就業時間後に行われる「会社の忘年会」は法律上どう扱われるのか。社労士の桐生由紀さんは「上司や会社に参加を実質強制されている場合は『業務』として扱われる可能性が高い。『飲み会だから給料は発生しない』というのは違法だ」という――。
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■「飲み会は仕事ではない」とは言い切れない

「気を使う上司と飲みたくない」「お酌が苦手」「一発芸をやりたくない」

そんな憂鬱(ゆううつ)な声が聞こえてくる忘年会シーズンの12月。参加したくない人からすると忘年会は過酷な仕事ですよね。

「残業代が出ないなら忘年会には出ません」

一度言ってみたいと心の中で思っている人も多いでしょう。

楽しみにしている社員がいる一方、断れない雰囲気や仕事上の不利益を気にして仕方なく参加している人も多い忘年会。そういう人からすると就業時間後に行われる忘年会は残業代がつかない時間外労働みたいなもの。これでは残業代の有無が気になっても仕方ないですよね。

とはいえ「飲み会は仕事じゃないでしょ?」と思う人も多いでしょう。ただ、実際は強制参加の飲み会が「仕事ではない」とは言い切れないのです。

今回は、雇用の専門家である社労士の立場から、飲み会に関わる残業代の発生条件やその対策ついて法的な論点から考えたいと思います。

■忘年会の時間は「労働時間」か

忘年会の残業代を支払わなければならないかどうかは、忘年会の時間が「労働時間」といえるか否かで決まります。

では、労働時間とはどのような時間なのでしょうか?

労働基準法で定められている労働時間は、勤務開始から勤務終了までの時間から休憩時間を差し引いた時間のことで、労働者が会社の「指揮命令下」に置かれている時間です。

指揮命令下とは、ある行為を行うことを会社から義務付けられている状態、または行うことを余儀なくされている状態をさします。

指揮命令下に置かれているか否かの判断ポイントは3つです。

? 会社からの業務命令で行動している
? 業務との関連性や必要性
? 場所的・時間的拘束

注意したいのは、?の「業務命令」には黙示の命令も含まれるということです。

■業務命令には「黙示の命令」も含まれる

例えば、会社からは指示がなかったものの、残業せざるを得ない状況に置かれて自主的に仕事をする、または管理職が残業を黙認している場合は、黙示の業務命令があったと判断されやすいです。

そのため、実際にタイムカードを打刻した時間以外でも会社から命じられた(黙示の命令を含む)業務を行っている場合は労働時間になる可能性があります。

忘年会の時間が労働時間にあたるには、忘年会の時間が指揮命令下におかれていると判断される必要があるのです。

では、忘年会が「指揮命令下に置かれている」=「仕事」と判断できるのはどのような場合でしょうか。

忘年会が「仕事」になるかどうかは、下記がポイントになります。

・参加が強制されている
・会の目的と仕事との関連性が強い
・参加しないことに対する不利益がある
・参加費用を会社が負担している

これらに当てはまる要素が多いほど、労働時間として判断される可能性が高くなります。

■店の手配などの幹事業務は「仕事」

例えば、下記のような場合は基準に当てはまる可能性が高いです。

・会社が会場を指定している
・お酒を飲みながら会社の業績発表を行う
・必ず出席するようにと通達されている
・正当な理由がないと欠席は認めない
・欠勤すると人事評価上の不利益がある

また、幹事は仕事として判断されやすいです。

会社から幹事を任されている人は、幹事をやることが会社からの業務命令と考えることができるからです。

例えば、忘年会準備のために店の手配をしたり、余興の練習をしたりするケースでも会社が命じたのであれば、社員とっては事実上強制参加となり店の手配や余興の準備時間も含めて仕事になります。

忘年会が仕事と判断されると、忘年会の時間は労働時間になり残業代の支給対象となります。

■接待ゴルフや社員旅行も内容によっては「労働」

また、飲み会以外でも労働時間として認められる可能性がある行事は複数あります。

●接待ゴルフや接待会食

会社がゴルフや接待への参加を強制していて接待の場で業務の打ち合わせや契約を行うことを主目的としている場合は、営業行為のひとつとして労働時間として認められる可能性があります。

