シオンタウンのBGMを聴くとなぜ「怖い」と感じるのか? 元プロミュージシャンの音楽心理学者が解説
ポケモンのシオンタウンのBGMって『怖い』ですよね。
うまく説明することができないのですが、不気味というか……魂を揺さぶられるような、そんな感覚に襲われます。
これはなぜなのでしょうか。初代のポケットモンスター赤、緑の時はポケモン世界で唯一ポケモンの死について触れる街であり、お墓があった街だったからでしょうか。
しかし、それにしては、お墓がある、死に触れているという前提条件がなくともあの独特の音楽を聴くだけで『怖さ』を感じます。
こうした怖さを感じる音や音楽って考えてみると意外と身の回りにあると思いませんか?
例えば、雷が落ちたときの『ガシャーン』という音にはついついビクッとなりますし怖いとなります。
ライオンの吠える声からも『怖さ』を感じます。
テレビ番組の『夜にも奇妙な物語』の曲も聴くと、『怖い』と感じます。
こうしたメカニズムはなぜ起きているのでしょうか。
今回はこの謎を解明すべく、昭和女子大学で音楽が行動に及ぼす影響 や音楽が人の心理に与える影響について研究されている池上真平准教授にお話を伺ってきました!
なぜ、人は音や音楽から『怖い』という感情が生まれるのか。その謎に迫った約90分間のインタビュー!
トラウマ音楽はなぜトラウマ音楽として記憶に残るのかなどについて語られた本編をぜひ最後までお楽しみください!
取材・文/メカ泉
なぜ、人間は『音』や『音楽』から『恐怖』を感じるのか。
そのメカニズムについて端的に知りたい方はコチラ
■音楽を聴いて『怖い』と思うのはDNAに刻まれているから
ーー今回は音楽とホラーの関係性について聞きにやってきました! どうして人は音楽から『恐怖』という感情を覚えるのでしょうか。
池上:
すごく端的に言うと、私たちが周囲にある脅威をちゃんと見つけて、その脅威に対して素早く対処できるような仕組みが備わっているから。
って言えるんですけど、この説明だとさっぱりわからないですよね。

ーーさっぱりです(笑)。
池上:
初めから説明すると、心理学の有力な考え方の一つに、文化やこれまでの経験に左右されず、人間が生物学的に備えているとされる感情を『基本感情』と捉える理論があります。
そのうちの一つに恐怖、『fear』があります。
ーー喜怒哀楽みたいな感情群のことでしょうか。
池上:
そうですね。研究者によって違いはありますが、アメリカの心理学者ポール・エクマンが提唱したのが『喜び』、『怒り』、『驚き』、『嫌悪』、『悲しみ』、『恐れ』の6種類です。

感情には役目があるのですが、『恐怖』にはどんな役割があるかというと、自分に迫った脅威に対して素早く対処ができるようにしてくれるのが恐怖という感情と考えられています。
例えば、目の前に天敵が現れたとき、『怖い』という感情がなかったら、何も対処できずに立ったままになってやられてしまいます。
そのときに、『うわ、怖い』と恐怖という感情が起こることで、体にも生理的な変化が現れます。
『怖い!』となったときには、ドキドキっと心拍数が上がることが多いと思います。
心拍数が上がるという事は、体中に血液を送り出してくれているということなので、素早くぱっと逃げられるようになります。
脅威から回避することにつながるという意味で、恐怖はネガティブな感情ではあるんですが、生きていくうえですごく重要な感情が恐怖なんです。

ーーなるほど、戦ったり逃げたりするための準備を勝手に感情がやってくれるってことなんですね。なんだか猫の近くにキュウリを置いておくと、蛇と見間違えて驚いて逃げるのと似ていますね。
池上:
『恐怖』のスタート地点にはトリガー、きっかけが必要になってます。
何がトリガーになるかというと、感覚、いわゆる五感から取り入れた情報とか、自分が持っている記憶がトリガーになっています。
こうして恐怖という感情が起こります。
今の猫の例で言うと、視覚ですね。
視覚で天敵らしい、蛇っぽい形を見ることがトリガーになって『恐怖』という感情が起こっていると思います。
音の場合は鳴き声だったり、天敵の足音だったり悲鳴だったりがトリガーになります。
音楽から恐怖を感じるのもこのトリガーになっている要素があるからなんですね。

■不協和音は自然のなかにある怖い音に似ている
ーーメカニズム的な話だと、不協和音が人に恐怖を感じさせていると聞いたことがあるのですが、なぜ『不協和音』が人に恐怖や不安を想起させるのでしょうか。
池上:
音を構成する周波数が単純な比になっていると協和といって、『響きがいいね』と私たちは感じます。
逆に『不協和音』というのは、構成している周波数の比が複雑な比の音のことを指しています。
この不協和音をわれわれは『きれいな響きではない』と感じるんですが、先ほどちょっと話に出た『叫び声』とか、『断末魔みたいな声』も不協和音に近い特徴を持っています。
ーーお話をさえぎってしまうのですが、先ほどお話に出てきた『周波数の比』というのはどういう感じのものなのでしょうか。
池上:
はい、周波数というのは音が大気中を伝わっていくときにあるものです。
音が大気中を伝わっていくと、空気がぎゅっと詰まっているところと、すかすかになっている部分ができます。
これが波として伝わるんですが、海の波にもいろんな長さの波があるのと同じで、音も短い波から長い波まであります。

