ベテランになるほど仕事が減る?声優界のギャラ&ハラスメント事情...60代の新人が重宝されるワケ

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アニメや吹き替えはもちろん、テレビ番組への出演やアーティスト活動など、活躍の場を広げている「声優」。小・中学生のなりたい職業TOP3にランクイン(※2021年 キッズ@nifty調べ)するなど、その人気はどんどん加速している。
一見、煌びやかに見える世界だが、果たしてその裏側はどうなっているのか?

「テレ東プラス 人生劇場」では、現役声優として活躍するSさん(仮名)を取材。前編では、声優になるまでの険しい道のりや現場の舞台裏について話を聞いたが、後編では、ギャラ事情からハラスメント問題まで...声優業界の実態をさらに深掘りする!

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"売れっ子でギャラが安い"声優は一番使いたい人材


――前編では、Sさんが声優になるまでの過程についてリアルに伺いました。

「私のように子どもの頃から声優を目指す人は多いと思いますが、中には大人になってから目指す人もいらっしゃるんですよ。例えば公務員の方が定年退職してから声優になる、ということも...」

――60歳を過ぎてからということですか?

「そうですね。実は業界的に『年配で若手』という人材はとても重宝されるんです。20代の若手はたくさんいますが、60代で若手という方は貴重ですから。これには、声優界のギャラ事情が大きく関わっています」

――どのような事情があるのでしょう。

声優のギャラはランク制となっていて、一律に定められています。事務所の試用期間を経た後、最初の3年間はジュニアランクとして仕事を行いますが、ギャラは1本につき15,000円。これは例え主役だとしても、ほとんどセリフがなくても、一律で決まっています。
3年経つと自動的にランクが上がり、ランカーに。ギャラは一気に1本45,000円に跳ね上がります。さらにその上にはノーランクというものもあり、ここまでいくと芸能人のように1本ごとに交渉でギャラが決まりますが、それが許されるのは、ごく一部のベテランの方たちだけです」


――なるほど。キャリアがある方ほどギャラが高くなるので、"年配の新人"は重宝されるというわけですね。

「はい。若いうちから声優を始めた人は、60代になるともうベテランですよね。そうするとキャスティングにお金がかかってしまうので、若手のギャラで使える年配の方はニーズがあるというわけです」

――お話を聞く限り、キャリアを積めば積むほど、仕事がなくなりやすい制度でもありますよね。

「元々は声優の報酬をしっかり保証するために作られた制度なのですが、ランカーになってギャラが上がった途端に仕事がなくなるという人は多いですね。それを防ぐために、最近はジュニアとランカーの間に"ステップランク"ができましたが、それも約2年と期間が決められており、売れていても売れてなくても最終的にはランカーにならざるを得ません」

――デビュー後、すぐにブレイクした方も、ギャラは一律なのでしょうか?

「売れている方ほど、ランク制度が適用されていると思います。"売れっ子でギャラが安い"声優は制作側としては一番使いたい人材ですし、事務所としても安いギャラで使える期間をなるべく長くしておきたいという思惑があります。制作側からすると、一つの作品にギャラが高いランカーは何人も使えません。劇場版などの大きな作品はランカーを何人も使うこともありますが、かなり稀。予算が少ない吹き替えの現場は、ギャラが安い若手が支えていることが多いです」

――アニメか吹き替えかで、予算に差があるのですね。

「アニメは、DVDなどの展開やイベントの機会も多いので予算が豊富で、打ち上げの規模も全然違います。吹き替えの打ち上げは、出演者もスタッフも割り勘の飲み会。アニメは招待制のパーティー形式が多く、ビンゴ大会が開かれることもあり、景品も豪華ですよ。
予算が少ない吹き替え作品の場合、経費削減のために学生さんが翻訳を担当することもごく稀にあります。そうすると、滅茶苦茶な台本が仕上がってくることもあって...(笑)。ディレクターや役者が台本を直さなければいけないこともあります」

――業界に入ってみて、想像と違ったことはありますか?

「“ベテランの人も意外と食べられない業界なんだな”と驚きました。一時は爆発的に売れたのに、今となってはあまり仕事がなく、アルバイトしながら声優を続けている方も…。現場があまりなく、講師をして食いつないでいる方も多いですね。子どもの頃に憧れていた売れっ子声優さんが、養成所の講師として現れた時は本当に驚きました。アルバイトを掛け持ちしたり、正社員として働きながら声優をしている方もいます。
必死で実績を積み上げてきても、ランクが上がってギャラが高くなった途端、仕事がなくなることもある。しかも、いつ仕事が入ってくるか分からないから副業も限られてくる。声優として生活するのは、かなり大変なことだと思います。有名で実力があっても、仕事が続くとは限らない…厳しい世界だと思います」

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――仕事をもらい続けるために必要なことは何なのでしょうか。

「もちろん芝居の実力は必要ですが、コミュニケーション能力も大事だと思います。特に若手のうちは飲み会で気が利くとか、幹事を買って出るとか…。『この人がいると現場がうまく回る』という人材は重宝されると思います。
あとは諦めない心が大事だと思います。声の良さやビジュアルを武器にできる期間は短いので…。最終的には芝居力のある人が残ると思いますし、画とマッチさせるための技術も必要です」


――業界内の問題点は他にもあると思いますか?

「映画業界でも問題になっていますが、ディレクターが若手の声優にセクハラやパワハラをしたという話を聞いたことがあります。現場で特定の若手をターゲットにし、いじめのようにダメ出しをして、自分の権力や強さをアピールする方がいるようです。精神的に追い詰められ、辞めてしまった人もいます」

――ディレクターやプロデューサーが絶対的な存在であり、逆らえないということですか?

「『逆らったら仕事が無くなるんじゃないか…』と不安になる声優はすごく多いと思います。対ディレクター、プロデューサーだけでなく、マネージャーからの飲みの誘いを断れないという人もいます。男女問わず、呼び出しに応じないと仕事を回してくれなくなったり…。ただ、本当にマネージメントの意味合いで飲み会に呼ばれることもあります。マネージャーの呼び出しで行ってみたら、その場に制作の方がいて、仕事に繋がったこともあるので。どの業界もそうかもしれませんが、スタッフに気に入られないと仕事が入りにくいという部分はあると思います」

――各方面に気を配りつつ、ハラスメントも警戒しなくてはならないのですね。

「それでも最近は業界全体でハラスメントに敏感になっていて、無記名で通報できる窓口ができました。少しずつでも改善されるといいなと思います」

メディアへの露出が増え、ますます注目が高まる声優という仕事。今回の取材を通して、決して華やかさだけではない、リアルな裏事情が見えてきた。
何十万人ものライバルに競り勝ち、プロとして仕事に就くためには、並々ならぬ努力と押し寄せる困難を乗り越えるだけの根性、そして志が必要なのかもしれない。