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●社員旅行

休日の社員旅行は強制参加であれば労働時間になる可能性があります。

全員参加のいわゆる合宿といわれるようなものでも、研修や社内会議を兼ねている場合は労働時間になります。社員旅行の行先で「何をするか」が重要なポイントになります。

こういった会社行事や飲み会が労働時間にあたるか否かは、法的に明確なルールがあるわけではありません。

「業務として参加を命じたかどうか」が労働時間として認められる上で大事な分かれ道になります。

■強制参加の忘年会は「会社負担」が無難

会社の忘年会なのに会費が自己負担なのは納得がいかないという人も多いと思います。

本来、忘年会の会費は会社が負担するべきものなのでしょうか。

忘年会の会費を会社が負担すべきか、個人負担すべきかに明確な決まりはありません。

また、忘年会会場までの交通費についても会社負担か個人負担かに決まりはありません。

ただ、会社の公式行事として実施され、社員が全員出席することが前提となっている忘年会は、当然労働時間として実施すべきですので会費も会社が負担するのが望ましいです。

仕事の一環として強制参加の忘年会を実施する場合は、就業規則等に飲み会に関するルールを明記しておくと無用なトラブルを防げます。

会費の負担、移動が伴う場合の交通費負担などを整理しておくと良いでしょう。

注意すべきなのが、会社から会費や交通費などの支給があるという理由だけで忘年会が仕事だと判断されるのではありません。仕事かどうかはあくまで忘年会の内容等を総合的に判断して行うことになります。

■建前だけの自由参加は「強制参加=労働」とみなされる

参加を強制された忘年会は労働時間として認められる可能性が高くなります。

ただ、表向きは「自由参加」と言いながら、現実的には断ることが不可能な場合も多いですよね。

強制参加には「必ず参加してください」と命令する以外にも、形式的には自由参加の体裁をとっておきながら、不参加の人を不利に扱うような間接的な強制もあります。

表向きは「自由参加」と言われていても

・参加しないと叱責されるなどのパワハラを受ける
・参加しないと陰口を言われるなど職場に居づらくなる
・参加しないと賞与の査定に影響したり、協調性がない人と評価される
・参加しないと「みんな参加してるんだから」といわれる
・幹事を命じられ欠席できない。

こういった場合は、自由参加としていても「断る自由がない」とみなされ事実上の強制参加にあたります。

間接的な強制と受け取られないように、普段のコミュニケーションで会社から従業員に対して「参加しなければならない」と感じさせる言動や対応をしないように注意が必要です。

■ただの「飲み会」は労働時間とは認められにくい

前述したとおり、忘年会が労働時間として認められるためには、忘年会が「指揮命令下に置かれている」=「労働」と判断される必要があります。

ただ、会社の飲み会や私的な飲み会が、労働時間と認められるケースは極めて少ないのが実情です。

飲み会が「労働時間」であるか否かが争点となった判例は複数あります。

●飲み会が「労働時間」と認められなかったケース

飲み会が「労働時間」と認められなかったケースが、東芝エンジニアリング事件です。

出張先で送別会に参加後、川で溺死した男性の遺族が男性の死は労災であるとして遺族補償一時金及び葬祭料の支給を求めた裁判です(東京地判平11・8・9)。

この送別会は同じ職場の従業員が有志で企画したもので参加は自由でした。会費も自己負担で行われました。送別会自体も幹事が開会の挨拶をした後は閉会の挨拶もなく流れ解散で終了しました。

このような開催の経緯や状況からして、送別会の参加は業務ではないと判断され労災は下りませんでした。

この判例で飲み会の時間=労働時間ではないとなった理由は以下の4点です。

・会社が主催ではなく従業員が有志で企画したもの
・参加費用が個人負担
・自由参加であった
・閉会の挨拶等がなく流れ解散

従業員が幹事で会費も自己負担、自由参加、こういった飲み会は労働時間として認められる可能性は極めて低いでしょう。

■仕事の立場上欠席が困難な飲み会は「労働時間」

●飲み会が「労働時間」と認められたケース

逆に、飲み会が「労働時間」と認められたケースが、富士通事件です。

くも膜下出血で死亡した女性の遺族が女性の死は労災であるとして遺族補償一時金及び葬祭料の支給を求めた裁判です(高松高判令2・4・9)。

女性のくも膜下出血の原因が業務にあったのかを判断するにあたり、残業時間が問題になりました。その中で女性が参加していた飲み会が労働時間としてカウントされるか否かが争点となり、最終的に一部の飲み会が労働時間として認められました。

判決では、リーダーの立場だった女性が飲み会を欠席することが事実上困難であったことから、慰労や懇親の趣旨が含まれる飲み会であったとしても、業務の円滑な遂行上必要であったと認められ、労働時間として認めるのが相当である旨が記されました。