人間は大体20Hzから2万Hzぐらいまでの音を聴くことができるのですが、これはようは1秒間に20回振動する音から2万回振動するぐらいの音を捉えることができるという事です。
ここで少し専門的な話をすると、理論上、ただ一つの周波数だけで構成される最もシンプルな音を『純音』と呼びます。
ですが音楽も私たちの音声も一つの周波数からなっているわけではなく、いろんな周波数が重なって一つのまとまった音として聴かれていることが一般的です。
音楽で、よく『1オクターブ』高いって耳にするじゃないですか。
あれは音の周波数、振動する数が2倍になっている状態をいいます。
なので、『1オクターブ高い』というのは、音の振動数が倍になっていることを指しています。
1オクターブ違う音を鳴らす、例えば、オクターブ違いのドとドを鳴らすと、響きがきれいという感覚を得ることが多いです。
逆にさまざまな周波数の音をめちゃくちゃに鳴らすと、いろんな周波数の音がどっと溢れてしまい、構成する比が1対1のようなきれいな比ではなく、ものすごく複雑な比になります。
それを私たちは不協和音と感じています。

ーーいろんな音が混ざった、ごちゃごちゃした音が悲鳴だったり危険な時出す音に近しいために怖いと感じるということなのでしょうか。人間が作った音楽は、自然の中では聴くことのない音だと思うのですが、音楽から『恐怖』を感じるとはどういうことなのでしょうか。『不協和音』であったり『悲鳴』などから恐怖を感じるのと同じで、音楽の中にも『恐怖』を感じさせる要素が含まれているのでしょうか。
池上:
確かに森の中で人間の作った音楽が流れてくることはそうそうないと思います。
しかし、自然の中で聞こえる音と、音楽には共通点があります。

例えば急に『ドンッ』って大きな音がするときです。
音楽でも急に音がどっと大きくなるときがありますよね。
これって、自然界で起きるとしたら、雷が落ちたとか、何か大きな獣がやってきて吠えたとか、そういうことが起きたときだと思います。
このように考えたとき、自分の脅威になるものと出くわした時の音の特徴と、音楽に含まれている特徴が共通しているのではないでしょうか。
作られた音楽ではあるけれど、そこから『恐怖』を感じるというふうになるわけです。
また、叫び声のように音の強さや周波数が速いサイクルで変調していると、音の強さが強くなったり弱くなったり、高さが上がったり下がったりしていると『粗い』音色に聞こえます。
粗い音色は、人間に危機や警戒を喚起しやすいことが知られています。
『ぎゃー』という叫び声って粗い音色なんです。

こうした、音の変調が音楽の中に出てきても、危機のサインになります。
他にも音がだんだん大きくなる時も同じように危機を感じやすいんです。
例えば熊とかが『のっしのっしのっしのっし』と近づいてきてだんだん音が近づいてくるときくるとかがそうですよね。
今危険が近づいてきていて、とても怖い状況です。こうした音が危機のサインになります。
こうした、『恐らく脅威となり得るものが出す音』の特徴を音楽が持っていると『恐怖』を感じやすいです。

ーーなるほど。お話伺っていて、ホラー映画のテレビのノイズの音だったりとか、だんだん音が高まってって急に静かになるみたいな場面もそうだなと思いました。改めて考えてみると、恐怖を感じる仕組みっていうのはしっかりいろんなエンタメに使われているんですね。
池上:
おっしゃるとおりだと思います。作曲家の方が『恐怖』を伝えるための要素を意識的に使っているのかはまた別ですが、恐怖を感じる音の特徴をうまく曲という作品に落とし込んで、ホラー映画なら怖さをより増強してくれるような音楽を作っていると思います。
■音楽から怖さを感じるには『生まれながら』と『結びつき』の2種類がある
ーーということは、東日本大震災のときのACの『あいさつの魔法。』のポポポポーンみたいなCMとか、初代ポケモンのシオンタウンのBGMとか、ああいうのも怖さを増幅するために作られているという事なのでしょうか。
池上:
ここまではすごくざっくりと音楽でどのようにして『恐怖』をかき立てるかの仕組みをお話をしてきました。
しかし、実際には『恐怖』を感じさせるために伴うメカニズムはいくつかあると考えられています。

たとえば、恐怖に限らず私たちが音楽を聴くとさまざまな感情を体験すると思うんです。
そうなっている原因の一つが『反射』といって、先ほどお話した、大きな音がするとびっくりするようなこと。
これが反射ですが、これは人間に生まれながらにして備わっているメカニズムなんです。
一方で、後天的に、生まれたあとの経験に結びつくことによって生じる感情っていうのもがあります。
先ほどお話しされたシオンタウンのBGMは、テンテンテンテン、テンテンテンテンみたいに、不自然に高さがだんだん上がっていくのと、順番に音をあげたり下げたりする技法のアルペジオが混ざっていて、それが不協和音を生み出している感じになっているんです。
『歴代のシオンタウンBGM』
https://nico.ms/sm45396532?ref=thumb_watch
おそらく、叫び声みたいなちょっと不快感があって危機が迫っている生得的な面があるのではと思います。
一方で、ACの『ポポポポーン』というのは、このインタビューの前に何年ぶりかに聴いてみたんですが、音楽自体は単体で聞いてもそんなに怖くない。
むしろ、明るいと感じる方が多いと思います。
これは恐らく生得的というよりは、条件付けのようなものではないでしょうか。
恐怖を感じさせるようなものを見た後に、『ポポポポーン』を何度も何度も聴いたことで、単体では恐怖ではなかったものが恐怖を感じさせるものになっている。

