地元・福岡で3回目の「L_Game & L_Camp」を開催したベンドラメ礼生【写真提供:L_Game】

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「L_Game & L_Camp」主催・ベンドラメ礼生インタビュー前編

 プロバスケットボール選手、ベンドラメ礼生(サンロッカーズ渋谷)が企画・主催するバスケットボール大会「L_Game & L_Camp(エル・ゲーム&エル・キャンプ)」。今年で3回目を迎え、7月12日、13日の2日間、ベンドラメの出身地・福岡県の筑穂体育館で開催された。インタビュー前編では、怒ることを禁止した大会を開催する真意を聞いた。(取材・文=牧野 豊)

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 人懐っこい表情、落ち着いた口調の言葉からは、優しさと力強さが心地よく伝わってくる――。思いを込めて打ち込んでいる証しなのだろう。

 彼がこの大会を立ち上げたのは、2021年の東京五輪で自身の日本代表活動に区切りがついたことがきっかけだった。それまで代表活動に費やしてきた夏場に生まれた空き時間を「もったいない」と感じ、ならば地元福岡を盛り上げ、将来のプロ選手を輩出できるような大会にしたいという思いが自然と湧いてきたという。

 大会は、初日がU12(小学生)8チーム、2日目はU15(中学生)7チームの総勢300名が参加。選手たちはカラフルに色分けされた大会オリジナルのTシャツを身にまとい、コート上を駆け巡る。

 大会のコンセプトは、「考える力を育てる大会」。大きな視点で言えば、子どもたちが自ら考え、それを言語化し、バスケットボール選手としてだけでなく、社会で活躍できる人間として成長するきっかけの場となることだ。

 そうした環境づくりのために、この大会の象徴とも言うべき、独自ルールが設けられている。大会公式SNSの一文目に記している「指導者が選手を怒ることを禁止しています」というものだ。

「選手たちにちゃんと道しるべを示したうえで厳しく接することが指導」

「厳しさ」を否定しているわけではない。「厳しさはむしろ必要なこと」とベンドラメは前置きしつつ、その真意を説明する。

「一方的に大人が怒りを子どもにぶつけるのは指導じゃない。選手たちにちゃんと道しるべを示したうえで厳しく接することが指導だと、僕は考えています」

 感情的な怒りと建設的な厳しさを明確に区別することで、指導者と選手の双方向の関係づくりを促す狙いがある。

「指導者と選手の間には信頼関係が不可欠です。特に小中学生年代の選手は、感情的に怒られてしまうと、心を閉ざしてしまうもの。そのため、指導者にはただ怒るのではなく、『こういう答えにたどり着いてほしいから、今、この言葉を強く君にぶつけているんだよ』という意図が伝わる指導が必要です。

 だから指導者の方には、感情的になる一歩手前で立ち止まり、客観的に状況を分析し、物事を冷静に、俯瞰的に見つつ、子どもたちと同じ目線で接する意識を持ってほしいという思いがあります」

 そのうえで、指導者にはもう一つ、ルールとしてお願いしていることがある。

「タイムアウトの際には、選手同士が話す機会を作ってほしいと伝えています。選手たちは、『何が良くて何が悪かったのか』『次はどうすべきか』を話し合うことで、自ら考える力を養うことができると思うからです。大会の回数を重ねるうちに、考えるゲーム、考えるアスリートを育てたいというコンセプトが、より強くなってきました」

 実際、開会式では、指導者に対して「ただ怒るだけなら、それは自分の力量のなさを露呈しているだけ」、選手たちには「ミスを恐れずにチャレンジしてほしい」とキャンプの意図をはっきりと言葉にして伝える。

 それでも指導者が感情的になってしまったときには、「僕がテクニカルファウルを取る」(ベンドラメ)というルールを設けているが、幸い、これまでコールしたことはないとのこと。

 ただ、「怒ってはいけない」ルールは子どもたちにも浸透しており、指導者が熱くなりそうなとき、「ベンチに座っている選手が、僕にめっちゃ、(コーチが怒っていることを)アピールしてきたりもするので面白いです」と楽しそうに語る。一方で、熱くなり始めた監督にベンドラメが近づくだけで、言葉を工夫しようとする姿が見られるという。

「一歩我慢している姿が見られるだけでも、大きな変化になると思います」

愛情と厳しさをあわせ持っていた恩師「指導者の理想であってほしい」

 ベンドラメ自身は小学生時代から今まで、一方的に怒られてつらい経験をしたことはなかった。指導を受けてきた監督はみな厳しかったが、そこには選手への愛情を感じ取れたし、自身もその厳しさを糧として乗り越えてきたと振り返る。一方で、他チームやニュース等で伝聞してきたことで、「みんながみんな、そうじゃないという部分も見てきた」と語る。誰もが自分と同じ境遇ではないという配慮が、大会の独自ルールに反映されているのだろう。

 現役のBリーガーであるベンドラメが、なぜそのような俯瞰した視点で考えられるのか。

「幼少期から、人の表情に出る感情を読み取る習慣が身についていたと思います。自分は気にならないけど、この人は気になるだろうな、とか」

 彼の鋭敏な人間観察力が、「怒らないことの効用」「怒られたときに人はどう思うのか」といった視点を養ってきたのかもしれない。

 そんななか、ベンドラメが特に影響を受けたのが東海大学時代の恩師、陸川章・前監督である。これまでBリーガーや日本代表となる数多の選手を育成してきた陸川前監督について、ベンドラメは「感情的に怒ったところは見たことがない」と振り返り、愛情に満ちたポジティブな声かけのなかに厳しさがある指導で、チームを強くしてきた手腕に敬意を示す。

「そうした陸さん(陸川前監督)の姿勢が、僕は指導者の理想であってほしいと思っています」

 大人が感情的になりがちな傾向について、ベンドラメは「頭ごなしに怒る人って自分が一番だと思って、自分の知見だけで正解と決め、選手を怒ってしまうのでは」と分析。そのうえで、「強い口調でも少しでも前向きな内容の声掛けをしたり、『だからこうした方がいいんだよ』という言葉が追加されるか否かだけで全然違う」と、大人の言葉の添え方一つで、子どもたちの成長度が変わってくると確信している。

■ベンドラメ 礼生 / Leo Vendrame

 1993年11月14日生まれ。福岡県筑紫野市出身。ポジションはポイントガード兼シューティングガード。筑紫野中(福岡)―延岡学園高(宮崎)―東海大―日立サンロッカーズ東京/サンロッカーズ渋谷。高校3年時には、主力として高校3冠を達成。東海大4年時にBリーグ開幕前年の日立サンロッカーズ東京(現・サンロッカーズ渋谷)にアーリーエントリー選手として入団。Bリーグの初代最優秀新人賞(2016-17シーズン)などを受賞しており、また史上2人目となるB1通算500試合出場、史上初の400試合連続出場を達成した。連続試合出場記録は今季終了時点で424試合まで継続中。日本代表として2021年東京五輪出場を果たしている。

(牧野 豊 / Yutaka Makino)

牧野 豊
1970年、東京・神田生まれ。上智大卒業後、ベースボール・マガジン社に入社。複数の専門誌に携わった後、「NBA新世紀」「スイミング・マガジン」「陸上競技マガジン」等5誌の編集長を歴任。NFLスーパーボウル、NBAファイナル、アジア大会、各競技の世界選手権のほか、2012年ロンドン、21年東京と夏季五輪2大会を現地取材。22年9月に退社し、現在はフリーランスのスポーツ専門編集者&ライターとして活動中。