(※写真はイメージです/PIXTA)

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夫婦で穏やかな老後を過ごすため、周到に準備を重ねてきたはずが、予期せぬ事態で生活の基盤が揺らぐケースが後を絶ちません。特に共働きでキャリアを築いてきた世帯ほど、現在の社会保障制度が抱える思わぬ「落とし穴」に直面するリスクがあります。ある夫婦のケースを見ていきます。

幸せの絶頂から暗転…二人暮らしを前提にした「終の棲家」の誤算

夫の正雄さん(享年78歳・仮名)とは職場結婚だったという、高橋恵子さん(75歳・仮名)。

結婚したのは、1970年代後半。当時、女性は結婚・出産を機に仕事を辞めるのが一般的でしたが、恵子さんは仕事と家庭を両立し、60歳の定年まで勤め上げました。そして夫婦で介護付き有料老人ホームに入居。将来を見据えて、自宅を処分しての決断でした。

「現役時代は2人ともがむしゃらに働きました。子どもはいませんから、最後は人様の手を借りて、夫婦水入らずで過ごそうと決めていたんです」

入居一時金に3,000万円、月々の支払いは2人分で約38万円。決して安くはありませんが、恵子さんの年金月16万円と正雄さんの年金を合わせれば、月収は30万円を超えます。これであれば、貯蓄を崩しながらでも入居し続けられると考えていたといいます。

しかし、入居からわずか1年半。正雄さんが急性心不全で急逝します。

「悲しむ暇もありませんでした。最初に来たのは、ホームからの事務的な書類と、年金事務所からの通知です。そこで初めて、私は自分が『遺族年金』を1円も受け取れないことを知ったんです」

恵子さんも現役時代、正雄さんと同等のキャリアを積んでいました。その結果、自身の厚生年金受給額が遺族厚生年金の額を上回っていたため、給付はゼロになったのです。このような現状に、恵子さんは納得がいきません。

「昔は、『結婚しているのに、仕事をしているなんて』と、よく嫌味をいわれたものです。それでも働き続けて、年金保険料だってきちんと納めてきました。それなのに、夫が亡くなっても何の保障もない。夫の年金が丸々消えて、収入は一気に半分になる。頑張って働いたことが仇となるようなルール、やってられませんよ」

入居していたのは2人部屋。1人で住むには広すぎますし、費用も高額です。だからといって、1人部屋に移ったとしても、費用が半分になるわけではありません。

「1人部屋の費用は2人部屋の7〜8割程度。収入が半分になった今、1人部屋に移ったところで費用を払い続けられるか不安が残ります。転居も視野に考えないといけません。まさか、こんなことになるなんて」

「共働き損」を加速させる遺族年金の欠陥

遺族厚生年金の受給額は、原則として亡くなった配偶者の報酬比例部分の4分の3とされています。

しかし、自身も厚生年金を受給している場合、まず「自身の老齢厚生年金」が全額支給され、遺族厚生年金がそれを上回る場合の「差額分」のみが加算される仕組み(充当方式)となっています。つまり、「自分の年金額 > 夫の年金額の4分の3」であれば、遺族厚生年金は実質ゼロとなるのです。

さらに、住まいのコストも重くのしかかります。株式会社LIFULL senior/LIFULL 介護の調査によると、1都3県の有料老人ホーム費用相場は、東京都で入居時費用相場が1,008万円、月額費用相場が29.9万円に上ります。

これは神奈川県の約1.4倍(差額:288万円)、千葉県の約2.1倍(差額:538万円)、埼玉県との比較では約3.2倍(差額:688万円)です。有料老人ホームの費用は不動産相場に強く影響を受けるため、都心部ほど高額になる傾向があります。

生活費が「1人分=2人分の半分」にならないのと同様に、老人ホームの管理費や賃料も、人数が減ったからといって単純に半額にはなりません。そのため高橋さんのように、パートナーの死で世帯収入が激減したとき、一気に費用面での懸念が噴出するのです。

「夫婦合算の世帯年収」を前提にライフプランを立てている共働き世帯ほど、片方を失った際の収入減がダイレクトに生活を直撃します。現行の社会保障制度は、いまだに「専業主婦世帯」をモデルとした設計の名残が強く、自立して働いてきた女性ほど、いざという時の保障が薄くなるというパラドックスを抱えています。

老後資金のシミュレーションを行う際は、「どちらか1人の年金と貯蓄だけで、施設費用を維持できるか」という、シビアな前提に立つ必要があるのです。

[参考資料]

株式会社LIFULL senior/LIFULL 介護『東京都内有料老人ホームの入居時費用相場は1,000万円超。都内在住者の問い合わせの4割強が都外施設へ。』