具体的には震災の直後だったことで、報道で震災のときの映像や、さまざまな怖いなと思わせるようなものをテレビで見かけていたんだと思います。
そんなときにCMで『ポポポポーン』を何度も聴いたことで、音楽と恐怖という感情が結びついた。
要は学習してしまった結果なのかなと思います。
『ポポポポーン』に関しては経験との結びつきによって生じる恐怖なのかなと思います。
ーー先ほど出てきたアルペジオってどういうものなんでしょうか?
池上:
ド、ド、ド、ドって順番に1音ずつ鳴らす弾き方のことをアルペジオと言います。
ギターをされている方だとアルペジオ奏法って一般的にいわれていたりします。
シオンタウンはそのアルペジオと、マイナーコードのアルペジオと、ピューみたいな、ちょっとずつ上がっていくような音が重なっているんです。
和音単体だとそこまで響きは汚くならないんですけど、ピューっという音が合わさることで周波数比がところどころで複雑になっているんです。
そうした組み合わせが『怖い』という感情を作っているのかなと思います。
ーーつまり、シオンタウンは生まれながらに人間が怖がる音ってことなんですね。
池上:
そうですね。シオンタウンの場合は生まれながらのもの、生得的にも感じやすい特徴があります。
それにくわえて、ゲームをプレイしていると怖い街とあの音楽というのを何度も何度も経験していくうちに、初めて単体で音楽聞くときよりも怖いという感情と結びつくというのもあると思うんです。
一方で『ポポポポーン』には生得的『恐怖』を感じるところは見当たりません。
こちらは後天的な経験との結びつきによる怖さではないでしょうか。
ーーとなると、ドラクエの冒険の書が消えるときの『デロデロ』音はどっちになるんでしょうか。
『ぼうけんのしょはきえてしまいました』
https://youtu.be/gQf_QTsvXCU
池上:
デロデロ音は、結構怖いです。急にぼーんって大きい音が出てくるので。
急な音の大きさっていうのと、あと音色も鋭いです。
立ち上がりと言ったりするのですが、音の鳴り始めからピークになるまでが、『ぶわー』とだんだんと上がっていくのではなく、『ばーん』といきなり大きい音色なので、これは脅威を感じさせやすい『生得的』なほうに近いと思います。
くわえて、冒険の書はセーブデータですから、それが消えるとなると、プレイヤーからすると恐怖(笑)。
こちらも経験とも結びついていますね。この音楽と、データ消失をするっていう今までの積み重ねてきたプレイが消えてしまうというのが結びつくと、音楽そのものが『恐怖』になってしまうんですね。
ーーなるほど。実はもう一つ気になる音があって、ニンテンドー64の『星のカービィ64』の工場ステージの曲なんですが、子どもの頃聴いて以来、個人的にすごく怖いんです。この曲は生得的なのか、経験と紐づいた怖さなのかどちらでしょうか。
『【星のカービィ64】BGM こうじょうけんがく 【30分耐久】』
https://www.nicovideo.jp/watch/sm42791050
池上:
この曲は、怖いというか緊張感がある感じですね。
ーーゲーム内だと、このステージは攻撃にあたると一撃でやられちゃうステージなんです。そういうステージという刷り込みがあるから怖いのか。それとも生まれつきのほうの反射で怖いのか気になったんですよね。
池上:
なるほど。とても緊迫感があるステージなんですね。
となると、やられてしまう怖さと合わさってるのも大きいのかもしれません。
恐怖というのはとネガティブで、感情としては緊迫感ともわりと近いんです。
なので恐怖と結びついたのかもしれません。

ーー恐怖と緊張感が近いところにあるから恐怖に思えていたんですね。
池上:
はい、そうなると思います。
私はゲームはそんなに詳しいわけではないんですが、ぱっと思い浮かぶのはいくつかあって、そのうちの一つがダービースタリオンです。

このゲームの中で、馬が怪我をして競走中止をしてしまうイベントがあります。
これが、ただの怪我の場合にはそのまま問題なくゲームは進行するんですが……。
ーー予後不良ですね。
池上:
はい、この予後不良になったときに流れる音楽があって、音楽単体で聞くと、悲しい感じの曲調というだけなのですが、個人的には今まで一生懸命育ててきた馬が、命を落としてしまったという事なので、すごく恐怖というか怖いみたいな感じに私の中ではなりました。
『悲しみ』という感情もネガティブなもので、恐怖に近い感情なのでこのように感じているんだと思います。
『ダービースタリオン99 予後不良』
https://www.nicovideo.jp/watch/sm21253845
■『緊張』や『悲しみ』は『恐怖』と近いところにある感情
ーー緊張だったり悲しみという感情は恐怖と近いものだから。それが恐怖に結びつきやすいという事なのでしょうか。
池上:
私たちは生きる中でさまざまな感情を経験すると思います。
さきほど申し上げた『基本感情』という考え方は、感情それぞれはカテゴリが全く別々なものであり、悲しみという感情と怒りという感情はそれぞれ別にあるものだという前提に基づいています。
しかし、感情にはもう一つアプローチがあって、それを『次元的なアプローチ』といいます。

