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「閉経して役目を終えた状態になったとしても、決して安心できないのが子宮の病気です」

【グラフ・一覧表】子宮体がん・子宮頸がんの年代別罹患数、子宮がん・卵巣がん手術件数全国トップ20

閉経後も怖い!子宮の病気

 そう注意を促すのは、産婦人科医の清水なほみ先生。命にかかわる子宮の病気はいくつかあるが、閉経を意識する40代後半以降にもっとも気をつけなければいけないのは、「子宮体がん」。

 罹患率は閉経前後の40代後半から急激に上昇し、50代後半から60代でピークを迎えると話す。

「子宮体がんは、子宮体部にできる子宮がんの1つで、女性ホルモンのアンバランスが発症の大きな原因となります。閉経が近くなると月経不順になりやすくなり、ホルモンバランスが崩れるためリスクが高まります」(清水先生、以下同)

 月経には、子宮内膜を分厚くする「エストロゲン」と内膜をはがして子宮内の内膜を一掃する「プロゲステロン」という女性ホルモンの働きがかかわっているが、月経不順になると排卵がうまくいかずエストロゲンの分泌が過剰に。内膜の細胞が増えすぎてがんができる可能性が高まる。

「妊娠・出産後の無月経期間はエストロゲン過剰にならないため、一般的に妊娠・出産回数の多い人のほうが子宮体がんのリスクが低くなります。

 逆に未妊・未産の人は月経周期によるエストロゲン優位期間の回数が多くなるのでリスクが高い。また、肥満もエストロゲン過剰になりやすいので注意が必要です」

閉経後の出血はたった一度でも婦人科受診を

 特に40代後半以降は、リスクが高まる要因に当てはまらなくても「月経周期の乱れを感じたら子宮体がんの可能性を疑ってほしい」と清水先生は指摘する。

 52歳のある女性は、5か月前から月経周期が不規則になったため、“月経不順”を訴えて診察を受けたところ、子宮体がんが見つかった。

「2回の経産歴があり、肥満でもなく、閉経後でもありません。子宮体がんのリスク因子がない人でも、閉経が近い年齢の人は20代、30代に比べて発症する可能性が高まる病気だという意識が大切です」

 その女性は、初期での発見だったので幸いにも手術のみで完治。“不規則な出血”を見逃さずに受診したことが功を奏した。

「子宮体がんのもっとも顕著な症状は出血です。40代後半以降、月経のタイミングではないときの出血は、たった一度、ごく少量でも“大丈夫”と思わないほうがいいです」

 特に、閉経後は“まったく出血しない状態が正常”だと心得て、おりものが少しピンク色になったり、下着に少し茶色の血がついた程度でも受診をすること。

 また、罹患率はかなり低いが、子宮の筋肉などからできる悪性腫瘍の「子宮肉腫」も閉経後に気をつけるべき病気として知っておきたい。

「ほかに、命にかかわる病気ではありませんが、子宮の位置が下がってきて尿漏れなど生活の質に大きくかかわってくる『子宮下垂』や『子宮脱』も、シニア世代になると増えていきます。骨盤底筋を鍛える運動などで早めの対策をしておくとよいと思います」

 逆に、子宮筋腫や子宮内膜症は、月経が終わることによって発症しなくなる。

「閉経時に治療が必要なほど大きな子宮筋腫でなければ、閉経後は自然と小さくなり寛解します。年に1度程度の経過観察だけで問題ありません」

若いころに感染し50代以降で発症することも

 一方、閉経の有無にかかわらず、年齢を重ねても引き続き注意が必要なのは「子宮頸がん」だ。好発年齢のピークは30代後半から40代だが、50代以降も30代と変わらない罹患率で推移するため、特定の年齢に限らない悪性の病気と捉えておく必要がある。

「子宮頸がんの多くはHPVというウイルスが原因の病気なので、年齢問わずウイルスに感染し、発症する可能性があります。若いころに感染して何の症状もなく過ごしていたとしても、50代、60代で発症するケースもあります」

 出血のほか、水っぽいおりものが増える状態が続いたら、病気のサインかもしれないと疑うこと。

 子宮の両隣にある卵巣のがんも、閉経前後の40代後半から50代に罹患率がもっとも高まる。

「毎月の排卵で卵巣の壁が傷つくことが卵巣がんの主な原因。月経の回数が多いほうがリスクが高くなるので、基本的には月経がある限り、年齢を重ねるごとにリスクは高まります。

 逆に排卵の回数が少ないほどリスクは減るので、妊娠・出産後の無月経期間が長い人のほうが罹患の可能性が低いといえます」

 では病気を見逃さないためにはどうすれば? 清水先生は、やはり定期検診が早期発見の肝だとアドバイスする。

「年に1度、子宮頸がんの検診と超音波(エコー)検査を行うのが基本です。子宮や卵巣の形の変化や大きさの異常をいちばん簡単に確認できるのが超音波検査ですが、自治体によっては子宮頸がんの検診に超音波検査がついていない場合もあります。

 その際はかかりつけ医で超音波検査を追加で受けることをおすすめします。“サイレントキラー”といわれるほど、ほとんど症状が出ない卵巣がんに限っては、発見する手立てが超音波検査くらいしかありません。

 それでも、進行してから発見されることが多い卵巣がんの場合、早期発見には効果がないといわれているので、定期検診を受けているから大丈夫とはいえません」

 不正出血などの気になる症状が起きた場合は、その都度、婦人科を受診。超音波検査を行い、子宮体がんを疑うことも忘れてはいけない。

「月経が来なくなると、出血がなくなるのはもちろん、おりものが減っていくのが正常です。そうでないときは、何か異常が起きている証拠。

 閉経しても膣や子宮まわりのトラブルや病気がなくなるわけではありませんし、ホルモンの変化などで婦人科系の不調が増えてくる年代。だからこそ、気軽に相談できる婦人科のかかりつけ医を持つことが安心につながります」

経産婦は特に要注意!子宮下垂・子宮脱とは?

 骨盤底筋が弱まって、子宮が正常な位置から下がる子宮下垂。悪化すると子宮脱となり、膣外に子宮が飛び出ることも。

 3人の出産経験がある78歳の女性は、ひどい尿漏れと“膣から何かが飛び出る”違和感を覚えて婦人科を受診し、子宮脱が判明。子宮が下がらないよう膣内に器具(ペッサリー)を挿入する治療を受けた。

「多産や大きな赤ちゃんを産んだ経験がある人などは骨盤底筋が脆弱化しやすいので要注意です。40〜50代の約3割が、子宮の位置が下がり傾向だと感じるので、尿漏れなど生活に支障が出る前に骨盤底筋を鍛える体操を始めましょう」

教えてくれたのは……産婦人科医 清水なほみ先生●「ポートサイド女性総合クリニック〜ビバリータ〜」院長。日本産婦人科学会専門医。女性医療ネットワーク発起人。通常の婦人科診療にとどまらず、脳科学や心理学の視点も加えて女性のさまざまな不調と向き合う。

(取材・文/河端直子)