韓国から富裕層が国外脱出――相続税制が促す「静かな移動」【国際税務の専門家が解説】
世界的に富裕層の「移動」が加速するなか、韓国からの富裕層流出が注目を集めています。2025年の世界ランキングでは、英国、中国、インドに次いで韓国が4位に入り、2,400人が国外へ移住したとされています。その背景として指摘されているのが、株式に対する割増評価を含む韓国独特の相続税制です。相続税率引き下げを盛り込んだ税制改正案が示される一方で、富裕層の国外流出は止まるのでしょうか。『富裕層が知っておきたい世界の税制【太平洋、アジア・中東、アメリカ編】』の著者である矢内一好氏が韓国の相続税制と国際的な富裕層移動の実態を読み解きます。
世界ランキングで4位に浮上した韓国の富裕層流出
2025年の世界の富裕層が流出する国・流出した国ランキング(https://worldinvest.jp/iju-ranking/2026年2月5日アクセス)によれば、富裕層の流出数が最も多かったのは英国で、次いで中国、インド、韓国の順となっています。
韓国は4位で、国外へ移住した富裕層は2,400人とされています。英国については、富裕層に不利な税制が主因とみられていますが、韓国の場合は相続税制が大きな要因であると指摘されています。
相続税率引き下げへ――25年ぶりの税制改正案
2024年7月の報道によれば、韓国政府は25年ぶりに相続税制度の大幅な見直しに踏み切り、最高税率を50%から40%へ引き下げる「2024年税法改正案」を策定しました。
あわせて、子が相続する場合の基礎控除額を、1人当たり5,000万ウォン(約550万円)から5億ウォンへと大幅に引き上げる方針も示されています。
さらに、これまでの「遺産税方式」から、相続人ごとに課税する「遺産取得税方式」へと課税方法を変更する内容も盛り込まれました。
これらの改正は、国際的に見て重いとされてきた韓国の相続税負担を緩和する狙いがあります。
実効税率50%超も生んだ「最大株主割増評価課税」
もっとも、現行制度下における韓国の相続税の最高税率は50%です。
2020年10月に死去したサムスン電子の前会長、李健熙(イ・ゴンヒ)氏の相続税では、実効税率が50%を超えたことが大きな話題となりました。
その背景には、韓国の相続・贈与税法に規定されている「最大株主割増評価課税」(相続税及び贈与税法第63条第3項)の存在があります。
財閥経営と相続税制――株式だけに重い負担
この制度では、大企業の最大株主(筆頭株主またはその相続人)が相続した株式について、評価額に一定割合を上乗せして「相続価額」を算定し、そのうえで最大50%の税率を適用します。
具体的には、第63条第1項第1号および第2項の規定により評価した価額に、その価額の100分の20(大統領令が定める中小企業の場合は100分の10)を加算します。
さらに、最大株主等が当該法人の発行株式総数等の100分の50を超えて保有する場合には、100分の30(中小企業の場合は100分の15)を加算する仕組みとなっています。最大株主等が保有する株式等の計算方法については、大統領令(2002年12月18日改訂)で定められています。
このような割増評価課税の背景には、韓国特有の財閥経営の存在が影響していると考えられます。一方で、不動産には割増課税の規定がなく、株式のみに重い負担が課される点については、課税の公平性を損なうとの指摘も韓国の経済界から出ています。
日本の国外転出時課税制度との対比
日本には「国外転出時課税制度」があり、一定の居住者が国外へ転出する際、1億円以上の有価証券等を保有している場合には、その含み益に対して所得税が課されます。
韓国に日本と同様の制度が存在するかどうかは明らかではありませんが、相続税制の重さが富裕層の国外移動を後押ししている点は、日本にとっても他人事ではありません。
韓国は、世界の富裕層流出ランキングにおいて上位20位以内に入る国です。相続税制の見直しが進められているとはいえ、長年にわたり形成されてきた税負担への不満が、すぐに解消されるとは限りません。
今後、税制改正が富裕層の国外流出にどの程度歯止めをかけるのか、また国際的な人材・資本移動のなかでどのような政策対応が取られるのか、引き続き注視していく必要があるでしょう。
矢内 一好
国際課税研究所
首席研究員