この判例で飲み会の時間=労働時間となった理由は以下の3点です。

・直接の上司が主催者であり部門所属の従業員のほとんどが参加していた
・リーダー職という立場上、欠席することが事実上困難だった
・業務の円滑な遂行上必要であった

会社や上司が主催者の飲み会は、仕事との関連性が高く断ることが困難だと判断されやすく労働時間として認められる可能性が高くなります。

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■新入社員歓迎会は新人にとって「業務の延長」

●「飲み会は業務の延長」セクハラ事件で会社にも責任

2次会が「仕事と密接な関係があった」と認められた事例もあります。

自動車販売会社で働いていた派遣社員の女性が新入社員歓迎会の2次会で男性社員からセクハラを受けたとして会社と男性に損害賠償を求めた裁判です(福岡地判平27・12・22)。

新入社員歓迎会の2次会で女性がカラオケを歌っていると、男性社員が女性を抱えて持ち上げ、同僚の前でスカートがずり上がってしまいました。女性は男性社員からセクハラを受けたとして会社と男性を訴え、裁判所は会社と上司に約33万円の支払いを命じました。

歓迎会は就業時間外に行われたものでしたが、下記の理由から女性は参加せざるを得ない状況だったということで「会社の業務の延長」だと判断されました。

・入社したばかりだったこと
・上司が女性社員を誘ったこと
・自分の歓迎会だったこと

飲み会が労働時間として認められると、残業代の支払いが発生するだけでなく参加者同士のけんかや事故などの労災認定がされる場合もあります。また、前述したようなセクハラの損害賠償責任も会社が使用者として責任を負うことになります。

■賃金さえ支払えば強制参加自体は違法ではない

そもそも、忘年会などの行事の参加を会社が強制することはできるのでしょうか。

会社は従業員と労働契約を結んでいます。労働契約では会社は従業員に業務を命じる権利があります。これを「業務命令権」といいます。

●就業時間内に開催される場合は強制参加も可能

忘年会などの社内行事が就業時間内に行われる場合は、会社の業務命令として強制参加させることも可能です。

その場合、飲み会でも仕事として給料も支払われます。「飲み会だから」と参加時間の賃金が控除されたとしたら、それは違法になります。

●就業時間外に開催される場合は残業命令が必要になる

忘年会などの社内行事が就業時間外に行われる場合は、参加するか否かを従業員は自由に決めることができるため、基本的に会社が参加を強制することはできません。

ただし、就業時間外でも「仕事として」行う場合は、会社の残業命令として強制参加させることができます。

残業命令を行うには次の要件を満たさなければなりません。

? 36協定(労使協定)を締結している
? 雇用契約書や就業規則に「残業命令」が記載されている
? 残業代が支払われている

飲み会自体が、業務上の必要性が全くない場合や必要以上に長時間拘束したり、余興を無理矢理させたりするような場合は、残業として命じることが難しくなりますので注意しましょう。

■参加しない人を尊重する姿勢が大切

会社としては、社員への福利厚生やコミュニケーション促進のために忘年会を企画したい気持ちが大きいと思います。

ただ、その忘年会が半ば強制で欠席できず、上司に気を遣い、夜遅くまで武勇伝を聞かされる――。そんな飲み会では「残業代を払ってほしい」と思われても仕方ありません。

飲み会の時間は、仕事こそしていないかもしれませんが、社員は自分のプライベートな時間を会社に提供しています。社員が本来自由に使うことができた大切な時間だという意識をしっかりもって、参加する人が気分よく過ごせるように配慮しましょう。

また、働く人が多様化する中でお酒の力を借りてのコミュニケーションは限界を迎えています。飲みに行くのが苦手な人、プライベートを大切にしたい人、育児や介護で時間に制約がある人など、さまざまな人が働いています。そういった人たちが参加しないことを尊重する姿勢がとても大切です。

社員の慰労や親睦が目的なら、飲み会以外のコミュニケーション方法も考えてみてはどうでしょうか。昔ながらの画一的な飲みニケーションから卒業しましょう。

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桐生 由紀(きりゅう・ゆき)
社会保険労務士
成蹊大学文学部英米文学科卒。Authense社会保険労務士法人 代表社会保険労務士。第一子出産後、7年の専業主婦期間を経てAuthense法律事務所に参画。創業間もないベンチャー企業だった法律事務所と弁護士ドットコムの管理部門の構築を牽引。その後、Authense社会保険労務士法人を設立し代表に就任。企業人事としての長年の経験と社会保険労務士としての知見両方を合わせ持つ事が強み。創業まもないベンチャー企業から上場企業まで、企業の成長フェーズに合わせた支援を行っている。プライベートでは男子3人の母。
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(社会保険労務士 桐生 由紀)