NTTコム リサーチ=アンケート調査協力

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あなたの常識は、相手にとっても常識か。マナーのアンケート調査で判明したのは、年代によって「常識」が違うことだ。一体、どんな変化が社会に起こっているのか。

■年代が違えば、常識も違う

上司にLINEで連絡を取ってもいいものか。セクハラ・パワハラの境界線はどこか。昇進祝いには何を送れば正解なのだろう――。ビジネスには、「これが正解」と言い切れないシチュエーションがままある。

そこで、今回プレジデント誌は20〜60代の各年代ごとに約200人、計1000人にアンケート調査を実施。社内の序列や案件の伝え方、接待の席など、17項目についてマナーの「相場観」を調べた。結果を見ると、納得のいくものもあれば、意外な数字も。また、それぞれの項目で年代差がはっきりと見えてきた。

年代間の差を見てわかるのは、60代が持っている「常識」が、20代に必ずしも通じない現実があるということ。若手も経験を積めば同じ常識を身に付けるかと言えば、マナーやルールは移り変わるもの。

アンケート結果を、私たちの実際の仕事にどう活かせばいいのか。仕事、家事、育児をすべてこなしつつ同期トップで役員となった元東レ取締役の佐々木常夫氏と、カリスマ営業ウーマンであり、営業とコミュニケーションの専門家・営業本のベストセラー作家の和田裕美氏、2人のビジネスの達人に話を聞いた。

社内の序列編
20代のこだわるポイントを理解しているか

タクシーの上座が変わった!?

年下の部下の名前をどう呼ぶか。男性にも女性にも名字に「さん」を付ける、と答えた人の割合がどの年代でも1位。特に60代では、ほぼ半数だ。佐々木氏はこう語る。

「私はどんな人にも『さん』付けですね。年齢が下だろうが役職が何であろうが、誰もが自分よりも何かしら優れたものを持っている。ですから、常に敬意を払って『さん』を付けるべきです」

対して、20代では「呼び方は何でもいい」が18.5%と他の年代と比べて一番多い。和田氏は「若い年代ほど、例えばSNSなどのやりとりで相手に敬称を付ける機会が少ないし、部下もいないので、呼び方にこだわりがない」と分析する。

社内の序列については、席の順番は年齢・社歴ではなく「役職を重視」が全年代でトップに。佐々木、和田両氏も「役職を重視」で一致した。だが、20代、30代では、「年齢を重視」「社歴を重視」が他の年代よりも多い。和田氏は「若い方は出世意欲が低く、役職に重きを置いていないのでは」と指摘する。

新人時代、上司とタクシーに乗るときにどこに座るか迷った経験のある人は多いだろう。一般常識では上座は「運転手の後ろ」。実際、どの年代でも1位だ。ただ、「運転手の後ろ」に次いで多かったのが「運転手のななめ後ろ」、つまり開閉するドア側という答え。実は佐々木氏も、「ななめ後ろ派」だ。

「教科書的な解答としては、上座は運転手の後ろですが、上司が一番快適に出入りできるのはドア側。本当の上司へのリスペクトは、部下が先に入ること。一緒に行動することが多い上司には、1度『支払いもあるので私が先に入ります』と断れば、次からはスムーズですよ」

いつか、「運転手のななめ後ろ」が常識になるかもしれない。

伝え方・頼み方・謝り方編
如実に表れるコミュニケーション力の違い

■年が上がるほど、謝り方が熟達

上司への連絡をLINEやメッセンジャーなどのSNSで済ませてもいいのか。「よくない」は20代の21.5%に比べ60代では44.4%と倍増。年代が上がるほど否定的だ。佐々木氏は「SNSの問題点は記録を整理・保管できない点。でも、例えば上司が出先からすぐの連絡を求めていて、SNSでいいというなら、かえって喜ばれる」と語る。

メールの返信は早いほどいいのか。年代が上がるほど、1時間以内で返信する割合が上がり、60代では39.7%と高い。和田氏いわく、「デキる人ほど返信が早いのは確か」。佐々木氏も「仕事はできるだけその場で片付けるのが基本」と言う。

残業の依頼はいつまでにしたらいいか。結果を見ると、経験を積むほど早めの依頼を心がけているが、「当日の午前中でも遅い」と両氏は口を揃える。佐々木氏は「ビジネスは予測のゲーム。2〜3日前には伝えないといけません」と厳しい。

