転勤について来てくれなかった恋人 その後、音信不通になり…自宅に押しかけて知った「秘密」
【前後編の後編/前編を読む】住所は知らない、いつも泊まっていかない彼女…プロポーズしたら「既婚者なの」 40歳男性はなぜ騙されてしまったのか
青野慎二さん(40歳・仮名=以下同)が紀代乃さんと出会ったのは、就職を機に上京した23歳の頃。慣れない渋谷のスクランブル交差点でぶつかり、怪我をさせてしまったことがきっかけだった。関係が深まって数ヶ月が経ち、慎二さんが「結婚しよう」と告げると、紀代乃さんは自分が7歳年上であること、結婚できない事情があると言い、涙を見せた。朝を迎える前に必ず姿を消し、クリスマスも「仕事」と言う彼女……。それでも慎二さんがあらためてプロポーズすると、紀代乃さんは「私、結婚しているんだ」と告げた。

【写真を見る】「夫が19歳女子大生と外泊報道」で離婚した女優、離婚の際「僕の財産は全部捧げる」と財産贈与した歌手など【「熟年離婚」した芸能人11人】
結婚しているという彼女の言葉に、慎二さんは頭がパニックになった。どうして、一度もそんなこと言わなかったじゃないか。向かい合って食事をしていたが、彼はいきなり立ち上がった。あまりにショックだったのだ。
「座ってと彼女に言われたけど、どうしたらいいかわからなくて。どういうことなんだよと立ったまま彼女を見下ろしました。彼女の髪が顔に影を作って、なんだかやつれて見えた」
彼女はようやく自分の状況を話し始めた。彼はそのほとんどを「あまりにつらくて覚えていない」というのだが、少しずつ思い出してくれた。
騙すつもりはなかった
紀代乃さんは結婚していて子どもがふたりいた。ただ、上の子には障害があって基本的には病院生活だった。夫は出張が多く、ほとんど頼りにならない。ただ、クリスマスから年末年始だけは家族らしく一緒にいることが多い。ふだん、下の子は同居している養母がめんどうをみてくれているという。養母というのだから、実母と紀代乃さんは何かあって生き別れたか死に別れたか。だがそこまで聞いている余裕はなかった。
「僕を騙したのかと言ったら、騙すつもりはなかった、と。でも僕は彼女が既婚者だと知っていればつきあわなかった。そう言ったら、『本当にそう?』と言われた。その言葉だけははっきりと覚えています。『たとえどんな状況でも私を愛してくれるんだと思ってた。あなたの愛はそんなものだったのね』って。今思えば詭弁です。だけどそのときの僕は、そう言われてうろたえてしまった。彼女のことが好きだからこのままでいいのか、いや、彼女と結婚したいのだからこれではよくない、なんだか頭がぐるぐるしてしまった」
彼女は立ち上がり、「ごめんね。でも私はあなたを本気で好きだった」と言って去っていった。追わなければと思いながら足が動かない。目は彼女を追いつつ、足がどうしても前に出なかった。
「なんというか……。ものすごい敗北感でした。彼女はいろいろなことを犠牲にしながら僕との時間を作ってくれていたんだと思う。でも離婚する気はないわけですよね。ただ、そういう状況の彼女を支えるべきじゃないのかと自問自答せざるを得なくて。のちのち友人にそんな話をしたら、『そりゃおまえが騙されただけだよ。若い男と恋愛ごっこしていたんだろ』と言われたけど、僕とつきあうことで彼女は息抜きをしていただけなのか、そんな軽い関係ではなかった。それは僕がいちばん知ってる。恋愛において、そこの覚悟において、僕は負けたという気がした」
それきり彼女は電話にも出なくなった。あまりに潔い去り方だっただけに、慎二さんには未練が残った。結婚しなくてもいい、今のままでいい、とにかく会いたいと留守番電話に残したが折り返されなかった。いつしか電話もブロックされていた。
「でも彼女は今でも僕のことが好きに決まっている。そんなふうに信じていました」
人の振り見て…
2年ほどたったころ、同業他社の男性がいきなり会社を辞めた。彼はその会社では期待されていただけに、彼を知っている人はみんな首を傾げていたという。慎二さんは、その男性とわりと親しかった。
「たまにだけど一緒に飲んだり、カラオケに行ったこともありました。彼は本当に仕事が好きだったから納得ができなくて、共通の知り合いに理由を聞いて回ったんです。噂の範疇は出ないけど、独身だと思っていた女性が実は既婚者で、彼は別れられずに彼女の自宅周りをうろうろしたりして警察を呼ばれたこともあったとか。それが問題となって退職したそうです。ひょっとして相手は紀代乃さんかもと思ったけど、それはわからなかった。ただ彼の行動は、僕が陥っていたかもしれない状況だったわけで……。なんだか身につまされました」
そこでようやく紀代乃さんへの未練を断ち切れた。彼は28歳になっていた。結婚でもするかと彼はそのとき思ったという。「結婚でも」というのは相手に失礼だとわかっていたが、「とりあえず人生を変えるために結婚するという選択肢もある」と考えたようだ。
「女性に夢や期待をもてなかったから、ごく普通の人なら誰でもいいと思ったんです。ところがこの“ごく普通の人”を探すのがむずかしかった」
彼自身、別にエリートでもないし、ごく普通の会社員だという意識があった。だから相手もごく普通の会社員で、共働きしながら子どもがひとりかふたりいて、という一般的な家庭像を描いていたのだが、そもそも「ごく普通の同世代」が見つからない。