ーー次元的なアプローチとはどのようなものなのでしょうか?
池上:
次元は2次元、3次元とかの次元ですね。
私たちが経験する感情は二つの次元で大まかに表せるという考え方なんですが、その二つの次元というのが、『快』、『不快』というものと『覚醒度』です。
覚醒しているか、睡眠している状態かという、この二つの軸の組み合わせで表される考え方があります。
緊迫感は、覚醒的でネガティブなものといえると言えます。
恐れも同じようにネガティブで、どちらかというと、覚醒的な要素があると考えられます。
つまり、別の感情かもしれないけれども、次元で考えると割と近いところにあるために『緊張』や『悲しみ』を『恐怖』と認識するのではないでしょうか。
ーーということは、ここまでのお話の中で『怖い』と『体験』が結びついている、つまり、後天的に感じる『恐怖』は、パブロフの犬みたいな条件付けが起きているということなんでしょうか。
池上:
そうです。後天的と先ほどから申し上げていることは、まさにパブロフの犬みたいな条件づけが成立しているんです。
ーーそうなってくると、この恐怖との結びつきは実生活の中で活かされているんじゃないかなと思うのですがどうでしょうか。例えば、あの音がする、怖い! 逃げなきゃ! みたいなことに活用されているのでは。
池上:
されていると思います。
例えば、 踏切の音は日常の中で私たちが聞く音です。
あれはどういう音が緊迫感とか緊張感を与えるのかというのを利用して設計された音だと思います。

ーーふとした疑問なのですが、この恐怖と結びついてしまった音を克服することはできるのでしょうか。個人的に『エリーゼのために』がずっと怖くて。これ、どうすれば治るんですかね。
『時代を超えて想いを届ける【エリーゼのために】ベートーヴェン - クラシックピアノ - Classic piano -CANACANA』
https://youtu.be/GtK5n4qcuKw?si=v7iw3c3pyby-jJ_G
池上:
特定の音楽と特定のネガティブな感情が結びついてしまっている状態ですね。
この場合、その結びつきを自然に弱くするということはなかなか難しいですね。
ですが、克服するためには、例えば、その音とポジティブなことを新たに結びつけ直すという方法があります。
例えばおいしいご飯を食べているときにその音を聞くとか。
こうしたことを行うと、今度はネガティブなものとの結びつきではなく、ポジティブなものとのつながりが生まれます。
『エリーゼのために』って、多くの方は怖いとは感じない音楽だと思うんですよね。
それを怖いと思うようになったのって、おそらく何らかの経験があったのではないでしょうか?
ーーそうなんです! 子どもの頃、夏休みにやっていた『学校の怪談』スペシャルみたいなテレビ番組で、『エリーゼのために』を3回聞いたら死ぬというお話があったんです。それを見て以来何か怖くなっちゃって。タイミング悪く、当時の父親の目覚まし時計の音が『エリーゼのために』で、毎朝6時に鳴ってたんですよ。それがまあ怖かったんですね。
池上:
それはもう完全に結びついてますね(笑)。
克服するとなると、なかなか難しいかもしれませんが、たとえば、好きなことをするときに『エリーゼのために』を流せば克服することはできるかもしれません。
しかし、ものすごく繰り返さないと難しいと思います。
そのせいで、逆に好きなものが、怖い者のせいで結びついて今度怖くなっちゃったら嫌ですよね。

■『トラウマ』は子供のころのほうができやすい
ーーここまでお話ししてきた中で、心因性で怖いって思うものは経験からくるものだとわかりました。そこで思ったのが、トラウマになったり、恐怖症になるものって、子どもの頃にできるもののような気がしています。やはり年齢も関係しているのでしょうか。
池上:
これはあると思います。私たちの脳は生まれたときにもうでき上がっているわけではないためです。
脳には『可塑性』という性質があり、学習や経験によって脳内の神経回路が人生を通じて組み変わっていくんです。
なかでも幼少期は環境や体験による影響を敏感に受けやすいんです。
成長していく中で、『可塑性』と言って、だんだん脳の部位間のつながりができていって、完成するものなんです。
例えば、幼少期にすごい怖いシーンと、音楽が結びついたとします。
恐怖を感じる「扁桃体」という部位は比較的早く成熟しますが、その恐怖を抑えたり客観視したりする「前頭前野」の成熟はもっと長いんです。
子どもが恐怖と音楽を結びつけると、大人のように論理的に処理して解消することが難しいので、影響力は大きいと思いますね。
この時の影響力は大人になって、ある程度脳の経路ができてからよりも、子供の時の方が影響力が大きいと思いますね。
ーー確かにそうかもしれないです。個人的に『ロボコップ』の1作目がすごいトラウマになっていたので当てはまります。主人公がガンアクションするのが得意だったのに、序盤で手を吹き飛ばされてしまうシーンがあってだいぶトラウマになった時期がありました。ただ、最近見返したら、そんなに怖くなかったのはそういうことなんですね!

