カキが旨い季節である。衣はカリッと身はジューシーなカキフライ、セリがたっぷり入ったカキ鍋、炊きたてのカキご飯。茹でたカキに甘味噌をつけて焼くカキ田楽もオツだ。カキ漁師は、海で採れたてのカキの殻からナイフで身を剥いて、海で洗ってそのまま生で食べるのが好みだという。レモンをちょいと絞ればなおさらよい。うーん、旨い!

そんなカキ漁師の旅の本が出版された。『カキじいさん、世界へ行く!』には、三陸の気仙沼湾のカキ養殖業・畠山重篤さんの海外遍歴が記されている。畠山さんは「カキ養殖には、海にそそぐ川の上流の森が豊かであることが必須」と、山に植林する活動への取り組みでも知られている。

「カキをもっと知りたい!」と願う畠山さんは不思議な縁に引き寄せられるように海外へ出かけていく。フランス、スペイン、アメリカ、中国、オーストラリア、ロシア……。世界中の国々がこんなにもカキに魅せられていることに驚く。そして、それぞれの国のカキの食べ方も垂涎だ。

これからあなたをカキの世界へ誘おう。連載13回目は、中国広東省深センの「カキの村」を訪ねるにいたったいきさつを語る。どんな胸躍る出会いがあるのだろうか。

春節のごちそう「干しガキのホウシーファッチョイ」

わたしは、実は中国生まれです。わたしの父は宮城県気仙沼生まれですが、若いころ、上海でサラリーマンをしていました。船会社に勤めていて、揚子江上流の重慶で産出される鉄鉱石を、九州の八幡製鉄所に運ぶ仕事をしていました。

気仙沼の農家に生まれた母と見合い結婚をし、わたしは上海から少し上流の蕪湖で生まれました。中国といえば中華料理。中でも中国南部の広東料理の味を支えているのがオイスターソースです。カキのむき身を煮詰めて作ります。野菜でも肉でも、オイスターソースをからめて炒めればおいしい一品ができあがりです。

中学から高校のころ、夏ガキといって、5月になると地元の水産加工屋さんからむき身の注文があったのを思い出します。このころ、もっとも身が太っているので、一度煮て、むしろにならべて乾かすのです。煮汁は煮詰めてオイスターソースに加工されます。

気仙沼はサメの水揚げが日本一で、フカヒレの産地として有名です。隣の岩手県は、日本一のアワビの産地です。このあたりのアワビは干しアワビになります。中華料理に使う干物の産地として、江戸時代から続く歴史があります。

1月末、中国は旧正月の春節です。タイトルの「ホウシーファッチョイ」は旧正月のごちそうの名前です。

「ホウシー」は干しガキを意味します。「ファッチョイ」は黒い髪の毛のような中華食材のことです。料理の名前が、商売繁盛を意味する「好市発財(ホウシーファッチョイ)」と似た発音なので、縁起物として旧正月に食べられるのです。

しばらく前ですが、友人と神奈川・横浜の中華街を訪れたことがあります。何回も練習して「ホウシーファッチョイ」と注文しました。プーンと乾物の匂いがします。カキを取り囲むようにファッチョイがからまっています。かたくり粉でとろみがついています。ファッチョイに味がしみて、そのおいしいこと。

ホウシーはおいしいだけでなく、漢方薬にもなっているそうです。娘が結婚するとき、広東地方のお母さんは嫁入り道具の中にホウシーを持たせてあげたそうです。

…つづく「やっぱり日本人は凄かった…カキじいさんが、中国「カキの村」で漏らした「感動の一言」」では、カキじいさんが中国の深センに渡った2005年の話にさかのぼります。

『カキじいさん、世界へ行く!』連載はこちら

連載『カキじいさん、世界へ行く!』第13回
構成/高木香織

●プロフィール
畠山重篤(はたけやま・しげあつ)
1943年、中国・上海生まれ。宮城県でカキ・ホタテの養殖業を営む。「牡蠣の森を慕う会」代表。1989年より「海は森の恋人」を合い言葉に植林活動を続ける。一方、子どもたちを海に招き、体験学習を行っている。『漁師さんの森づくり』(講談社)で小学館児童出版文化賞・産経児童出版文化賞JR賞、『日本〈汽水〉紀行』(文藝春秋)で日本エッセイスト・クラブ賞、『鉄は魔法つかい:命と地球をはぐくむ「鉄」物語』(小学館)で産経児童出版文化賞産経新聞社賞を受賞。その他の著書に『森は海の恋人』(北斗出版)、『リアスの海辺から』『牡蠣礼讃』(ともに文藝春秋)などがある。