働きながら企業チームで活躍する選手が多いラグビー日本代表(撮影/藤岡雅樹)

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 2019年、日本中を熱狂させたラグビーW杯。その開幕にタイミングを合わせるかのように、日本ラグビー協会の清宮克幸副会長は「ラグビーのプロ化」を打ち出した。ラグビーはプロ化によって、どう変わるのか。また、どのような問題点があるのか。スポーツライターの木村俊太氏が解説する。

【写真】清宮克幸・日本ラグビー協会副会長

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 大成功に終わった昨年のラグビーW杯。年が明け、まもなく今シーズンのトップリーグも開幕(1月12日〜)するが、そんな中、ラグビーのプロ化が話題となっている。

 発表によると、新しいプロリーグ「Rリーグ(仮称)」を立ち上げ、トップリーグは企業リーグに移行するという。トップリーグからプロ化するチームと、新たに設立されるプロチームが「Rリーグ」所属としてプロリーグを戦い、プロ化しない企業チームは企業リーグで戦うという構想だった。

 だが、2019年12月23日に発表された報道によれば、新リーグとトップリーグは分離せずに一体化し、プロ選手とアマチュア選手の混在を含め、参入要件は1月の理事会をめどに、トップリーグのチーム関係者を入れた小委員会で議論し、まとめるという。

 そもそも2019年11月には参加チームを募集し、2020年秋にはプレシーズンリーグを行って、2021年秋からの開幕を目指すとしていたが、現状はまだ「準備委員会」の設立に留まっている。プロ化の牽引役とも言える清宮副会長も「こんなスピードでプロ化できるのかと思う」と述べるなど、当初のイメージよりもかなりスローペースで進んでいると見られる。

 清宮副会長は、なぜこのタイミングで「プロ化」を打ち出したのだろうか。また、なぜプロ化への前進スピードは「当初のイメージよりもかなりスローペース」なのだろうか。そのあたりを考えてみたい。

◆「プロ化」するメリット

 そもそも「プロ化」するメリットとは何だろう。立場によって、そのメリットは若干、違ってくるだろうが、客観的に見れば、継続的な(1)各方面への金銭的メリット(2)日本代表の強化──ということになるだろうか。もちろん、「成功すれば」という条件付きではあるが、仮に得られるものがこの2つのメリットだけだったとしても、「プロ化推進」に賛成する十分な理由と言えるだろう。

 ただし、話はそう単純ではない。だからこそ、「当初のイメージよりもかなりスローペース」でしか進んでいないのだ。

 それは、メリットだけではなく、プロ化するデメリット、あるいはデメリットへの不安があるからだ。しかも、立場の違いによって、その不安も微妙に異なるので、それらについて、一つ一つ不安を取り除いていかないとなかなか前に進まない。これは想像だが、まさにその作業に予想外の時間がかかり、スローペースを余儀なくされているのではないだろうか。

 まずは、プロ化のメリットについて考えたい。先ほどメリットについて「(1)各方面への金銭的メリット」と書いたが、具体的には差し当たり「選手」「チーム(企業)」「協会」の金銭的メリットが考えられる。

 選手は、当然、プロ化によって現在の収入よりも高い収入が得られる可能性が出てくる。現在、トップリーグでもプロ契約の選手は少なくないが、ほとんどが社員というチームもある。プロ化すれば、当然、収入アップの期待も高まる。

 チーム(企業)は、これまでは「広告宣伝」や「福利厚生」という意味合いで予算を組んで支出していた。プロ化によって、リーグ全体の収入が増えれば、チームへの見返りも発生することだろう。選手の年俸アップよりも、そちらのほうが上回れば、企業にとっても悪い話ではないはずだ。

 トップリーグに参戦している企業は、日本を代表する大企業ばかりだが、それでも毎年、億単位の予算を使うチームが単独で収益をあげてくれるようになってくれれば、それに越したことはあるまい。

 協会への金銭的メリットは言うに及ばずだ。現状“火の車”の協会にすれば、プロ化によって万年赤字体質から脱したいと切に願っていることだろう。

◆選手やチームが感じるデメリットとは

 では、デメリットのほうはどうか。選手にとっては、「セカンドキャリア」の問題が大きい。社員契約なら、選手を引退した後も、その会社に社員として残り、仕事を続けることができる。アスリートのセカンドキャリアの問題は深刻だが、ラグビーの場合、セカンドキャリアが保証されたアスリートという、実は非常に恵まれた環境だとも言える。

