左から、ヤフーの川邊氏、ZOZO新社長に就任する澤田氏、前澤氏〔PHOTO〕Gettyimages

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ファッション通販サイト「ゾゾタウン」を運営するZOZOが、ヤフーに買収されることになった。ヤフーは傘下のオフィス用品大手アスクルの岩田彰一觔社長を解任するなど、ネット通販事業の再構築に乗り出している。今回のZOZO買収もその一貫と考えられるが、一連の動きはヤフー単体の問題として理解しても意味がない。すべてはヤフーの親会社であるソフトバンクグループにおける事業再編の一部と考えるべきだ。

左から、ヤフーの川邊氏、ZOZO新社長に就任する澤田氏、前澤氏〔PHOTO〕Gettyimages

ヤフーが再構築目指す「ネット通販ビジネス」

ヤフーは2019年9月12日、ZOZOに対してTOB(株式公開買い付け)を実施し、ZOZO創業者である前澤友作氏が保有株を売却すると発表した。前澤氏はZOZOの株式の30.37%を持つ筆頭株主だが、今回のTOBでその大半をヤフーに売却する。前澤氏は12日付けで社長を退任しており、TOB終了後の前澤氏の保有割合は一気に6.36%に低下。ヤフーは最終的にZOZOの株式を50.1%保有し同社を子会化する。

新社長である澤田宏太郎氏はNTTデータ出身で、2013年からZOZOの取締役を務めている。前澤氏は澤田氏について、「数字をベースにロジカルに考える経営者」と評しており、澤田氏も今回のトップ交代をきっかけに、チームワーク経営にシフトすると説明している。ヤフー傘下で合理的な経営が行われるのはほぼ間違いないだろう。

ヤフーは日本ではナンバーワンのポータルサイトだが、スマホシフトに出遅れたこともあり、利用者の年齢層は比較的高い。「ヤフオク」や「ヤフーショッピング」など、物販事業も行っているが、アマゾンや楽天といったネット通販大手と比較すると見劣りがする。

一方、ZOZOは前澤氏の天才的な能力で急成長した会社であり、日本企業としては珍しく、イノベーティブなテクノロジーを前面に打ち出す企業だった。しかし、目玉だったZOZOスーツなどで失策が続いたことや、ゾゾタウンに出店する一部メーカーが販売方針の違いから出店をとりやめるなど、近年は前澤氏によるワンマン経営の歪みも出ていた。

ネット通販に関する豊富なノウハウと若い顧客基盤を持つZOZOと、圧倒的ブランドを持ちながらも、物販に弱みがあり、顧客層が高齢化しているヤフーは相互補完関係にあり、よい組み合わせだ。ヤフーはソフトバンクと合弁でQRコード決済サービスであるPayPayを展開しているが、ZOZOがPayPayを採用することで、一気にPayPayの事業基盤も拡大できる。

これに加えてヤフーは、アスクルの社長を解任し、同社の個人向けネット通販事業である「LOHACO(ロハコ)」の主導権確保を目論むなど、ネット通販事業の強化に乗り出している。最終的には一連のネット通販事業を統合するといった戦略も十分にあり得るだろう。

ソフトバンクが描く「巨大な絵」

ヤフーとZOZOというミクロな視点では、今回の提携はシナジー効果が見込める施策であり、ヤフーがネット通販事業を強化し、次のステージを目指すための重要なステップとみなすことができる。だが、マクロ的に見た場合、今回の資本提携の背後には、ヤフーの親会社であるソフトバンクグループの孫正義社長の意向が強く作用している。

ZOZOはTOBに関する記者会見において、孫氏を特別ゲストとして招待しており、孫氏は両社の経営についてコメントしなかったものの、「前澤氏は今でもロック・ミュージシャンだ」と前澤氏を賞賛する発言を行った。この演出には、両社の資本提携にソフトバンクの戦略が関係していることを間接的にアピールする狙いがあったと考えられる。

