(※写真はイメージです/PIXTA)

写真拡大

2026年度税制改正大綱が発表され、相続税の規制強化が明確になりました。これまで富裕層だけに課されていた相続税が、いまや普通の家庭にも及ぶ時代です。2024年には死亡者の10人に1人が課税対象となり、自宅や預金を守るために資産を取り崩す家庭も少なくありません。団塊世代の相続ピークを迎えるこれからの10年間、相続税は家庭の生活設計に直結する重要課題です。

相続税規制が強化

2026年度税制改正大綱では、富裕層を対象とした相続税・贈与税の規制がさらに強化されました。生前贈与や相続対策に対する制約が厳格化され、これまでとは異なる税負担の現実が浮き彫りになっています。

国税庁の2024年分の相続税課税状況によると、死亡者全体160万5,378人のうち16万6,730人が課税対象で、割合は10.4%に達しました。幼児や生活保護受給者も含まれることから、相続税は富裕層だけの問題ではなく、一般的な家庭にも影響を及ぼしています。標準世帯でも4,800万円を超える財産があれば相続税の納税義務が発生します。

相続税の本来の目的と現実の乖離

相続税は本来、超富裕層の富を社会全体に再分配し、富の偏在を是正することを目的としています。しかし現在の課税対象者の多くは、「再分配を求められるほどの富を持つ層」とは言い難いのが現状です。

2024年の相続財産総額は24兆5,415億円に達しました。内訳は現金・預貯金が8兆5,602億円、土地が7兆4,074億円、有価証券が4兆3,676億円、家屋が1兆1,901億円、その他が3兆162億円です。これにより課された相続税総額は3兆2,446億円で、過去最高を記録しました。

また、申告内容に疑義があり実地調査が行われた件数は9,512件で、追徴税額は824億円に上りました。

家計の金融資産と課税の背景

相続税負担増の背景には、宅地の路線価上昇や家計金融資産の増加があります。

日本銀行のデータでは、家計の金融資産残高は2,286兆円、そのうち預金は1,122兆円で全体の約半分を占めています。株式や投資信託、NISAなどへの分散は進んでいるものの、依然として預金が多く滞留しており、欧米と比べると異常な偏りとなっています。

一般家庭への影響

一般的なサラリーマン家庭でも相続税が課されるようになった背景には、相続が発生してから納税に至るまでの時間的制約と、資産構成の偏りがあります。

多くの場合、夫が亡くなって相続が始まる時点で、残された配偶者はすでに退職しているか、専業主婦として年金収入に頼る生活に入っています。相続財産の中心は、自宅の土地・建物と、長年にわたって積み上げてきた預貯金、そして生命保険金です。本人に資産家という意識がなくても、都市部を中心に自宅の評価額が上昇し、預金残高も一定額あるため、相続財産の評価額が4,800万円を超え、相続税の課税対象になるケースが珍しくありません。

相続税は、相続開始から10か月以内に現金で一括納付するのが原則です。自宅を売却せずに住み続けようとすれば、納税資金は預貯金や生命保険金に頼らざるを得ません。その結果、本来は老後の生活費や医療・介護費用として確保していた預金を取り崩し、相続税の支払いに充てることになります。相続が終わった後に残る収入は、ほぼ年金だけという状況で、手元資金が大きく減少してしまいます。

相続税は、亡くなった人の財産に課される税金でありながら、実際には「残された人の生活資金」を直接削る形で負担が生じます。自宅と預金を中心に、堅実に資産を築いてきた普通のサラリーマン家庭ほど、その影響を強く受ける構造になっているのが現実です。

昭和時代からの変化と課題

昭和の時代、相続税は裕福層だけに課される税金でした。しかし現在では、普通の家庭にも重くのしかかる税金に変わっています。来年度の税制改正でも、扶養控除や基礎控除に関する議論は注目される一方で、生活費に直結する高齢者や遺族への減税措置はほとんどありません。

今後の展望

今後10年間は団塊世代の相続がピークを迎えます。積み上がった家計金融資産の一部は相続税として国庫に納められ、昨年だけでも3兆円余りが徴収されました。こうした状況から、財務省が描く歳入計画に大きな狂いはないと考えられます。

奥村 眞吾
税理士法人奥村会計事務所
代表