前方の信号が赤でも、左折は常時OKという交差点があります。比較的珍しい交通規制ですが、メリットとデメリットがあり、数が減っている地域もあります。

交通規制「左折可」、採用に地域差

「前方の信号が赤でも、左折は常時OK」という交差点があります。いわゆる「左折可」の交通規制で、「一方通行」の標識を反転させたような、白地に青い左向きの矢印が描かれた標示板が立っている場所のことです。


「左折可」の標示板(2019年8月、乗りものニュース編集部撮影)。

「左折可」の標示板そのものは、いわゆる道路標識令(道路標識、区画線及び道路標示に関する命令)に記載されていないため「標識」とは呼べませんが、警察の交通規制基準には明記されています。東京都内では、たとえば東名高速の東京ICに通じる環八東名入口交差点(世田谷区)などにあります。

 警察庁によると、その数は2008年度末時点で全国212交差点だったのが、2018年度末には260交差点に増加。都道府県別では沖縄が最多で59交差点、次いで東京、岡山、奈良、長野の順に多いといいます。とはいえ、全くない地域も存在し、比較的珍しい交通規制のためか、ドライバーが赤信号を見て停止しようとし、後ろからクラクションを鳴らされることもままあるようです。

「左折可」の交通規制にはどのようなメリットがあるのでしょうか。奈良県警に話を聞きました。

――「左折可」の交通規制はどのような目的で敷かれるのでしょうか?

 交通を円滑にするため、信号によらず常時左折可としているものです。奈良県は道路事情が良いとはいえず、通常の信号制御では左折需要に応えきれず慢性的な渋滞が発生する恐れのある交差点があります。そうした場所で、安全性を考慮して実施しています。

――どのような場所にあるのでしょうか?

 左折開始場所と左折終了場所をそれぞれ流入部、流出部と呼びますが、原則として流入部に横断歩道が設置されておらず、流出部が交差道路の直進車と交差しない構造が確保されている道路です。また、交差する両方の道路とも片側2車線以上あることも条件です。

歩行者には優しくない?

 奈良県では全国で4番目に多い26交差点で「左折可」を採用していますが、その数は以前より減っています。1990年代には現在の倍以上あったそうです。

「流入部に横断歩道があっても『左折可』としていた交差点など、歩行者との交錯が生じる恐れのある交差点で、順次廃止しています。このような場所では、歩行者がいてもなかなかクルマが停まってくれないのです」(奈良県警)


左折車と、交差道路の直進車が交差しない道路構造が確保されている場所などで「左折可」規制が実施されることがある(警察庁の画像を加工)。

 交通事故の死者数は年々減少していますが、そのなかで相対的に歩行中の事故、とりわけ高齢者が道路を横断中に死亡する事故の割合が高まっています。国は2000年代以降、歩行者保護重視の安全対策を強化しており、その動きに呼応する形で奈良県警でも左折可の規制を順次見直してきたといいます。たとえば岡山県でも、ここ5年のあいだに20ほどの交差点で「左折可」が廃止されているほか、警視庁管内でも10年間で3か所減ったそうです。

 また、2011(平成23)年に警察庁が自転車の通行について「車道が原則、歩道は例外」(自転車安全利用五則)というルールを徹底させる方針を打ち出して以降、国ぐるみで自転車の通行環境が整備されてきました。そうしたなかで、交差点を直進しようとする自転車がキープレフトを保てない左折可の規制を見直す動きもあります。奈良県警では自転車も含め、総合的に判断して規制の見直しを進めていると話します。