一同:
(笑)。
池上:
記憶の中でも無意識的な記憶というのがあります。
意識には上ってこないけれども、何か嫌だな、怖いなみたいなことは起こります。
言語的に自分では説明できないけど怖いもの、トラウマになっているものみたいなものは結構あるのではないかと思いますね。
ーーもう自分では忘れているけど、染みついてしまっている記憶のような感じでしょうか?
池上:
人にもよるとは思いますが、おおよそそのような感じではないでしょうか。
子どものときに怖いとなったものがずっと続いてきて、大人になってあらためて向き合ってみたらそんなに怖くないみたいな。
そういったことも起こると思いますね。
ーーまさに私の『ロボコップ』ですね!
一同:
(笑)。
ーー怖い以外でも成長の過程での経験で結びついているものもあるのでしょうか。例えば、学校のチャイムって、時間と時間を区切るというのがわれわれに結びついているような気がします。
池上:
結びついているという話ですと、ちょっと前にテレビ番組のインタビューを受けた際にボン・ジョヴィの『It’s My Life』と『ヤーッ』というのが結びついているという話をしましたね。
『Bon Jovi - It’s My Life (Official Music Video)』
https://youtu.be/vx2u5uUu3DE?si=jVxJsEDoZEQe49Ac
一同:
(笑)。
池上:
これも学習なんです。こうした特定の音となにかが紐づいている条件づけというのは本当にさまざまなところで起きている気がしますね。
ーー確かに。プロ野球選手の応援歌や登場曲もそうですよね。これから誰が来るという事に結びついています。音と感情の結びつきは恐怖以外でもいろんなとこで使われているんですね。
池上:
そうですね。ある特定の音とか音楽を、特定の場面で何度か経験することで結びつきができます。
そのため、特定の音や音楽を聞くだけで何かをしなきゃとか、特定の場面が思い浮かんだりということが起きているんですね。
ーーこの条件づけって日常生活の中でも、この音がしたら何かをしなきゃいけない、やらなきゃいけないみたいに自分に結びつけることはできたりしないのでしょうか。
池上:
目的次第では可能だと思います。
例えば、お部屋が汚くなりがちとかな人がいたとしたら、ある音楽を聞くと絶対やらなきゃいけない掃除の音楽にするとかですね。
あと、ちょっとズレてしまうかもですが、『別れのワルツ』という、『蛍の光』に似た曲があります。
この曲が聴こえると、誰もが閉店だと思ってしまうというのも『何かをしなきゃいけない』の条件づけかなと思いますね。
他にも何かに使えたらいいんですけどね(笑)。
『別れのワルツ 1956』
https://youtu.be/EgmxcF3zXHc?si=Yit8FXFcLYOjbeAR
ーー確かに! これ聞いたら本気で仕事しなきゃいけない、やる気モードになる音楽みたいなのがあったら便利です(笑)。ただ、条件付けができるにしてもここまで伺ってきたことから察するに、この条件付けも長い繰り返しが必要という事ですよね。
池上:
そのとおりですね。一回結びつきを作らなければならないので。
なので、やる気モードになれる条件付けをするならば、しばらくは特定の音楽を聞きながらものすごく一生懸命仕事をするという事をすればできるようになるかもしれませんね。
■『偏桃体』へ影響を与えることでさまざまな感情を感じられるようになる
ーー音つながりで話を戻してしまうのですが、『怖さ』を感じているとき、人間の脳はどういう状態になっているのでしょうか。個人レベルだと『エリーゼのために』を聴いている時って現状『ウっ』て感じになっています。
池上:
感情をつかさどる脳の部位で扁桃体があります。ここがさまざまな感情に関係しています。
音を聴いて、恐怖を感じているときはその扁桃体がとても活動しています。

ーーその時に音と言葉では感じ方は違ったりするのでしょうか。
池上:
音は言語音と非言語音を含めて、耳から入って聴覚野というところで分析されます。
場合によっては記憶と連結したりもします。
言葉、言語音の場合、私たちはそれを単なる音としてだけでなく、『意味』として解読するプロセスを必要とします。
多くの人の場合、脳の左半球が言葉の細かい意味や構造を分析することを主導しています。
『言葉の意味を理解して怖がる』というプロセスは、音への反射的な恐怖に比べると、より高度で意識に近い処理だと言えると思います。
ーー経路が違うと感じ方も変わるのでしょうか。
池上:
どうでしょうか……。例えば大きな音に対して怖いと思うのは、すごく迅速に、ぱっと意識を介さずに起きています。
直接的に扁桃体にばっと電気が通っていくものなのですが、言語音を処理すると、言語野を通ったり、さまざまな回り道をして扁桃体に届くことになります。
ちょっと遅くなり、反応自体も遅くなります。加えて言葉を聴いたときに内容を判断することになるので、意識を伴うようになるかなと思います。
無意識で即座に怖いというよりは、怖かった時の記憶を思い出して、『怖い』みたいになるはずなので、『意識的な怖さ』というものを感じるということはあるのかもしれません。

