【永宮 和美】53期連続黒字のアパホテル「過激すぎる価格操作」でも集客力がまったく衰えない《3つの要因》

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アパグループが先ごろ2025年11月期連結決算を発表し、3期連続で過去最高売上高、過去最高利益を更新した。また中核会社のアパホテルは創業から53期連続で赤字を出したことがない。図抜けた強さの秘密はどこにあるのか、背景を探った。

他社の倍以上「圧倒的利益率」なぜ

アパホテルといえば、「私が社長です」のコピーと、派手な帽子がトレードマークの元谷芙美子社長の姿が真っ先に思い浮かぶ。パブリックスペースにはシャンデリアが輝き、インテリアも派手目。一方で、客室はスタンダードタイプだと面積が10〜11平方メートルの最小クラス。大きなスーツケースなどは置き場所がないので、ベッド下に収納スペースを設けている。

そのあたりはユーザーも好みがわかれるところだろうが、いまやフランチャイズ(FC)と予約サイトでの販売提携先「アパ直参画ホテル」を含めて、1011軒(直営265軒・グループの別ブランド19軒・FC78軒・参画649軒=2026年2月現在、建設中・計画中を含む)を展開する日本最大のホテルグループへと成長している。

持株会社のアパホールディングスは昨年6月、宿泊特化型「The b」など19軒を展開するイシン・ホテルズ・グループを完全子会社化した。また2016年にはカナダを中心に北米で49軒のホテルを展開する「コーストホテルズ」も買収している。

創業者の元谷外志雄会長がこの2月に82歳で死去し、カリスマを失ったショックは会社に残るが、2022年に長男の元谷一志氏がアパグループ社長兼CEOに就任して経営交代は済んでいる(アパホテル社長は芙美子氏)。そして、その禅譲からも業績はずっと右肩上がりできているのだ。

増収増益の連続更新もさることながら、アパホテルで特筆すべきは利益率の高さだ。つねに営業利益率30%以上を確保していて、10〜15%が一般的といわれる宿泊特化型ホテル業界にあって突出している。その要因は主に3つある。

業界とは真逆…「持つ経営」を貫く

1点目は、現存の直営ホテル214軒のほとんどが自社所有物件なので、賃借料が発生しないこと。近年は不動産市況も高騰しているので含み益にも余裕がある。

賃貸物件は直営全体の7軒だけで、それも5軒は自社グループのREIT物件だ(2軒が外部ファンド所有)。プリンスホテルやロイヤルホテル(リーガロイヤルホテルの経営会社)がこのところその傾向を強めているように、ホテル企業は総じて「持たざる経営」にシフトしているのだが、アパはずっと真逆の道を歩んでいるのだ。

石川県金沢市発祥のアパグループは、マンション開発事業とホテル事業を並行して進めてきたハイブリッド企業。マンション販売で得た利益をどんどんホテル用地買収に注ぎ込む事業モデルで急成長した。さらに2010年ごろからは出店先を東京圏に集中してきた。ちょうど東京圏の地価が底を打ったころである。

アパは、不動産市況が低迷しているときに一気に事業拡大に走る嗅覚を持つ。バブル期、多くの企業が不動産投資に走ったときも同社は手を出さなかった。

蓄えてきた資金を海外の航空機リース事業に投資し、その利益を、バブルが弾けるのを見計らってマンションやホテルの用地取得費、建設費に振りむけてきたのだ。借入金はあるが、それは開業費用や運営費用で、土地取得費などはないので返済も軽い。金融機関とも強気で交渉できる。

「定員稼働率」重視で収益を最大化

2点目は、徹底したレベニューマネジメント(収益最大化)だ。ホテルの客室はその日に売れなければ売上高ゼロで、機会損失となる。そして客室稼働率が高くても、高く売れるときに安く売っていたのでは意味がない。レベニューマネジメントはつまり客室稼働と販売単価を最大化するための手法だ。

