※この記事は2022年03月25日にBLOGOSで公開されたものです

昨今、ポッドキャストの知名度が急上昇。雑誌などでも取り上げられる機会が増え、音声メディアの新たなムーブメントを感じる一方、実際に現場で仕事をする立場として大きな課題も感じています。今回はそんなポッドキャストに関するお話です。

放送作家のおおたけです。

放送作家と聞くとテレビ番組の制作に携わる仕事というイメージが強いかと思いますが、私の主戦場はラジオ。元々ラジオが好きで始めた仕事だったため、15年以上ラジオの現場で働いています。

その中で数年前からちらほら耳にするようになったのが「ポッドキャストがアツい」という噂。当初はラジオ界隈の人たちが音声メディア業界を盛り上げるために、願望も込めて話している部分もあったと思います。

目に見えて変化を感じたのは、音声プラットフォームが続々リリースされたこと。2016年に音声プラットフォームVoicyが誕生。その後もRadiotalk、Spoon、stand.fmなど、芸能人でなくてもラジオパーソナリティの如く音声メディアを持てるサービスが登場しました。

個人的な主観もありますが、当時のラジオ業界はこれらのサービスに対して、一般人がしゃべる場所でプロがやるものではないという認識だったかと思います。

理由はいくつかあるとは思いますが、最も大きな要因はお金でしょう。プロのラジオパーソナリティ、ディレクター、放送作家が制作に参加してもマネタイズが難しいためギャラを払えません。

事実としてTBSラジオは2016年6月末にラジオのポッドキャスト配信を終了。ITmedia NEWS(2016年6月6日)によると、終了の理由は「現状の運用ではマネタイズできるめどが立たないため」「維持費や管理費を鑑みると、経営的にはクローズの判断をせざるを得ないが、これだけユーザーがいる以上、なんとかして存続できないか――と、1年以上かけて検討を重ねたという」とあります。

民放ラジオ局でもポッドキャストによるマネタイズが難しいわけです。YouTubeが革新的だったのは広告収入によるマネタイズが可能だった点。趣味の枠を超えて仕事として成立するため、今では多数のプロが参戦するようになっています。

プロがポッドキャストに参入し始めた2020年

2004年に誕生したポッドキャスト。ネット上にアップした音声データをiPodでも受け取れ、ラジオのように楽しめるサービスで、「iPod」と放送を意味する「broadcast」の造語です。

日本の民放ラジオ局も地上波に流していたラジオ番組の一部をポッドキャストに流す形がほとんどで、ポッドキャストだけのオリジナルコンテンツを制作することはごくわずかでした。

風向きの変化を感じたのは2020年です。民放ラジオ局、Spotifyでプロのスタッフが制作し、プロのパーソナリティがしゃべるオリジナルコンテンツが現れ始めました。

顕著だったのは、ポッドキャスターを表彰する「JAPAN PODCAST AWARDS」でノミネートされた顔ぶれの変化。第1回となった2019年は長年ポッドキャストを続けてきた、いわば一般の方の番組が約9割。それが翌年開催された第2回では、TBSラジオ、J-WAVE、Spotifyが制作した番組が数多くノミネートされました。

私自身、ポッドキャストの仕事が増えたのもこの頃で、2021年~22年にかけて、単発含めて7つのポッドキャストオリジナルコンテンツ番組に携わらせていただきました。これまでになかった現象です。ただ肝心のマネタイズが潤沢かというとそこは難しいところ。メディアによってはマネタイズに成功しているところもあれば、将来の可能性にかけて投資をしていると感じる部分もあります。

アメリカではポッドキャストで億単位のお金を稼ぐ人もいますが、日本ではまだまだ難しいのが現実です。

人気ポッドキャスターが肌で感じたポッドキャストの盛り上がり

ここまで制作側の話を綴ってきましたが、パーソナリティ側はどのような印象を受けているのか。今回はポッドキャスト番組『そんない美術の時間』でパーソナリティを務める、らちまゆみさんにお話を伺いました。

らちまゆみ(アートテラー)
多摩美術大学卒業。2019年から美術の魅力を伝えるポッドキャスト『そんない美術の時間』を担当。

PodcastやSpotifyなどで人気を集め、JAPAN PODCAST AWARDS 2020推薦作品に選出される。YouTubeでも美術の魅力を伝えるチャンネル「らち -ART-」で動画投稿を行う。

参加するポッドキャストチーム:そんないプロジェクト

ーーポッドキャストの盛り上がりをどう感じていますか?