ーー『恐怖』の感じ方は、生得的な怖さのものと後天的の怖さのものに分かれているみたいな感じになるのでしょうか。
池上:
そうですね。そうなるのではないかと思っています。
ーーこの生得的か、後天的かという感じ方の違いは『怖い』以外の感情でも起きているのでしょうか。
池上:
起こっていますね。
驚きとかもそうですし、悲しさとかもそうです。
人が亡くなった時、その人がよく聴いていた音楽を聞くと、ある人は全然悲しくないのに、関わりが深かった人には悲しい音楽に聴こえます。
いずれにしても、いろいろな経路を通って感情をつかさどるところに信号が届いて、感情を体験するわけです。
ーーということは、テレビ番組で見ることのある『感動する音楽トップ10』みたいなのは、感情と結びついているから感動的に聴こえるということの方が多いのでしょうか。
池上:
『感動』は感情の中でもかなり強い体験です。
近年の研究で『感動する音楽の特徴は』というのもあるのですが、音の大きさの変化がだんだんと、『ぶわーっ』と大きくなっていくものがその傾向にあるとされています。
また、音楽を聴いて涙を流したくなったりだとか、鳥肌が立つみたいな、体に反応が現れる時も、感情体験の一つと捉えられています。
これも扁桃体や、脳の中にある報酬系という経路が、ご褒美に感じてしまうようなことが起きていると考えられます。

ーー偏桃体と報酬系の経路を震わせることができれば反射で感動させられるということなんですね。
池上:
そうですね。厳密には『反射』とは限りませんが、音楽が時に私たちの意識や理屈を飛び越えて、脳の報酬系や扁桃体といった原始的な感情回路を強力に揺さぶるのは間違いないと思います。
ーーここまでお話を伺ってきて思ったのですが、生得的に生まれる感情って、『恐怖』であったり、『悲しい』であったり、マイナスな感情のほうが多いのかなという印象があります。これは音で『怖さ』を感じてきた理由が、天敵などが出す音だったという事もあり遺伝子に沁みついているからなのでしょうか。
池上:
感情自体ネガティブよりの感情が多いというのもあるのですが、悲しみも、『悲しみ』という感情を経験するから二度と同じ経験をしないように対策を打とうと役立てられるという側面もあります。
『怒り』という感情も、自分が怒りを瞬時に表出できるから相手を威嚇できたり、怒りを向けられたときも、あの人は怒っているから、今はちょっと向かっていったらまずいなっていうふうに判断することができます。
自分を守るということにネガティブな感情は繋がっているんです。
一方でポジティブな感情も健康的にというか、生きていくうえでネガティブな感情と同様に重要です。
■反射的に生まれる感情は『ネガティブ』な要素が強い感情
ーーポジティブな感情にも、なにかの音を聴いただけで元気になるみたいな、そういう反射みたいな音というのも存在するのでしょうか。
池上:
う〜ん……反射はやはり、びっくりとか恐怖とか、緊迫感とか、生存に関わるものになると思います。

ーー負の感情のほうが反射に寄っているという事なんですね。ということは、応用みたいになりますが、音楽と元気になるイメージを結びつける事は可能なのでしょうか。
池上:
それは可能だと思います。
音楽で感情が起こるのは反射とか、条件づけというのもそうなのですが、『感情伝染』というプロセスも指摘されています。
音楽が表している感情がポジティブだと、聴いている人も感情が伝染してポジティブになるというメカニズムです。
他にも視覚的な話で、夕日とかきれいな景色見ると、すごいポジティブな気分になるというのは多くの方が経験すると思います。
しかしそれが景色ではなくて、すごく美しい音色の音楽を聴くという事でも同じことが起こります。
音楽が感情を喚起するには複数のメカニズムがあり、反射だったり、条件づけだったりするのですが、これにはいろんな経路があるということなんですね。
ーー今、お話の中で出てきた『感情伝染』というのは要は、音楽や音を聴いたとき、その感情が周りの人にも伝わっていく、みたいなことだと思うのですが、つまりDJみたいに、会場を盛り上げていくことが『感情伝染』ということになるのでしょうか。

池上:
それもまた一種の『感情伝染』になると思います。
集団で音楽を聞くということ自体が、みんなで同じ場を共有することで同じような感情を経験するっていうことになると思うので。
なので、DJの方がハッピーな音楽を流して、そのハッピーな感情に対して音楽のハッピーさが自分にも伝染します。
ほかの人もハッピーさを感じたら、それがまたその場の空気になって、また自分をハッピーにするみたいなことが起きていることが考えられます。
ーー音や音楽には恐怖以外でもこれだけ感情を動かす力があるんですね。
池上:
音や音楽についてはさまざまな研究されています。
音楽に込められた感情を知覚することもできるし、実際にその音楽を聴くことでいろんな感情を経験することができます。
私も研究で音楽を聴くことにどんな意味があるのか、メリットがあるのかという調査をしたことがあるのですが、その中で音楽を聴くということのメインとなる心理的機能というのが出てきました。
そのうちの一つが『感情調節』というもので、音楽を聴くことですごいリラックスしたりだとか、目が覚めたりとか、自分を奮い立たせたりと大きな機能があります。
あとは『慰め』と呼んでいるのですが、音楽を聴くことで悲しみを癒やすみたいな。
そんな力を持っているのかなと思いますね。広い意味で感情に働きかけるっていう力を持っているのが音であり、音楽だと思います。