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ソフトバンクは、2016年に立ち上げたソフトバンク・ビジョン・ファンド(いわゆる10兆円ファンド)の運用をきっかけに、通信事業主体のビジネスモデルを抜本的に転換し、AI(人工知能)やシェアリング・エコノミー関連企業に投資を行う、巨大なファンドビジネスにシフトしている。同社はビジョン・ファンド第2弾の設立も発表しており、ますます投資事業への加速を強めている状況だ。

同ファンドのポートフォリオには、米ウーバー・テクノロジーズをはじめ、東南アジアで事業を展開するグラブや中国の滴滴出行(ディディチューシン)など、世界の主要な配車サービスのほとんどが名前を連ねている。

このほか、ITを駆使し、あっという間に世界トップのホテルチェーンにのし上がったインドのオヨ(Oyo)や、シェアオフィス「ウィーワーク」展開する米ウィーカンパニーなど、急成長企業がひしめいている。

一連の新興企業への投資はハイリスクだが、事業展開に成功した場合には、世界におけるあらゆる産業秩序を根底からひっくり返す可能性がある。ソフトバンクの資金量や投資先企業の潜在力を考えた時、国内の通信事業やヤフー事業は、もはや小さな部門でしかない。

「短期のシナリオ」と「長期のシナリオ」

その意味では、ヤフーとZOZOの資本提携や、アスクルへの関与強化といった一連の動きは、ソフトバンク全体の経営に大きな影響を与えるものではないだろう。だが、日本におけるネットビジネスの今後を考えた場合、2社の提携は市場の大きな転換点となる可能性が高い。

もしソフトバンクが、ビジョン・ファンドを通じて、傘下企業の育成に成功すれば、米アマゾン、米アップル、米グーグルを脅かす存在になり得る。検索エンジンを主業務とした純然たる技術企業であるグーグルや、iPhoneというプロダクトを主軸にするアップルは方向性が異なるが、ネット通販をベースにしているアマゾンにとってはかなりの脅威となるだろう。グローバルに見た場合、ネット上のコンシューマ向けサービスは、アマゾンとソフトバンク連合の二強体制に収束する可能性がある。

では国内のネットビジネスはどうなるだろうか。

日本ではライドシェアが規制されているためウーバーは自由にビジネスを展開できない状況にあるが、少なくともヤフーを中心にアスクルとZOZOが一体化することによって、楽天やアマゾンと互角に戦える可能性が見えてくる。その間に、シェアリング・エコノミーに閉鎖的な日本の市場環境が変化すれば、ウーバーやオヨ、ウィーワークなどが日本市場に一気に進出できるかもしれない。

短い時間軸では、アマゾン対楽天という国内ネット通販市場にヤフーが本格的に殴り込みをかけ、もう少し長い時間軸では、ヤフーの背後にいるソフトバンクが傘下のIT企業を通じて、一気に日本市場をこじ開けるというシナリオが浮かび上がる。

正反対を目指す楽天とソフトバンク

まったくの偶然だろうが、このタイミングで楽天が携帯電話事業の大幅延期を発表するなど、同社の経営は足踏み状態となっている。ソフトバンクは、通信会社の相次ぐ買収で巨大企業となったものの、通信事業に見切りを付け、テクノロジー投資企業として、異次元の成長に賭ける選択を行った。

一方、楽天はネット企業として成長したものの、このタイミングで通信事業に新規参入するなど、ソフトバンクとは正反対の方向を目指している。どちらの戦略が正しいのかは現時点では何ともいえないが、アマゾンと楽天の2強で安定していた国内ネット通販市場が、あらたな戦国時代を迎えようとしているのは間違いない。

ヤフーとしては、できるだけ早くネット通販ビジネスの再構築を行う必要があるだろう。楽天の携帯電話参入の遅れは、ヤフーにとってはチャンスだが、逆に言えば、楽天が本格的に通信事業に乗り出す前に、事業統合を実現しなければ、その後の展開は不利になる。

ヤフーの川邊健太郎社長は就任から1年3カ月が経過したが、ZOZO、アスクル、ヤフー3社のシナジー効果を発揮させるという仕事は、経営トップとして最初の関門となるだろう。