JAPAN PODCAST AWARDSが始まったのが大きかったと思います。一般の方でポッドキャストをアップしている人とそうした方のポッドキャストを応援しているリスナーさんが盛り上がった印象がありました。「私の大好きなこの番組が表舞台に出られるかもしれない!」といった形で。でも第3回のJAPAN PODCAST AWARDSではノミネートに芸能人もいっぱいいると言われていました(笑)

古参リスナーからすると「JAPAN PODCAST AWARDSが私の大好きな番組を引き上げてくれるんだと思っていたのに~」という印象があったみたいです。ノミネート作品が発表されたあと、SNSで「私が選ぶポッドキャストアワードはこれ!」と発表する熱心なリスナーさんもいました。

ーーJAPAN PODCAST AWARDSに取り上げられたことで、番組を聴いてくれる方は増えましたか?

確かに雑誌でポッドキャストを取り上げていただく機会は多くなりました。私も一度、BRUTUSで紹介してもらいましたし、メディアから声がかかるようになったのはJAPAN PODCAST AWARDSができたくらいからだと思います。

ーーYouTubeでの発信もされていますが、ポッドキャストの特性はなんだと思いますか?

ポッドキャストは熱狂的なリスナーが集まる場所だと思います。ずっと聞き続けるコンテンツなのでファンになりやすいのかな。いただくメールの熱量も非常に高く、毎回、長文のメールをくれる方もいらっしゃいますね。

ーーYouTubeでも、ポッドキャストと同じ美術をテーマにした動画を投稿されています。ポッドキャストとYouTubeの違いはありますか?

最初はYouTubeに映像を付けず音声だけをあげていたんですが、データを見ると視聴維持率が良くなかったんです。そのため顔を出して話して、時間も10分くらいに短くした動画を投稿したところ、維持率が圧倒的に高かったのでそれを続けています。

ポッドキャスト歴が長いこともあって割と好き勝手に話していたんですよ(笑)だけどYouTubeは動画1本1本に力を入れなければいけないため、企画や求められていることを考えるのが大変です。

ーー企画を考えるうえで意識をしていることは?

YouTubeは1本の動画に命をかけるんですけど、ポッドキャストはトータルで考えているのでメジャーとマニアックなテーマを混ぜています。ポッドキャストで反応が多く来るのはマニアックなもの。再生回数は大きく変わらないですが、マニアックなテーマにすると、リスナーさんからメールなどの反響がきますね。一方、YouTubeはメジャーなテーマの方が再生回数が多くなる傾向があります。

ーーポッドキャストの収益化はどうですか?

私が始めた時は、ポッドキャストの月額課金をやっているaudiobookさんから依頼を受けたことはありました。ただaudiobookさんが収益化したのも2年半前で、当時は画期的なことだったようです。「ポッドキャストが収益化する」といってみんなが沸いていた記憶があります。

ーーポッドキャストから生まれた著書、「大人の雑学 西洋画家事典」も出版されました。

大人の雑学 西洋画家事典 - 人柄がわかるエピソードで楽しく読める! - Kindle版

ポッドキャストが書籍化されることにリスナーさんは感極まってくれました。「私の好きなポッドキャストが本になった!」みたいな感じで。YouTubeの書籍化はたまにあるんですよ。教本系でいえば、amity_senseiやムンディ先生とか。ポッドキャスト発の本は珍しいみたいです。

トークを換金できれば裾野が広がる

収益化という大きな課題が残る音声メディア。YouTubeがこれだけ台頭した理由は広告収入を得られるという点だったのはいうまでもありません。

ただ音声メディアで稼げないのかというと、そういうわけでもありません。音声プラットフォームによってはいわゆる投げ銭システムがあり、一般的な会社員より高い報酬を得ているパーソナリティもいます。

先日、仕事でご一緒したポッドキャスター(らちさんの所属する配信チームのリーダー)は脱サラして音声配信だけで家族を養っていました。ラジオパーソナリティなのか、ライバーなのか。線引きが非常に曖昧な部分はありますが、芸能人でなくてもトークを換金することができる時代になったということです。

ラジオでもポッドキャストでも、これからは面白いコンテンツが生き残る時代が到来。ワクワクするコンテンツが増えることはリスナーとしては楽しみな限りです。