ーー音楽ってそれこそ遠い昔からあるわけですが、昔の音楽にも感情を揺さぶる仕組みは入っているものなのでしょうか。
池上:
最近の研究でも、クラッシック音楽を使っている研究もありますし、おそらく入っていると考えられます。
今ほど学術的な知見はなかったのかもしれませんが、昔の音楽も、『曲にこういう特徴を持たせたら聴いている人がこういう気持ちになるのではないか』、というのを音楽家が考えて作っていたのだと思います。
これを哲学者とか作曲家とかが探究をしていたと思います。
探究は積み重ねられてきたけれども、それを研究という観点で科学的にやろうという機運が高まったのが19世紀末から20世紀初頭ぐらいです。
ここが音楽心理学の始まりと言われる時代です。
1930年ぐらいに音楽と感情の研究をした人がいて、現代でもたまに引用されるぐらい大きな研究なんですが、それが技術とかの進歩も相まって90年代にもっと科学的な方法で研究できるようになって、もっと伸びてきたという感じですね。
ーーこれは音楽心理学からちょっとはずれちゃうかもしれないんですけど、音楽って人間の歴史で言うとどのぐらいの時代からあったものなんでしょうか。『言葉より先に音楽はあった』なんて言われることもありますが。
池上:
論争で、『音楽は言葉をはじめとした聴覚のおまけなのか、それとも進化的にもっと本質的な意味があるのか』というのがあります。
石器時代の遺跡からも約4万年前の笛のようなものが見つかったりしていて、そこから少なくともこの時代に音楽があったのではないかと考えられてはいます。
また、『歌うネアンデルタール』という本があるのですが、ここでは言葉より前にネアンデルタール人は音楽的な、要は音の強さとかリズムとか、速さとか高さとかっていうのを使ってコミュニケーションをとっていたのではないかという説が提唱されています。

なので、言葉の前に音楽的なコミュニケーションがあったのではないか、という説を唱えている人もいます。音楽をどう解釈するかという定義はありますが。
他の研究でも言葉で感情を伝える研究というのも実施されています。
研究の中で言葉で感情を伝えるときの脳の働きと、音楽で感情を伝えようとするときの脳の働きを比較してみると、実は似通っているのではないかという研究結果もあります。なので、恐らくですが、言葉も音も共通の基盤を使っているのではないかと思っています。
■音楽心理学者も唸らせる映画『ジョーズ』の効果音
ーー言葉と音は近いもので、感情を揺さぶることに変わりはなく、それは太古の昔からだったというわけなんですね。次が最後の質問なのですが、今回は『音楽と恐怖』の関係性がテーマという事で、先生にとって一番怖い音楽と、そのエピソードを教えてください!
池上:
ダビスタの予後不良の時の音楽もそうなんですが、映画『ジョーズ』のサメが寄ってくるときの音もですね。
『デーデン』っていうやつです。あれ、最初はテンポが遅いじゃないですか。

