後、東京都立大学大学院心理学専攻博士課程中退。カリフォルニア大学客員研究員、大阪大学大学院助教授などを経て、現在、MP人間科学研究所代表、産業能率大学兼任講師。おもな著書に『〈ほんとうの自分〉のつくり方』(講談社現代新書)、『「やりたい仕事」病』(日経プレミアシリーズ)、『「おもてなし」という残酷社会』『自己実現という罠』『教育現場は困ってる』『思考停止という病理』(以上、平凡社新書)など著書多数。
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(心理学博士 榎本 博明)