「マニュアル通りやれって言ったでしょ」…〈元年収1,300万円・63歳男性〉が、時給1,100円で怒られながらも清掃バイトを続ける“切実な事情”
高度経済成長やバブル経済を経験してきた世代の中には、「大企業で働き続ければ老後は安泰」と信じてきた人も少なくありません。しかし、実際には60代以降に“想定外の苦境”に直面するケースも増えています。かつて年収1,300万円を稼ぎ、都内の一等地に暮らしていた元エリートも、今は早朝の清掃バイトで怒鳴られながら働いています。そこには、老後の“想定外”と向き合う、切実な事情がありました。
「こんなはずじゃなかった」元部長のバイト生活
「マニュアル通りにやったつもりなんだけどな……」
都内の大型商業施設で、早朝から床のモップ掛けを終えた後、そうつぶやいたのは、清掃バイトとして勤務する63歳の高橋雄一さん(仮名)。大手メーカーで部長職まで務め、数年前までは年収1,300万円を超えていたといいます。
「50代のときは部下も20人近くいて、取引先との接待や出張で飛び回る毎日でした。でも、60歳で定年を迎えた後、再雇用の条件が合わず、そのまま退職。思っていた以上に“収入ゼロ”というのは厳しかったです」
退職金は2,500万円、企業年金も月10万円程度ありましたが、それでも足りませんでした。
「娘の結婚式、母の介護、相続手続き…。想定していなかった出費が次々と襲ってきて、貯金はあっという間に目減りしました。年金だけじゃ、家のローンも払いきれない。妻とも話し合って、とにかく働くしかない、という結論に至ったんです」
高橋さんは63歳で清掃バイトの求人に応募。時給1,100円、シフトは早朝5時から3時間。週5日勤務で月収は約6万6,000円。それでも「生活の足しにはなる」と話します。
しかし職場では、30代の社員から「マニュアル通りにやれって言ったでしょ」と怒鳴られることも。理不尽に思っても、ぐっとこらえる日々です。
「最初は“プライドが邪魔して”応募を迷っていました。でも、そんなこと言っていられない。家計を守るには、何でもやる覚悟が必要だったんです」
日本年金機構『令和6年度厚生年金保険・国民年金事業の概況』によれば、65歳以上の厚生年金受給者の平均月額は15万1,142円。夫婦2人の年金でも、住居費や医療費を含めると余裕のある生活とは言いがたい水準です。
「年金と企業年金、バイト代を合わせて月30万円弱。それでも物価が上がっている今では、安心できる金額ではありません」
老後を“生き抜く”覚悟
かつての肩書や年収は、今では何の役にも立ちません。それでも高橋さんは、週に一度、コーヒーを飲む小さな楽しみを心の支えにしています。
「老後って、定年後の“ごほうび”じゃなく、“第2の人生のスタート”なんだと実感しています。誰にも頼れないから、自分で立つしかない。怒られても、汗まみれでも、働けるうちは働きますよ」
日本では高齢化の進行とともに、“働く高齢者”の数も年々増加しています。総務省『労働力調査(2024年)』によると、65歳以上の就業者数は946万人と過去最多を更新。特に非正規雇用で働く高齢者の割合が高まっています。
「人生100年時代」といわれる今、老後を“支え合う”社会構造が求められる一方で、個人にも“想定外”に備える経済的・精神的な準備が欠かせません。
高橋さんのように「立ち上がる力」を持てるかどうか――それが、現代の高齢社会を生き抜く鍵なのかもしれません。