それがだんだんと音も大きくなってくる。これによって、何かが近づいているっていうことを暗に感じさせるし、テンポも速くなる。
サメの動きも、最初はゆっくりだったのが、ぶわっと近づきながら速くなっているっていうのが『恐怖』を抱かせるのに秀逸だなと感じさせられています。
まさに『怖い』を感じさせる曲ですよね。
これは恐怖を感じさせるっていうよりは、音楽の中に恐怖が含まれている演奏っていうんですかね。
あるいは恐怖を表している演奏に出てくる特徴でしょうか。テンポの変動が大きい部分なので。
ーー低い音が、デーデン、デーデンって続いていって。デンデンデンデンデンデンってだんだん速くなっていく部分が怖さを生み出しているのでしょうか。
池上:
そうですね。普通じゃない、通常時だとないような音っていうのがやっぱり危険のサインに結びついていると思うので。
初めて聞く音楽が怖いとかではないんですが、音には、ある程度のパターンがあります。
音が大きくなったり小さくなったりして不規則になるとパターンが崩されます。こうした通常だとあり得ない特徴があると、脅威と結びつけられやすいです。
ーーその法則に合致しているかまでは自身がありませんが一曲気になる曲がありました。FF7の『片翼の天使』という曲なのですが。
『【Video Soundtrack】片翼の天使(ファイナルファンタジーVII)』
https://youtu.be/IYMTzLxGv3M?si=8-xWFNaKaLim1gQa
池上:
ゲームはほとんどダビスタしか通ってないので初めて聴きました。
大部分は敵に向かっていくみたいな、行進してるみたいな、敵が自分を攻めてくるぞみたいな感じの音楽ですね。
ただ、『ピーユ ピーユ』の部分は不協和音なので、そのあたり怖いかもしれないです。
加えて個人差が結構大きそうだなと思いますね。
敵に対して、向かっていくのが『やってやる!』ってなる人と、『戦いはいいです』ってなる人がいると思うんですよね。
戦いはいいですってなる人はより怖いのほうに振れるのかなと個人的には感じました。
ーー感じ方にも当然ですが個人差があるんですね。
池上:
ゲーム音楽で怖いで行くと、もう一つありました。『スーパーマリオワールド』のお城の音楽です。
これは子どものころ怖いと思った経験がそのまま結びついて『怖い』となった音楽です。
今回のインタビューの前に久しぶりに曲を聞いたら、やはり大人になったのか、もう子どものときほどは怖くはなくなっていました。
子どものときなぜ怖かったかって、やっぱりシーンが大きかったと思うんですよね。おそらく暗いところで敵が出てくるのが怖かったと思うんです。
『【名曲解剖】お城BGM【スーパーマリオワールド】』
https://www.nicovideo.jp/watch/sm42057369
ーースーパーマリオワールドのほうはまさに今日お話しいただいた『向き合ってみたら怖くなかった』ですね(笑)
一同 :
(笑)。
人はなぜ音や音楽から恐怖を感じるのか。そのメカニズムに迫った今回のインタビュー。
恐怖の感じ方にしても、生まれつきで怖いと感じるものと、経験と結びついて怖いと感じるものの二種類があることがわかりました。
結びつきで怖いと感じているものは、子供のころの経験でそうなっているのだとしたら、成長した後に見たり、聴いたり、向き合ってみると怖くなくなっているのかもしれません。
しかし、生まれながらに『怖い』と感じる、大きな音や不協和音は『怖い』と思わなかくなってしまったら危険ですね……。
爆発音だったり、熊の唸り声だったり、雷が落ちる音だったり…etc
生まれながら怖いと思うものについてはそのまま『怖い』と思えることのほうが生きていくためには重要なようです。
人はなぜ音や音楽から恐怖を感じるのか。このメカニズムについて誰かに話して『トラウマ』の共有をしてみてはいかがでしょうか。
■インフォメーション
なぜ人間は『音』や『音楽』から『恐怖』を感じるのかがわかった後は、実際に『音』や『音楽』を意識しながらホラー映画を見てみましょう!
開始時間は12/24 21:00です。
『【聖夜はゾンビ】ナイト・オブ・ザ・リビングデッド【ニコニコ無声映画・特別編】』
https://live.nicovideo.jp/watch/lv349470573
記事の要約
なぜ音楽を「怖い」と感じるのか? 2つのメカニズム
池上先生の解説によると、人が音に対して抱く「恐怖」は大きく以下の2種類に分けられます。
1. 生まれつき備わっている恐怖(本能的・反射的)
文化や経験に関係なく、生物として「命を守るため」に備わっている防衛本能です。脳の扁桃体へダイレクトに作用し、戦うか逃げるかの準備(心拍数上昇など)をさせます。
不協和音: 音の周波数の比率が複雑な音。「悲鳴」や「断末魔」に近い成分を含んでおり、本能的に危険を察知させます。
粗い音色: ガサガサとしたノイズや、急激に変化する音。
急な大きな音・近づいてくる音: 「雷」や「捕食者の接近」を連想させ、反射的にビクッとさせます(映画『ジョーズ』のテーマなどが典型例)。
2. 経験と結びついた恐怖(後天的・学習)
「パブロフの犬」のような条件付けによって生まれる恐怖です。
音そのものに罪はなくても、過去の怖い体験とリンクすることで恐怖の対象になります。
ACの「ポポポポーン」: 震災時の不安な映像とともに繰り返し流れたため、恐怖と結びついてしまった。
ドラクエの「冒険の書が消える音」: 「努力の喪失」という絶望的な経験と強烈に結びついている。
ゲームオーバー音: 「失敗」「死」というネガティブな結果の象徴として学習される。
具体的な事例の正体
記事内で挙げられた「怖い音」の正体は、以下のように分析されています。
音・音楽分類怖さの正体シオンタウンのBGM本能 + 学習不自然な音階の上がり方や不協和音(悲鳴に近い成分)が含まれる本能的な怖さに加え、ゲーム内の「死」や「お墓」という文脈が学習されて強化されている。AC (ポポポポーン)学習曲自体は明るいが、震災報道という恐怖体験とセットで記憶された条件付けの結果。ドラクエ (データ消失)本能 + 学習いきなり大きな音が鳴る(本能)+ データ喪失の絶望感(学習)。映画『ジョーズ』本能徐々に音が大きく、テンポが速くなることで「捕食者が近づいてくる」という生命の危機を擬似体験させている。なぜ子供の頃の音楽が「トラウマ」になりやすいのか?
扁桃体(恐怖を感じる部位): 比較的早く成熟する。
前頭前野(理性を司り、恐怖を抑える部位): 成熟が遅い。
子供は「怖い!」と感じる力は一人前なのに、それを「これはただの音楽だ」「安全だ」と理性で抑え込む力が未発達です。
そのため、強烈な恐怖として脳に刻み込まれやすく、大人になっても「理屈抜きで怖い」という感覚が残りやすいのです。
結論:音楽は「生存本能」をハックしている
音楽が怖いのは、「天敵が来た!」「逃げろ!」という太古の昔からある生存本能のスイッチを、音の成分が誤作動させているからと言えます。
逆に言えば、ホラー映画やゲームの作曲家たちは、この「脳のバグ」を意図的に引き起こす天才だということですね。
シオンタウンの曲が怖いのは、私たちが正常な生存本能を持っている証拠とも言えそうです。