謝罪の方法では、20代の非がなくても「とにかく謝罪する」(27.0%)の高さが目立つ。正しい対応を和田氏に聞いた。

「最後まで話を聞く。謝罪する場合も、謝る箇所を間違えないこと」

上司と部下編
叱り方、褒め方も、年代によって意識が変化

■目立ちたくない若手、どう褒めればいいか

叱る場所について、どの年代も1位は「1対1で、会議室などの個室で(ドアは閉める)」。佐々木氏もこれに同意する。和田氏は自身の経験から、「人前で叱るときは、Aさんを叱っているようで、本当は近くにいるBさんに聞かせている、という場合もあります」と話す。

褒める場所について結果を見ると、年代が下がるほど「他の社員もいるフロアで」の支持率が下がる。和田氏は「最近は、突出して1人目立つのが嫌という若い人も多い」と分析。だが、両氏とも「他の社員もいるフロアで」褒めるほうがよいと言う。「『こうすれば評価されるんだ』と全体で共有する狙いがある」(佐々木氏)。和田氏は「社内で褒め合って切磋琢磨することがいいことだという認識を広めていくべき」と話す。

セクハラ・パワハラの境界線はどこか。年代が上がるほど、訴えられる危険性が高くなるせいか、どの質問項目にも危機感が強い。ただ、和田氏は「それでもどの項目も数字が低すぎる」と指摘する。佐々木氏は厚生労働省のパワハラ評議会で委員を務めたことがある。「ハラスメントとは、相手が不快に感じるかどうか。日頃の信頼関係が大事」。

お祝い・贈り物編
全年代共通、もらって嬉しいもの、邪魔なもの

■嫌がられる贈り物は何か

手土産の定番はやはり「菓子」。今回の「もらって嬉しい手土産」の調査では全年代でトップだ。特に働き盛りの30代で81.9%、40代で80.6%と高い支持。いわゆる「消えもの」で、食べれば場所も取らず、生菓子でなければ日持ちもする。「お菓子は無難ですし、数千円で購入できます。お酒の場合は高価になってしまうのが難点」(佐々木氏)。和田氏はデキる営業は手土産で差を付ける、と語る。「地元の銘菓を手土産にすれば話も弾むし、印象にも残ります」。

反対に、迷惑なのは本、野菜や果物、置物など。個人の好みがはっきりと分かれ、処分に困ったり、ずっと残るものは貰っても迷惑なのが本音だろう。

昇進祝いはどうか。現金がどの年代でも最も人気であり、両氏ともこの結果を支持する。反対に、避けたほうがいいものは何か。

「万年筆はやめたほうがいい。使い慣れたものを持っているかもしれない」(佐々木氏)。「名刺入れはお勧めできません。もし上司から名刺入れを貰ったとして、使っていないのを見咎められると、互いに嫌な気持ちになります」(和田氏)。

会食・接待・葬儀編
恥をかかない「お金の相場」とは?

■接待、香典の目安の金額は

「接待の1人あたりの金額」で注目したいのが40代。昼の接待では1001〜3000円が56.8%、夜の接待では3001〜5000円が40.3%と、低予算の割合が大きい。

「40代は現場の最前線にいて、接待の数も増える。会社全体を見る立場にもなり、1回あたりの金額も抑えめになるのでは」(佐々木氏)

会食のお礼は、メール派と電話派が拮抗。「声を聞いたほうが印象がよくなるので、翌日の朝一番に電話でお礼を伝えます。電話されるのが嫌いな人もいるので、その場合はメールが無難」(和田氏)。

他人に聞きづらいのが、取引先への香典の金額だ。3000円、5000円、1万円に意見が割れた。和田氏は「相場は5000円。でも若ければ3000円でも問題ない」と言う。

アンケート結果を振り返り、佐々木氏は、「経験を積むほど、正しい振る舞いができるようになる。ただ、若くても『常識』が身に付いている人もいます。大事なのは相手のことを考える『感受性』を持つこと」と説く。和田氏は「時代が変わり、仕事のスピード感は上がっている。変化に対応する力も重要です」。

調査概要●20〜60代までの各年代約200人ずつ、計1000人の会社員男女にインターネット調査を実施。調査期間は2018年3月14〜16日。

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佐々木常夫
1944年生まれ。69年東京大学経済学部卒業、同年東レ入社。2001年、同期トップ(事務系)で東レの取締役就任。10年から佐々木常夫マネージメント・リサーチ代表。
 

和田裕美
外資系教育会社で、世界142カ国中2位の営業成績を収める。2001年、ペリエ設立(現・HIROWA)。営業・コミュニケーションのための研修、執筆活動などを行う。
 

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(伊藤 達也 撮影=奥谷 仁)