ITの進化に加えて、近年はAIによる需要予測も深化してきたので、昔のようにスタッフの勘に頼る部分は少なくなっている。それをアパは全社レベルで最大活用している。

「当社独自の設計によるマネジメントシステムは実績分析から将来予測まで可能だ。また販売価格は規定範囲内で各ホテルの支配人に決定裁量を与え、本部にはレベニューマネジメント専任部署を設置して価格変動のフォローアップをおこなっている」(アパグループ広報)という。

さらにアパホテルの場合、販売価格の上下差がかなり大きい。安いときは5000円程度だったおなじ客室が、ピーク時は3倍ほどにもなる。その落差にあっと驚くユーザーも少なくないのだが、これこそが「ダイナミックプライシング」によるマネジメント手法だ。

「イメージを大切にするホテルだから、価格操作も穏便に」という考え方はアパにはない。ダイナミックプライシングはいま、さまざまな消費分野で導入されている。需要に応じたドラスティックな操作はむしろあたりまえになりつつある。

客室の構成もほかのホテルとちょっとちがう。観光需要が旺盛な都市部では、1名利用限定のシングルは少なくする(「実質ラブホテル化」を防ぐ目的から自治体により一定数確保の基準はあるが)。そしてシングルと同面積(10平方メートル程度)のセミダブルやダブルルームをできるだけたくさんつくり、なるべく2名利用で高く売る。

客室稼働率だけでなく「定員稼働率」を重視して収益を最大化するわけである。客室の狭さを気にしない若いカップルなどをコア客層としているのは、そのためだ。

アパが強化している販売戦術に「デーユース」もある。宿泊しないで日中だけ客室を利用するプラン(最大利用時間6時間)で、清掃などに要する時間以外の客室の空き時間を最小化して、できるだけ収益を増やす。この販売手法はかなり以前から業界にあったが、「ラブホテル代わり」とみられることで派手な販売はひかえられていた。

しかしいまは利用動機がかなり多様化している。客室で仕事に集中する、大浴場利用と昼寝で気分転換、客室でコンビニ飯を食べて映画を観る――そんな利用形態がとくにコロナ禍以降は増えているという。アパは大浴場やコンビニなどが充実していて、大規模ホテルでは屋外プールを備えるところもあるので利用動機は広がる。ただしデイユースは強化すればするほど客室清掃などの負荷が増す。

“2000万人超”会員制度を駆使して

そして3点目は、前述したFCや販売提携による直営ホテル以外での売上高拡大だ。FC事業では、アパが築いてきたホテル開発と販売戦略のノウハウが強みとなる。また販売提携事業では2000万人超という巨大な会員制度がものをいう。東横イン800万人、プリンスホテル230万人というところと比べてもいかに会員数が多いかがわかる(何割がアクティブ会員かは不明だが)。

アパ会員はもちろん提携ホテルでもポイントを獲得できる。提携ホテルがアパに支払うフィーは8%(送客手数料5%+ポイントフィー3%)だ。費用負担が小さいFCや提携の拡大は、利益率の押し上げに寄与する。

FC事業では、貸し会議室の運営大手でホテル運営も手掛けるTKPとの提携も大きな推進力となっている。TKPは2014年からアパのフランチャイジーとなり、現在は22軒・3896室の会議室付帯型のアパホテルを展開する。以前は既存の会議室付帯型アパホテルを取得していたが、近年ではTKP仕様でアパが開発した物件を取得する方式も採る。

アパホテルの特筆すべき点はほかにもある。インバウンドに対してどういうスタンスを取っているのか――。つづく【後編記事】アパホテルが証明「じつは中国人観光客がいなくてもノーダメージ」だった…変わるホテル業界“中国依存度”減らす方向へ』では、同社の独特な企業姿勢を深掘りしていく。

【つづきを読む】アパホテルが証明「じつは中国人観光客がいなくてもノーダメージ」だった…変わるホテル業界”中国依存度”減らす方向へ