(写真:時事通信)

写真拡大

「私が教室を主宰しているこの20年を振り返ってみても、聡太くんみたいな子は誰もいません。“日本一の子供”だなと思いました」

しみじみとこう語るのは、将棋藤井聡太七段(17)の恩師、文本力雄さん(65)だ。 藤井七段の快進撃が止まらない。7月1〜2日に王位戦第1局が行われ、30歳年上の木村一基王位(47)に挑戦者の藤井七段が先勝した。同時期に進行している棋聖戦でも、藤井七段は挑戦者として渡辺明棋聖(36)に2連勝中。9日の第3局に勝利すると、史上最年少でタイトル獲得となる。

そんな藤井七段が幼稚園時代から約5年間、通っていたのが地元・愛知県瀬戸市にある「ふみもと子供将棋教室」。主宰する文本さんが藤井七段の原点を語った――。

「聡太くんは幼稚園の年中、5歳のころ初めて教室にやってきました。お母さんと祖母に連れられて、3人でここに来たんです。ほっぺが真っ赤で天然パーマで、すこしカールした髪の毛が伸びていて、『女の子じゃないの?』と言いたくなるほどかわいかったですね」

藤井七段に将棋のルールを教えた祖母から「孫の将棋相手を探している」と電話で問い合わせがあったのが、自宅近くのこの教室に入るきっかけだったという。将棋の才能はずば抜けていた。

「1年で20級から4級に昇格した子は初めてでした。スランプや壁などはまったくなく、日を追うごとに吸収して、ほかの子の何倍も早く、強くなっていきました」

強さの秘訣の一つが負けず嫌い。4歳年上の兄も教室に通っており、兄弟ゲンカもすごかったそう。

「年の差もあり体がふたまわりも大きかったお兄ちゃんに、ちっちゃい聡太くんが『ウーッ』とうなり声をあげて向かっていくんです。絶対、『参った』なんて言いませんでしたね。最後はお兄ちゃんが『わかった、わかった』となって、やっとケンカが終わる感じでした」

大好きな将棋となると、さらに負けず嫌いは高じ、負けたときは悔しさのあまり泣きじゃくった。

「小学生名人戦の愛知県大会に出場した際、優勝候補で小学2年生だった聡太くんは、関東から来た子に負けて、優勝を逃してしまったんです。

このときの泣きっぷりは最大の号泣でした。何分、続いたかなぁ……。このまま泣かせたら、体を壊してしまうのではないかというほどの号泣でした。そんな聡太くんを黙って、ギュッと抱きしめてあげたのが、お母さんでした」

家族のサポートがあったからこそ、藤井少年の才能は順調に開花したと文本さんは力説する。

「いまの彼があるのも、家族の理解と協力、これに尽きます。お父さんはふだん、単身赴任で地元にいないんですが、戻ってきたときは聡太くんの送り迎えをしてくれていました。私が聡太くんの活躍を褒めても『うちの聡太なんて、まだまだです』といつも謙遜されていました。

お母さんは、送り迎えだけでなく他都市での大会へも付き添っていました。対局中、持ち時間が短くなると、お母さんは『息が詰まりそうになる』とハラハラして、くたくたになられていましたね」

「女性自身」2020年7月21日号 掲載