Twitterにおいて最も人気の絵文字が、この2021年4月は初めて泣き笑いを表す「😂」ではなく、苦悩か安堵のあまり口を開けて涙を流している「😭」になった。新型コロナウイルスのパンデミック(世界的大流行)による人々の気持ちを表現しているとしか言いようのない結果である。

「アップルが「注射器の絵文字」のデザインを変更した理由」の写真・リンク付きの記事はこちら

人々が多くの時間をディスプレイの前で過ごすなかで、自分を表現するために使う絵文字はさまざまな局面におけるコロナ禍の生活を映し出している。

微生物の絵文字新型コロナウイルスと同義になり、昨年それまでで最も使用頻度が高くなった。マスクを着けた顔「😷」は、公衆衛生当局が実生活でマスクの着用を求めたことにより、春から夏にかけてソーシャルメディアでの使用頻度が一気に高まった。ほかの絵文字のなかには、「✈️」のようにまったくと言っていいほど使われなかったものもある。

そして最近は、もうひとつの絵文字がよく使われるようになっている。注射器(💉)である。もともとは献血を表す注射器としてデザインされ、1999年にリリースされた最初の絵文字セットの一部だった。それがパンデミックの間に別の意味をもつようになった。

「最初に使用頻度が高まったのは、さまざまなタイプのワクチンが発表され始めた2020年12月でした」と、絵文字の参照サイト「Emojipedia」の副絵文字オフィサーのキース・ブローニは言う。Emojipediaは大衆文化における絵文字の使われ方を調べており、おもに投稿されたツイートにどのように表れているか分析している。

Emojipediaによる「💉」の分析によると、新型コロナウイルス関連のほかの絵文字は高い人気を維持しているものの、割合は低下している。去年のこの時期、「😷」は公開ツイートで「💉」の5倍も使われていたが、いまでは2倍にすぎないとブローニは言う。

「以前は献血や麻薬を打つこと、タトゥーを入れることに使われていました」とブローニが説明する「💉」は、いまでは「新型コロナウイルス」「ワクチン」「ファイザー」という単語の隣に頻繁に登場しているという。また、「😭」と一緒に使われることも多い。恐らくは言葉にできない深い安堵を表しているのだろう。

より多目的に利用できるデザインに

とはいえ、“注射器”はそれほどすんなりとワクチンの代役へと移行しているわけではない。もともとの絵文字は注射器の筒の部分が真っ赤で、注射針からは血液が滴り落ちていた。これがワクチン接種の図であるとは言いがたい。

そこでアップルは、新型コロナウイルスのワクチンを国民に接種させようという歴史的なキャンペーンが展開するなか絵文字のデザインを変更し、4月26日(米国時間)にリリースした「iOS 14.5」に合わせて提供を始めた。新しい注射器の絵文字は赤い色をより多目的に使えるブルーグレーへと変更し、滴り落ちる血液を取り除いている。

アップルが絵文字に修正を加えるのは珍しいことではあるものの、前例がないわけではない。同社は16年、拳銃の絵文字をそれほど生々しくないおもちゃのようなデザインへと変更し、いまでは拳銃はライムグリーンの水鉄砲で表現されている。18年にもベーグルにクリームチーズが載っていないのはおかしいという不満の声を受けて、ベーグルの絵文字を改良した。

既存の絵文字のデザインを変えることは、新しい絵文字を追加するよりもはるかに簡単にできる。提案された絵文字は、文字コードの国際規格を管理する非営利団体のユニコードコンソーシアムの承認を得なければならない。そのあとでアップルやグーグル、サムスン、ツイッター、フェイスブックなどのプラットフォームのデザイナーが、それぞれのプラットフォームでどのように見えるのかを判断することになる。

絵文字の追加は、提案から実装までに数年かかることもある。新しい絵文字が画面に登場するまでにこれだけ長い時間がかかるので、ユニコードは一時の流行を追う提案はたいてい却下する。ひじタッチはソーシャルディスタンスが始まったころに現れた象徴的な仕草だったにもかかわらず、その絵文字が人々のキーボードに登場しなかったのはこのためだ。手指消毒剤の絵文字も存在しない。固形石けんの絵文字で間に合わせるしかないのだ。

コロナ禍で増加した絵文字の使用

アップルは改良した注射器の絵文字とともに、ため息顔の絵文字や目が回った顔の絵文字など、まったく新しい絵文字もいくつか追加している。新しい絵文字の数は通常よりも少ないが、これはパンデミックの影響でユニコードコンソーシアムが普段のようには会議を開けなかったからでもある(新しい絵文字の全リストはここで見ることができる)。

ほかのプラットフォームも、今年中に新しい絵文字を導入するだろう。しかし、どれだけのプラットフォームが注射器のデザインを変更するのかは不透明だ。

絵文字の使用はパンデミック中に全般的に増加しており、これは恐らく画面の前で過ごす時間が増えたことによる副作用だろうとブローニは指摘する。「人々はかつてなかったほど、周囲の世界を表現するために絵文字を使っています」

そしてどんな言語もそうであるように、絵文字の使い方も常に進化している。だが、パンデミックは絵文字の使い方に長期にわたる影響を及ぼすのだろうか。「それについてはいまのところ、肩をすくめる絵文字(🤷)を使うしかありません」

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