新型コロナウイルスが経済に与える影響は甚大だ。こうした状況でもっとも起きてほしくないのが震災だ。経済アナリストの森永卓郎氏は、「2021年中にも首都直下地震が起きる可能性はある。そうなれば、東京の首都機能が壊滅する程度では済まないだろう」と予測する――。

※本稿は、森永卓郎『年収200万円でもたのしく暮らせます コロナ恐慌を生き抜く経済』(PHP研究所)の一部を再編集したものです。

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■マグニチュード7クラスの地震が予想されている

コロナ禍はまだまだ予断を許さない状況が続きます。仮に収束したところで、安寧の日々がやってくると保障されることはないでしょう。それどころか、近い未来、私はさらなる危機が日本を襲うと予言します。

それは、首都直下地震です。

早ければ1年以内、2021年中までに東京を中心とする首都圏に最大規模の地震が起きる可能性は十分高いと考えています。新型コロナウイルスで疲弊した東京を大地震が襲ったら……。考えただけでも恐ろしい事態ですが、それは決して絵空事ではないのです。

内閣府に事務局を置く中央防災会議の防災対策推進検討会議の下、首都直下地震対策検討ワーキンググループが、2013年12月19日に首都直下地震の被害想定と対策について最終報告を発表しています。それによると、今後30年以内に70%の確率で首都直下のマグニチュード7クラスの地震が発生するとしています。最悪の被害想定は死者2万3000人、建物の倒壊・焼失61万棟、経済的被害は95兆円にものぼります。

地震と火山の歴史から導かれる2020年説

「30年先なら、当分心配しなくてよいだろう」

そう安心していると痛い目をみるでしょう。

京都大学大学院人間・環境学研究科の鎌田浩毅教授が地殻変動について研究されているのですが、歴史的な地殻変動の場所とタイミング、順序が現代と似ているという点を指摘されています。

(1)850年:三宅島噴火
(2)863年:越中・越後地震
(3)864年:富士山噴火
(4)867年:阿蘇山噴火
(5)869年:貞観地震(三陸沖)
(6)874年:開聞岳噴火
(7)878年:相模・武蔵地震

これを現代の地震と火山の噴火を照らし合わせると次のようになります。

(1)2000年:有珠山噴火
(2)2004年:新潟県中越地震
(3)2009年:浅間山噴火
(4)2011年:新燃岳(霧島山)噴火 ※2018年にも爆発的噴火
(5)2011年:東日本大震災(東北地方太平洋沖地震
(6)2014年:御嶽山噴火、阿蘇山噴火 ※2016年が爆発的噴火
(7)202?年:首都直下地震

■「可能性は高い」と予測する専門家は多い

863年に越中・越後で地震が発生し、その6年後の869年に貞観地震という三陸沖を震源とする地震が起きました。その9年後の878年に相模・武蔵地震という首都直下地震です。それを現代に引き直してみます。2004年に新潟県中越地震があり、その7年後に東日本大震災が起きました。平安時代とは1年ずれていますが、わずか1年にすぎません。

そして、貞観地震の9年後に相模・武蔵地震という首都直下地震が起きたのと同様、2011年の東日本大震災の9年後に首都直下地震が起きるとしたら2020年です。東日本大震災も1年ずれていますから2021年かもしれません。鎌田教授だけでなく、「その可能性は十分ある」「極めて高い」と予測する地震の専門家はかなりいます。

私は地震の専門家ではありませんが、鎌田教授の話には合理性があると考えています。

地震のメカニズムは、プレートがマントルの上を動き、プレート同士がぶつかる場所に歪みがたまっていくことがエネルギー源となることはよく知られています。歪みがたまり耐え切れなくなってプレートがずれる時に発生するのが大地震です。

2011年の東日本大震災では、三陸沖でプレートが滑りました。ずれが生ずると、ずれていないプレートにさらに大きな歪みが生じます。2019年ぐらいから茨城県沖で地震が頻発していますが、私は首都圏を襲う大地震が来る予兆だと考えています。

■首都圏を襲う火災、そして水害の恐怖

新型コロナウイルスで疲弊した東京が、首都直下地震に襲われたらどうなるでしょう。都市機能が壊滅するぐらいでは済まないと思います。

森永卓郎『年収200万円でもたのしく暮らせます コロナ恐慌を生き抜く経済』(PHP研究所)

首都直下地震対策検討ワーキンググループが出した最終報告では、都心部より、そこに隣接した住宅地域の火災発生による甚大な被害が想定されています。現在、世帯が多く暮らす住宅密集地帯は火の海になり、最大で約61万棟が焼失。東京の市街地が事実上「消える」ということです。

東京の新型コロナウイルスの感染者数も、専門家によっては60万人以上いるのではないかといわれますが、大地震が起きれば、それ以上の被害が想定されます。

1996年以降、24年も転入超過が続き、一極集中が加速化する東京を、新型コロナウイルスと首都直下地震が破壊するのではないでしょうか。それを前提に、私たちはライフスタイルを考えていかなくてはなりません。

■危険な場所に人を集中させたことが誤り

さらに、大型台風で河川が決壊するおそれもあります。2019年10月に日本列島に上陸した台風19号は、東海、関東地方を中心に激しい雨を長時間降らせ、河川の氾濫(はんらん)や土砂災害など広範囲に大きな傷痕を残しました。大型台風が今後も日本列島を襲う可能性は十分考えられます。そして、都心を直撃すれば、その被害は甚大なものになるでしょう。

前出の中央防災会議の「大規模水害対策に関する専門調査会」は、2008年に荒川の洪水氾濫時の被害想定を発表しました。それによると、200年に1度の発生確率の洪水により墨田区墨田地先で堤防が決壊し、避難率40%の場合、排水施設が稼働しないケースで死者数は約2100人としています。さらに3割増の洪水量であれば、死者数は約4500人にものぼると予測します。こうした危険な場所に人を集中させたこと自体が、国土政策として誤りだったといえます。

大阪も同じです。日本のほとんどの大都市は沿岸部にあります。千代田区の日比谷付近も江戸開府の頃に埋め立てられた土地で、そもそも地盤がよくないのです。それなのに、都心部に企業が本社を構え、商業施設や飲食店ができ、人が集まっているのです。

危ないと言われても都心に住んでしまう心理は、都市機能、金融など、あらゆるインフラが都心に集中していることが主因です。そうした目先の欲に目がくらみ、企業も個人も客観的、総合的に将来展望を描けなかったということに尽きるでしょう。

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森永 卓郎(もりなが・たくろう)
経済アナリスト、獨協大学経済学部教授
1957年生まれ。東京大学経済学部経済学科卒業。専門は労働経済学と計量経済学。著書に『年収300万円時代を生き抜く経済学』『グリコのおもちゃ図鑑』『雇用破壊 三本の毒矢は放たれた』『消費税は下げられる! 借金1000兆円の大嘘を暴く』などがある。
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(経済アナリスト、獨協大学経済学部教授 森永 卓郎)