 プロ化されて、契約期間だけは高年俸になったとしても、引退後の仕事に困るようでは、選手にとってはメリットを上回るデメリットと感じるかもしれない。

 ただ、ここは清宮副会長もよく理解している。社員契約のまま「出向」のような形でプロリーグに参加できる仕組みを模索しているらしい。

 しかし、そうなると今度は、企業側のデメリットの問題も発生する。ほぼ仕事をせずにラグビーに専念している社員に、引退後、任せられるポストを用意できるだろうか。人気選手であれば、社外的に「会社の顔」となってくれることも期待できるだろうが、みんながみんな、そういう選手とは限らない。親会社の余力次第ということにもなりかねない。

 また、デメリットや不安については、どうやら「現状、細部が見えない」という点が大きいらしい。おそらく協会側は「現段階では、大きな枠組みだけ決めておいて、細部はこれから詰める」ということだと思うのだが、企業としては「細部が見ない状態で、賛成か反対かという判断はできない」のだろう。

 あとで、稟議書と違うことが決まってしまったら、社内での責任問題にもなりかねないので、企業側(の責任者)としては当然かもしれない。「当初のイメージよりもかなりスローペース」で進まざるをえない最大の要因は、具体的にはこのあたりかもしれない。

◆地方活性化にもつながる

 メリットのもう一つの側面、「日本代表の強化」について考えてみよう。強化される理由は、主に2つ。金銭面と環境面だ。

 金銭面は、先ほどの「協会」としてのメリットから生まれる「強化費の増加」による。また、スター選手が高年俸をもらっているとなれば、それを目指そうという子どもたち(というか、その親たち)も増えるだろう。競技人口というのは、意外にこうした要素も小さくないので、低年齢層での裾野が広がり、才能ある選手の出現確率の増加にも寄与するだろう。

 環境面では、海外の一流選手を呼んだり、海外のチームの参戦を許すなどが実現すれば、今よりも高いレベルのゲームを毎試合、各選手が経験できるようになる。これは、選手個々人、さらにはチーム、代表のレベルアップに直結する。

 さまざまな問題点はあったにせよ、スーパーラグビーに参戦した「サンウルブズ」は、明らかに日本代表の強化に(部分的にではあっても)役立った。その発展形を日本のリーグで実現しようという試みが「プロ化」だと言っても過言ではないだろう。

「選手」「チーム(企業)」「協会」以外のステークホルダーのメリットについても、積極的にアピールして、味方を増やしていく必要がある。例えば、スタジアムを所有する地方の自治体や団体などが考えられる。

 Jリーグなどと同様、フランチャイズ制を採用することが謳われているので、本拠地の地元への経済効果も小さくないはずだ(繰り返すが「成功すれば」という条件付き)。地域の活性化にも寄与するに違いない。

◆みんなが共感できる「理念」の提示を

 Jリーグは発足時から、以下のような「Jリーグ百年構想」というものを掲げている。いわばJリーグの理念のようなものだ。

「あなたの町に、緑の芝生におおわれた広場やスポーツ施設をつくること」
「サッカーに限らず、あなたがやりたい競技を楽しめるスポーツクラブをつくること」
「『観る」『する』『参加する』。スポーツを通して世代を超えた触れ合いの場を広げること」

 ラグビーの新リーグ(Rリーグ)でも、「ラグビーを通してこういうことを実現したい」というビジョンのようなものを打ち出せないだろうか。特に「スポーツを通して世代を超えた触れ合いの場を広げる」のような、よりよい社会を作ることに役立つことを打ち出せれば、多くの人が賛同してくれるのではないだろうか。

「W杯の熱が冷めないうちに」というスピード感も大事だが、みんなが喜んで集まってきてくれるような、そんな大きなビジョンが描けたら、そのスピードも一気に加速していける気がするのだが、いかがだろうか。

●きむら・しゅんた/1966年生まれ。早稲田大学卒業後、出版社勤務を経てフリーに。帝京大学ラグビー部公式ホームページで、観戦記を執筆中。著書に『観戦初心者のための ラグビー 25のルールと見方』(Kindle)『テイエムオペラオー 孤高の王者』(廣済堂出版)などがある。