「ビシバシ自分の意見を言う人がおもしろいなと思ってつきあってみるけど、僕の着ているものにまで文句を言ってくると、怖いから逃げたくなる。おとなしい人がいいかといえば、一緒にいてもつまらない。無意識のうちに、紀代乃さんのような人を探していたのかもしれません」
結婚はあきらめようと思った。もともとどうしても家庭を作りたいわけでもない。ひとりで自由に生きていくさと強がるようになった。
未練を断ち切れた出会い
だが37歳のとき知り合った3歳年上の秋奈さんが、彼のその決意を翻させた。年上に惹かれるのは、やはり紀代乃さんの影響力が残っているせいかもしれない。
「友人に誘われて行ったパーティで出会ったんです。友人が主催していたわけじゃなくて、僕は頭数合わせに駆り出されただけなんですが。友人は知り合いを見つけては話していたけど、僕は知り合いもいないし、適当なところで帰ろうかと考えていた。そのとき壁を背にしてひとりで飲んでいる女性が目に入って。話しかけたら、彼女も数合わせで来ただけだとわかったので、ふたりで出ましょうかということになったんです」
ろくに食事もしていなかったので、ふたりで近くの居酒屋へ行った。そこでの秋奈さんの健啖家ぶりが慎二さんの恋心に火をつけた。次々と頼んではきれいに食べ、「これ、おいしいですよ」と勧めてくれる。ときには店の人に作り方を聞いたりもしていた。慎二さんとの会話の流れを壊すことなく、さらりとそういうことをやってのけるのだ。
「料理も好きだと言ってましたね。僕はもともとそんなに大食ではないんですが、彼女と話していると、どんどん食べ物が気持ちよく体に入っていった。こういう女性も珍しいなあと思いました」
それをきっかけにつきあいが始まった。何度目かに会って「つきあいたい」と言ったとき、彼女は「私は離婚しているから。結婚を視野に入れるなら私とはつきあわないほうがいいと思う」と言った。
「もう結婚はこりごりと彼女は言いました。結婚と彼女、天秤にかけたら彼女とのつきあいを優先させたい。だから結婚なんて考えていないと言うしかなかった」
転勤を機にプロポーズすると…
ふたりはゆっくりと関係を熟成させていった。そして2年たち、彼に転勤の話が持ち上がったとき思い切ってプロポーズしたという。だが彼女は首を縦には振らなかった。
「どうしてなんだ、こんなにうまくいっているのにとつぶやいたら、『結婚はこりごりって言ったはずよ』って。そうだけど、僕は転勤になるんだよ、遠方だから週末ごとに帰ってくるわけにはいかない。秋奈と一緒にいたいんだと情に訴えたら、『月に1度でもいいじゃない、会えれば』と。納得はできなかったけど、別れたくはなかった」
悩んでいるうちに転勤の日が迫ってきた。転勤前の最後の週末を一緒に過ごす約束をしていたのに、秋奈さんは待ち合わせ場所に来なかった。連絡もとれなくなり、彼女の自宅へ行ってみたがその日も翌日もいなかった。
「そのまま僕は転勤しました。彼女からは連絡もないまま。携帯もつながらなくて、僕はとうとう聞いていた彼女の会社に連絡してみたんです。すると彼女は長期休暇をとっているという。何かあったのかと聞くと、個人的なことだから教えられないと」
2年もつきあっていたのに互いの友人を紹介するような機会はなかった。それでもなんとか彼女が今どこにいるのか知ることはできないか。彼は知恵を絞った。
「そういえば彼女、住んでいるマンションの隣近所とは親しいというようなことを言っていたのを思いだしたんです。会うのはだいたい僕の部屋だったけど、何度か彼女のところにも行ったことはあった。それで両隣の人に聞いてみようと張っていたら、親しい人が見つかりました」
嫌な予感…
彼女の母親世代の女性だった。彼女の仕事関係の方ですかと聞かれたので、仕事で知り合った友人だと答えると、「かわいそうにね。お子さんが病気になられて。あわてて実家に帰って行きましたよ」と言われた。
「とっさにだんなさんはどうされてるんですかねと聞くと、『ほら、彼女はずっとこっちで出稼ぎ状態だったでしょう。でもだんなさんはあちらで子どものめんどうをよく見ているようですよ』って。つまり彼女は結婚していて、ひとりで東京で仕事をしていたというわけなんです。そこにどんな事情があったのかはわからないけど……」
どうしてこういう目にあうのだろうと彼は言った。それきり秋奈さんとは連絡がとれていない。紀代乃さんのときと同じように、いや、それ以上にショックを受けたと慎二さんはため息をついた。それから1年弱、今年、彼は厄年なのだという。
「もうひとつくらい手痛い目にあうのかもしれませんね。なんだか女性運が悪いですよねえ。前世で何かしたんでしょうか」
前世なんて信じてないけどと、彼は力なく笑った。彼は徹頭徹尾、相手女性の悪口は言わなかった。ざっくりいうと、「とにかく、いい人」なのである。いい人だからこそ利用されてしまうのか、いい人だからこそ自分の欲求を通しきれないのか。もっと自分勝手に生きてみたら、何かが変わるのだろうか。
***
慎二さんが受けた、人生二度目の“裏切り”。騙され続ける己を恨んでいそうな素振りもうかがえるが、それも無理ない。最初の“被害”となった紀代乃さんとの出会いは【記事前編】で詳しく紹介している。
亀山早苗(かめやま・さなえ)
フリーライター。男女関係、特に不倫について20年以上取材を続け、『不倫の恋で苦しむ男たち』『夫の不倫で苦しむ妻たち』『人はなぜ不倫をするのか』『復讐手帖─愛が狂気に変わるとき─』など著書多数。
デイリー新潮編集部
